[BlueSky: 684] Re:680 :共有地の悲劇そのさん


[From] HIROKI Masato [Date] Tue, 31 Aug 1999 16:57:30 +0000

須賀さま、みなさま

広木@ICUです。

> > つまるところ、「友愛」という行動は、対象が限定されるのでは?ですから私に
は、
> > 人対人の相互作用の対象が「はっきりしない」時に、自ら譲るという行動が「普
遍的」
> > にあらわれるとは思えないのです。
>
> そうですね。わたしもそう思います。そういう自らゆずるという行動がひろ
> まりやすい状況、というものを、ある程度努力して意図的につくりだし維持
> していかなくてはならない、というのがこの話の「教訓」なのでしょうね。

「努力」しなければいけない、これが曲者でしょう。「私は努力するからあんたも努
力しろ」、これが「わしゃしら〜ん」という価値観の前にどれほど無力なものか。

とかく「長期的な利益」というのは実感しにくいものです。ましてや次世代にそれが
あらわれるようなものであればなおさら。

> 広木さん:
> > 社会学/経済学では、このような考えは当たり前なのでは、と思っていましたが、

> > うなのでしょう。どなたか御存知ではありませんか?それともタブー?
>
> わたしは共有地の悲劇に関するこのギャレット・ハーディンのもとの論文を
> 読んだことがありませんが、これについて紹介したジョン・マコーミック
> 『地球環境運動全史』(岩波書店)の一節によると、
>  <ハーディンの指摘のように、共有地問題は目新しいものではなく、社会
>   科学では周知のことだった。ただ、新しかったことといえば、論争を巻
>   き起こした結論部分である。>
> とのことです。

そうですか、わかりました。ありがとうございます。

> このマコーミックの本によると、ハーディンのもとのたとえは、共有地に多
> 数のひとが牛を放牧した場合に、それぞれが自分の利益だけを考えて飼う牛
> の数をふやしたら餌となる草が足りなくなり、全員が共倒れになる、という
> もので、そこから環境汚染や人口の問題に警告を発したものだったようです。
> さらに、
>  <自粛は良心に訴えても実現できないが、「ある集団が合意したうえでの
>   相互的な強制」を通じてのみ、実現できる。その強制は、とくに人口増
>   加の抑制などにあてはまるだろう。>
> とあり、人口抑制の問題とむすびつけたことが、論争をよんだ大きな理由の
> ひとつだったようです。
>
> マコーミックの本の引用文献リストによると、ハーディンのもとの論文は、
> Hardin, Garrett, "The Tragedy of the Commoms", in Science 162:
> 3859, 13 December 1968, 1243-1248.
> だそうです。

私もハーディンは前のメールにあげた本しか読んでないので、これは参考になります。

> 確かに、大気などはグローバルにみてもコモンズとしての性格がはっきり
> していますが、森林など土地に関係するものには権利関係が複雑にからみ
> あってくるので、単純な考え方では切れなくなると思います。ハーディン
> の問題提起は、問題をあえていったん単純化・抽象化して思考実験をおこ
> なってみるときの出発点としての意味が大きい、ととらえることができる
> のではないでしょうか。

私がハーディンの本を読んだのは高校か浪人の時です。邦訳が出てすぐに買いました。
当時日本でも社会生物学が伊藤嘉昭さん等の紹介で根付きはじめた頃で、既に社会生
物学にどっぷり首まで浸かるどころか溺死していて、「純粋」なヒューマニズムに疑
問を持っていた私には、大きな衝撃でした。しかし、ハーディンを読んだことによっ
て私の行動が変わった、ということはありません。なぜか。良い悪いといった価値観
は、科学的知見の前に「先験的」に存在していると思うからです。ただ、思考の裏づ
け、思考のプロセスというのは確実に変わったと思います。

とにかく、人間行動の裏づけを知るという意味で、ハーディンの主張は須賀さんがい
うように「出発点」として重要である、と思っています。

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広木眞達(HIROKI, Masato)
国際基督教大学生物学教室加藤研究室
〒181-8585 三鷹市大沢3-10-2
TEL 0422-33-3269 (加藤研究室)
email address:hiroki@icu.ac.jp.
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