[BlueSky: 843] 一石三鳥(?)のアイディア


[From] Minato Nakazawa [Date] Thu, 09 Sep 1999 16:45:05 +0900

中澤です。こんにちは。

このメールは,時短政策という石を投げると,どういう鳥が何羽捕れるか? 
という妄想です。たんなる思いつきなので,ご批判いただければ。

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昨日,池袋で起きた通り魔殺人の犯人は,23歳で,新聞報道によると,「仕事が
なくてむしゃくしゃして」人を刺すという行為にでたと言っているそうです。こ
の犯人が人を刺すに至った真の原因はさておき,大卒者の40%に職がないという
現状は,若者の心から安定感を奪っていると思われます。

会社に就職する以外の道を探る(例えば,自給自足農業を目指すとか)というの
も一案ではありますが,経済の方で「雇用創出」ということが言われるのももっ
ともかと思われます。学習院の玄田さんがJapan Mail Media(村上龍さんのメー
ルマガジンでURLは,http://www.agey.co.jp/JMM/)で言っていたように,景気
対策としてのJob Creationなら仕事創出の方が正しいですが,今問題にしたい文
脈では景気をよくすることが目的ではないので,雇用機会を増やすにはどうした
らいいかという意味で,雇用創出を考えてみました。

そこで思いついたのが,就業時間を減らすことです。フランス社会党は,1997年
総選挙を,時短による雇用創出を謳って勝ち取ったそうです。それで,法定労働
時間が週39時間なのに,昨年6月に成立した時短法と,今秋成立予定の関連法案
の結果,週35時間にまで就業時間が短縮されるそうです。今でも米国人に比べて
年間41日も多くの休みをとっているフランス人が,さらに休みを増やすわけです
(出典:News Week 日本版,1999年8月25日号,pp.34-36)。1人当たり労働時
間が減れば,人手が必要になって雇用は増えるという目算でした。事実,失業率
は下がり始めたそうです。

News Weekでは,「短い時間でたくさん働かなければならないとしたら労働者に
とって罠である」とか「給料を減らさないと保証しているけれども財源が不明」
とか「世界経済に取り残される(から実際に時短されることはない)」とかいっ
た批判を載せていますが,論理的に考えれば,8人がそれぞれ10時間使ってやっ
ていた仕事は,10人が8時間ずつ使えばこなせそうです(仕事の質にもよります
が)。とすれば,フランスの政策と違って,時短の条件として新たに人を雇った
場合は,その分時短対象となった被雇用者の「給料も減らす」ことにさえすれば,
上の批判のうち前の2つは当たらないことになります。この条件なら,雇用機会
の増加,という1羽目の鳥は捕れるでしょう。

給料が減れば,一旦は生活が苦しくなるかもしれませんが,一社だけでなく国策
としてやっているなら,いつかは物価も下がるはずです。景気は冷え込むかもし
れませんが,増えた余暇時間で家庭菜園でもやれば,実際の生活はそれほど苦し
くならないかもしれません。経済,エネルギー面でコストのかかる遊びは廃れて,
持続的社会に近づくかもしれません。これが2羽目の鳥です。

たぶん,ここに最大の難関があって,収入が8割になるのを皆が受容するかどう
かは疑問です。ぼくは,個人的には,週休3日制ならば収入が8割でもいいです
けれど。
#念のためにいっておくと,研究者の多くは,研究=人生だと思うので,休みで
#も研究を(頭の中では)考えているように思います。休日とは,雑用が無い日
#ということです。

ところで,1つ残った「世界経済に取り残される」という問題は,食糧やエネル
ギー資源を輸入に頼っている日本では,大きな問題になりそうです。農業国であ
るフランスは,世界経済から取り残されたとしても大丈夫でしょうが,日本の場
合,眉村卓・福島正実「飢餓列島」(角川文庫)に出てきたような飢饉がやって
くるかもしれません。これを乗り越えるには,1つの国だけでなく全世界で時短
を実施して経済活動を減速するという夢のような,たぶん人間の進歩指向からし
て無理と思われる案の他に,「食糧自給率を上げる」という当たり前の案があり
ます。休耕田とかを活用すれば,人口1億でもほぼ自給にもっていくことは可能
だと読んだ記憶があります。この場合,新農業基本法[BlueSky: 78]の主旨にも
あるように,農村の活性化も起こり,里山も無理なく維持されるようになり,と
波及効果(すべてうまくいった場合,ですが)も期待できます。これが3羽目。

もっとも,時短をした当初は総体としての労働力は変わらないので,生産能力は
低下しない筈ですから,輸出レベルを落とさなければ「世界経済に取り残され
る」事態まで至らないかもしれないとも思います。

3羽の鳥にはおまけがくっついていて,どうも毎日新聞が昔の天声人語を盗用し
たとかいう話を聞くにつけ,最近は仕事が雑になっているのではないかと思うん
ですね。この原因が,忙しすぎるせいではないかと疑っているわけです。1人当
たりの労働時間と成果としての仕事量が減れば,その分,丁寧な仕事をすること
ができるのではないかと思います。好きな仕事であれば,自然にそうなると思う
のですが,いかがでしょうか?

ちなみに,時短後のフランスでも1日7時間平均は働いていることになりますが,
狩猟採集や焼畑農耕を生業としている社会の労働時間は,せいぜい1日あたり2
時間です。文化の複雑さに奉仕するために,忙しく雑な義務仕事をこなさねばな
らないとしたら,我々はなんて無駄なことをしているのだろうか? と思わずに
いられません。

#思いつき,としてはずっと暖めているのがもう一つあるのですが
#それは別メールにします。

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Minato Nakazawa, Ph.D. <minato@sv3.humeco.m.u-tokyo.ac.jp>
Department of Human Ecology, Univ. Tokyo


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