[BlueSky: 737] 個体とは何か?  Re:730  昆虫の完全変態生物について


[From] suka@nacri.pref.nagano.jp (SUKA, Takeshi) [Date] Fri, 3 Sep 1999 16:08:35 +0900

須賀です。

個体とは何か、確かにむずかしい問題ですね。科学の用語は、科学者どうし
お互いに話が混乱しないようになるべく限定した意味につかわれます。けれ
ども実際には自然現象の方が多様で変異性に富んでいるのが普通なので、
きちんと定義したつもりでもそこからはみだしてしまうものがでてきて
しまいます(社会現象もそうですね)。

また、ことばには、科学者が考える意味と普通の日常会話でイメージされる
ものがずれている場合があるので、ここでも注意が必要です。でも、これは
科学用語にかぎった話ではありませんよね。ごく普通の単語でも、国語辞典
や英和辞典などをみると、1. 2. 3.・・・というふうに、ひとつの単語
に複数の説明があたえられています。このなかのどの意味でつかわれている
のかを理解しないと、意味がよく通じませんよね。

川口さん:
> > 幼虫も蛹も成虫も、働く遺伝子の組合せこそ異なりますが、DNAは同一です。
> > また脳神経系も幼虫から蛹を経て、成虫に受け継がれますから、同じ個体です。

ゲンゴロウさん:
> そうなんですか、、、脳神経(神経も脳の内ですよね)は、ずっと残って
> いるんですね。フーーム。。。
> ということは、もし、幼虫に、また蠅にも記憶があるとすると、
> 蠅になった成虫は「自分は、元はウジ虫だった」と分かることになりますね。
> だから、同じ個体。そうですね。

『岩波 生物学辞典 第4版』(岩波書店)では、「個体」を次のように
説明しています。
 <原則としては、空間的に不可分の単一体をなし、生活のために必要に
  して十分な構造と機能をそなえたもの。しかしそのような個体が集合
  し接着して群体をなす場合には、しばしば個体性が不明瞭になり、重
  複奇形などでも同様の問題が起る。>

わたしは、これを読んで、自分もこれとはちょっとちがったイメージで
「個体」をとらえていたことに気がつきました(実際にはかなりかさな
っていますが)。

わたしの発想の基本にあるのは、個体は繁殖の単位であるという考え方
です。ですから、一個の受精卵や胞子から成長して次の生殖細胞(卵子、
精子、胞子など)を産むまでのあいだのからだのかたまりを「個体」と
イメージしていました。川口さんのご説明も、このように解釈すると、
よくわかります。脳だけでなく、口でもいいのです。幼虫も蛹も成虫も、
一個の卵から発育して、途中で卵を産んだりすることなくからだの形を
かえていきます。卵をうむのは成虫ですから、そこまでをひとつながり
に「個体」と考えていいと思うのです。脳のなかで自分のことをどう
思っているかはこの考え方では無視しても、「個体」という考え方が
なりたちます。

でも以前にも話したように、ミツバチやアリでは、このへんがあやしく
なります。ワーカー(働きバチ・働きアリ)もそれぞれ1個の卵から
1匹ずつそだってきますから、確かに「個体」です。でもワーカーは
通常卵をうまない(たまに特別な場合に産むこともあります)。卵を
産むことは通常女王が独占していて、コロニー全体がセットになって
次の世代をうむことができる。それでこういうのを「超個体」という
のでした。

けれどもわたしの理解はハチやアリのイメージにたいぶんひきずられて
いるかもしれません。植物とか無性生殖するものなどを考えると、話が
さらにややこしくなりそうですね。

Takeshi SUKA
Nagano Nature Conservation Research Institute (NACRI)
E-mail: suka@nacri.pref.nagano.jp



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