[BlueSky: 703] Re:685 :共有地の悲劇


[From] Minato Nakazawa [Date] Wed, 01 Sep 1999 16:57:19 +0900

中澤@東京大学人類生態です。

(件名:[BlueSky: 685] Re:684 :共有地の悲劇に於て)
Tue, 31 Aug 1999 18:34:21 +0900頃,SUKAさん:
> 市場経済や歴史的にそこから発展してきた産業資本主義の活動が、このような
> 状況を拡大してきた、と考えることはできないでしょうか。上記の論文でも、
> こうした動きに関連した資源への圧力が、共同体所有機構の崩壊につながる、
> としています。産業資本主義の活動がグローバル化して規模も拡大しているの
> で、この圧力はさらに強まりつつあるのかもしれません。しかしこうした状況
秋道智彌さんの「なわばりの文化史 海・山・川の資源と民俗社会」
(小学館ライブラリー123,1999年(単行書は1995年),税別790円)
でも,第6章でこのことが論じられています。
#前半では,日本でうまくいっていた共同体管理の例がこれでもか
#これでもかと出てきます。

しかし一方で,秋道さんは,国や宗教による資源管理の押しつけ
「規制」の危険さも指摘しています。

引用しますと,
>国や宗教団体から発せられる資源保護のメッセージが近代科学
>一辺倒の紋切型のものであったり,盲信的な宗教イデオロギー
>にもとづくものであるのなら,住民や地域の側にそれを受け止
>める素地は何もないとしかいいようがない。かえってそうした
>施策や考え方が,資源を破壊することにもなるということが
>ようやくわかってきたからでもある。
>近代的な資源管理や自然保護の思想が悪であるというのでは
>けっしてない。民俗的な資源管理の慣行や思想を無視しては,
>せっかくの科学的な試みが生きてこない。民俗の思想をとり
>入れながらすすめるのが最善であるということをいいたい。
>それでは,近代的ななかに民俗的な観念をも包含した自然観
>とは,いったいどのようなものであるのだろうか。そして
>具体的な管理の方法にどのように反映させてゆくことができる
>のだろうか。私なりのこたえとして,漂着物への観念が一つの
>ヒントになった。

漂着物は本来誰の物でもないので,いったん海岸についた時点で
その海岸を支配したり所有する人々や第一発見者がその漂着物を
所有するという慣行がある一方,漂着物にさわったり,利用する
ことを禁止することがあったそうです。この禁忌が,漂着物が
海の神や海の霊,さらには異郷の神がみを具現すると考えられて
いる場合に顕著だった場合が多いことから,秋道さんは次のように
考えます。
>たまたま浜に流れ着いただけの資源にたいして,人間がなんの
>躊躇もなく支配権や共同体的な占有権を主張し,争いや相論を
>くりかえしてきただけならば,そこには新しい自然観を考える
>なんのきっかけもないということになる。だが,漂着物がカミ
>として扱われてきたことは,自然と人間の関係を考察する上で
>重大なメッセージになるものと思う。
>つまり,人間は自然を認識しあるいは利用し,その所有権や占
>有について多くのしきたりや制度を生み出す過程で,カミという
>存在をつねに媒介項としてきたとはいえないだろうか。(中略)
>人間と自然のかかわりあいのなかで,カミ観念を媒介とする思考
>様式や自然観が多様な形で存在する。そのことによって,人間は
>自然の恵みと恐ろしさを享受してきたといえるのである。一方で
>カミが不在の自然観が,無制限な開発を是認し,環境を破壊し,
>資源を乱獲するという愚行を誘発した。他方,カミとともに生き
>てきた地元の人々の暮らしを無視してまで自然保護をすすめると
>いう環境保護の立場が,その美名に隠れて容認されてきた。

つまり,自然環境をたんなる資源とみるのではなく(開発にせよ
保護にせよ,たんなる資源と見るのは共通),それに対する「畏れ」
をもつことが,資源崩壊を防ぐ可能性があるということを主張して
いるのです。大雑把にいえば,ぼくが前のメールで触れた,文化に
よる規制ということに含まれるかもしれません。

だから,例えば「もののけ姫」を見せることは環境破壊や自然の喪失
を防ぐことに寄与するように思えます。もっとも,秋道さんが主張
するのは,地元の民俗管理ですから,外来の「もののけ姫」では
いけないのですが。「いまだに各地に残るなわばりの民俗に見いだす
ことのできる人々の知恵を,次世代に引き継ぐ」ことが大事だと
結論されています。一理あると思いました。

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Minato Nakazawa, Ph.D. <minato@sv3.humeco.m.u-tokyo.ac.jp>
Department of Human Ecology, Univ. Tokyo


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