[BlueSky: 868] Re:856 DDT使用禁止に?


[From] Minato Nakazawa [Date] Fri, 10 Sep 1999 19:07:46 +0900

中澤@東京大学人類生態です。

(件名:[BlueSky: 856] Re:779 DDT使用禁止に?に於て)
Fri, 10 Sep 1999 11:54:50 +0900頃,Katsumiさん:
> 先日,テレビ(ニュースではなかった)を見ていたら,マラリア撲滅
> (3種の,まだら蚊の駆除)に,DNA操作によって,「卵が出来ない蚊」
> や,「マラリアウイルス(ですか)のない遺伝,媒介」によって「撲滅」
> が進んでいる。或いは「放射線によって撲滅」と言うのを知りました。
細かいことですが,
マラリアを媒介する蚊は「ハマダラカ属」です。3種というのは
どこの話かわかりませんが,媒介する蚊の総種数は50以上あります。
もちろん,場所によって優占媒介種は決まっていて,一カ所での
媒介蚊は2〜3種以内の場所が多いですが。
※詳細は,http://sv2.humeco.m.u-tokyo.ac.jp/~minato/m3.htm
をご覧ください。

マラリアという病気を起こす寄生体(パラサイト)は,ウイルス
ではなくて,原虫です。蚊がマラリア原虫を媒介できなくすると
いう戦略では,伝播阻止ワクチンというのが期待されています。
患者に伝播阻止ワクチンを飲ませておくと,ハマダラカが患者の
血液からマラリア原虫を吸い込んでも,伝播阻止ワクチンも一緒
に吸い込まれるために,蚊の体内での原虫の増殖が抑制されると
いうアイディアです。これだと,人体や環境への影響が最小で
マラリア原虫の増殖だけをくい止めることができると期待されて
います。
※詳細は,http://sv2.humeco.m.u-tokyo.ac.jp/~minato/m6.htm
をご覧ください。

放射線によって,というのは害虫防除ではよくやられるやつですね。
ミカンコミバエを撲滅するのに,大量に飼育して放射線によって
不稔(授精能力のある精子を供給する能力がない状態)にしたオスを
放飼して成功した事例は有名です。しかし,ハマダラカの場合は,
ハマダラカ自体が他の蚊に比べて特別人体に悪影響を及ぼすのでは
なく,媒介されるマラリア原虫の方が人体に悪影響をもっているので,
ハマダラカを絶滅させることは倫理的に問題があるような気がします。

=====
Minato Nakazawa, Ph.D. <minato@sv3.humeco.m.u-tokyo.ac.jp>
Department of Human Ecology, Univ. Tokyo


▲前の記事へ ▼次の記事へ △記事索引へ △青空MLトップへ

(注)この記事が最新である場合,上記「次の記事へ」はデッドリンクです。