後藤さま、みなさま
広木@ICUです
> ●まず、生物学的に素朴な疑問から。
>
> 核ドナーの体細胞は、核ドナーが老化を開始してから(=成熟を完了し
> てから)不可逆的でランダムなDNA損傷を受けているものと思われま
> す。このDNA損傷は、ランダムな部位に起こるとされていますから、
> 除核卵との融合⇒発生再開を行っても、「元の傷ついていないDNAに
> 戻る」ことはありえないのではないかと思うのですが、どうなんでしょ
> うか?
はい、ありえませんね。
> ・・・或いは、このランダムなDNA損傷を免れる体細胞も少なからず
> 存在して、こういうものだけがクローン作成に成功できる細胞な
> のでしょうか?
多少傷付いたものでも成功するのでは?程度の問題ではないかと思います。ただし、
生存率は低下するでしょう。
> 同様なことは、核ドナー自身の初期発生過程におけるDNAのメチル化
> などの化学修飾についても言えると思うのですが、、、。
脱分極に関してはわかりません。すいません。
もっと大きな問題として、テロメアの消失があります。染色体を持つ生物は、その両
端に必ず「テロメア」という部分を持ちます。DNAの複製に際しては、RNAによるプラ
イミングが必要です。ラギング鎖では、短い鎖(岡崎フラグメント)を沢山作り、そ
れをつなげていくわけですが、そのさい、DNAポリメラーゼが間に挟まれるRNAプライ
マーを分解し、DNAに置き換えます。ところが、染色体の末端では、ラギング鎖では
上流からの複製伸長が行なわれませんから、RNAプライマーをDNAに置き換えることが
できなくなります。そのため、DNAは細胞分裂のたびに両端がどんどん短くなってし
まうのです。
それを防ぐのが「テロメア」です。これは、人間などでは確か6塩基の『テロメア配
列』という短い配列が非常に沢山繰り替えされているものです。生殖細胞では、テロ
メアーゼというRNA-タンパク複合酵素があり、それがテロメアの延伸を行ないます。
テロメアーゼが持つRNAは、テロメア配列と相補的な配列が2つつながったもので、
片方がDNA末端と結合し、もう片方を鋳型としてテロメア延伸を行ないます。
ところが、体細胞では、テロメアーゼは発現しません。この意義についてはいろいろ
説があると思いますが、まだ確定できてないように思います。また、それをここで論
じるのは適していないかもしれませんのでやめときます(ほんとーはよくわかってな
いんだろう!!はい、よくお見通しで(笑))。
ちなみにドリーでもこのテロメア配列は短いままだった、という報告がなされていま
す。現在、まだ体細胞テロメアを延伸する技術はないように思われます。でもすぐ出
来そうな気がしますが。
&&&&&&&&&&&&&&&&&&&&&&&
広木眞達(HIROKI, Masato)
国際基督教大学生物学教室加藤研究室
〒181-8585 三鷹市大沢3-10-2
TEL 0422-33-3269 (加藤研究室)
email address:hiroki@icu.ac.jp.
&&&&&&&&&&&&&&&&&&&&&&&
(注)この記事が最新である場合,上記「次の記事へ」はデッドリンクです。