[BlueSky: 708] 共有地の悲劇について経済学の見地から


[From] Kazubito Takagi [Date] Wed, 01 Sep 1999 23:42:24 +0900

どうもです,皆さん。先日入会し,はじめて投稿させていただく高木と申す
ものです。お見知りおきのほどよろしくお願いします。

さて,「共有地の悲劇」に関する皆様のメール,興味深く拝見させていただ
いてます。
私は経済学に興味を持っており,そこでも「共有地の悲劇」問題は重要なテー
マとして取り上げられています。以下,経済学の見地から見た「共有地の悲劇」
問題を一つの例を通じて示してみようと思います。

ある湖があったとします。この湖に,1000万円相当の魚が現在おり,毎年500
万円づつ漁獲できるとします。
ここで,たとえば,毎年の利率を10%とすると,

500万+(500万/(1+0.1))+(500万 /(1+0.1)^2)+・・・

等比数列の知識を用いて計算すれば5500万の収益が見込めるということになり
ます。これを10人の湖の漁業権共有者で均等に分配すれば一人当たり550万円
の収益を見込めるわけです。
さてここでもし,漁業権共有者のうちの一人が乱獲を始め,皆がそれに追随
したらどうなるでしょうか。このような状況になったら現在いる1000万円分の
魚を少しでも多く獲ることが各人にとってもっとも収益を上げる方法というこ
とになります。なぜなら,自分一人が乱獲をやめても他の人が魚を獲り尽くし
てしまうことは目にみえているからです。この場合,全体で1000万円の収益し
か上がらないことは明らかです。このように「共有」のシステムが破綻し,本
来上げられるべき収益が上げられないことを「共有地の悲劇」と定義できます。
一種のパズルのようなものですね。もし,広木さんのいうように,「『現在そ
の資源を使って得られる利益×利息』と、『将来得られる利益』のうち前者の
方が大きい」場合には,「共有地の悲劇」問題は考えにくいのではないかと
思います。なぜなら,「現在その資源を使って得られる利益」の方が大きいの
であれば,経済学的には現在の利益を得ることで,利益が減るということはな
いからです。

ここまで読んで違和感を覚えた方も多いでしょう。すなわち,今現在資源を
枯渇させてしまったらさまざまな不都合が実際に起きるのではないか,と。そ
れは,全くそのとおりです。しかし,この場合よく考えて見ると,損をするの
は,例に挙げた湖の例でいえば,漁業権共有者以外の人たちであり,もし漁業
権共有者が得るものよりも失うものが大きかったとするならば,それは経済学
上利益として換算することができないものが含まれているからです。この場合,
前者は「外部性」の問題を,後者の場合は経済とは違う尺度を考えることによっ
て解決すべき問題であり,いずれも「共有地の悲劇」として考える問題ではな
いと思います。

「共有地の悲劇」は興味深い問題だし,また非常に厄介な問題ですが,それ
を人間の性(さが)と結びつけるような議論はすこし違うのではないでしょう
か。「共有地の悲劇」を正しく理解した上で,それに対応した制度を考えてい
くことが必要だと私は考えます。

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KazuBito Takagi j8takagi@stw.or.jp


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