[BlueSky: 685] Re:684 :共有地の悲劇


[From] suka@nacri.pref.nagano.jp (SUKA, Takeshi) [Date] Tue, 31 Aug 1999 18:34:21 +0900

広木さん、中澤さん、「共有地の悲劇」の牧場でともに草をはむみなさん。
     須賀です。

おくればせながら、中澤さんが紹介してくださったこの論文をざっと斜め
読みしてみました。
> David Feeny, Fikret BErkes, Bonnie J. McCay and James M. Acheson
> (1990) The tragedy of the Commons: Twenty-two years later. Human
> Ecology, 18: 1-19,昭和堂「エコソフィア」第1号,1998に,京大の田村
> 典江さんによる邦訳が載っています)。
<コモンズの悲劇は、環境研究、資源科学・政策、経済学、生態学、そして政治
 科学の分野でごくあたりまえの知識の一部となっているとともに・・・教科書
 にもとりあげられている。>
と書いてありますね。特に社会学・経済学などでタブーになっているということ
はなさそうな感じがします。

この論文では、共有資源に対する所有権をオープン・アクセス制、私的所有制、
共同体所有制、公的所有制の4つの類型に区分して分析しています。また、以下
のようにもことわっています。
 <これらは、分析上、仮のもので、実際には多くの資源の所有形態は重複して
  おり、時には対立し、また、各タイプには変異がある。>
そして、いろいろな実証例を比較検討したうえで、ハーディンは私的所有制や
公的私有制(国家による占有)が資源管理の成功への道をひらく、と考えたが、
実際には共同体所有制もうまくいく場合が多い、としています。つまり、共有
地といっても、オープンアクセス制と共同体所有制はちがうので、これを区別
するのがひとつのポイントになる、といっているようにわたしには読めました。
 <共同体所有制、私的所有制、公的所有制のすべてが成功と失敗の双方に
  関連しているのだ。>
とのことです。

中澤さん:
> 「自制」が生き残れないのは,ハーディンが仮定した(暗黙に仮定した
> ものもありますが),(1)オープン・アクセス制,(2)個人の振る舞いに
> 対する制約の欠如,(3)需要が供給を上回る状況,(4)資源の利用者が
> ルールを変更できない,などの条件が満たされ,かつ,共同体所有制の
> 可能性や文化的制約の可能性を排除した場合に限ります。

広木さん:
> この条件が満たされる場合は多いのでは?

市場経済や歴史的にそこから発展してきた産業資本主義の活動が、このような
状況を拡大してきた、と考えることはできないでしょうか。上記の論文でも、
こうした動きに関連した資源への圧力が、共同体所有機構の崩壊につながる、
としています。産業資本主義の活動がグローバル化して規模も拡大しているの
で、この圧力はさらに強まりつつあるのかもしれません。しかしこうした状況
の変化が部分的には「歴史的」に形成されてきたものだという視点は重要だと
思います。倫理、文化、共同体所有などは市場経済の「外部」にあるものなの
で、こうした視点をとりこんだ経済の見直しも、この問題に関わる課題のひと
つになると思います。読まずに本棚においてある植田和弘『環境経済学』
(岩波書店)という教科書の第9章は「環境資源とコモンズ」というタイトル
になっています(なかみは読んでいません)。経済学にくわしい方に何かコメ
ントしていただけるとありがたいのですが。

広木さん:
> 「努力」しなければいけない、これが曲者でしょう。「私は努力するからあんたも努
> 力しろ」、これが「わしゃしら〜ん」という価値観の前にどれほど無力なものか。

あはは、わたしも「努力」は好きでないので、気持ちはよ〜くわかります。
でも「自制」した方が楽しい、という状況が何かの拍子にでてきたら、他人
が「わしゃしら〜ん」と言おうがへいちゃらです。どんな状況がそれになる
のかは、書いているわたしにもわかりませんが(笑)。

広木さん:
> 社会慣習やタブーといったものが果たしてきた役割を意図的に作ろうとするわけです
> が、広めるべき「倫理」はどのようなものか、その策定段階での「異なる」文化(あ
> るいは価値観、利害など)の対立をいかに乗り越えていくか、それが次のステップで
> すね。

そうですね。このテーマについて、わたしもほかのいろいろな方の意見を
うかがってみたい気がします。
それではまた。

Takeshi SUKA
Nagano Nature Conservation Research Institute (NACRI)
E-mail: suka@nacri.pref.nagano.jp



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