[BlueSky: 680] Re:677 :共有地の悲劇そのさん


[From] suka@nacri.pref.nagano.jp (SUKA, Takeshi) [Date] Tue, 31 Aug 1999 13:37:15 +0900

広木さん、「共有地の悲劇」の話題を共有するみなさん

      須賀です。
広木さん:
> つまるところ、「友愛」という行動は、対象が限定されるのでは?ですから私には、
> 人対人の相互作用の対象が「はっきりしない」時に、自ら譲るという行動が「普遍的」
> にあらわれるとは思えないのです。

そうですね。わたしもそう思います。そういう自らゆずるという行動がひろ
まりやすい状況、というものを、ある程度努力して意図的につくりだし維持
していかなくてはならない、というのがこの話の「教訓」なのでしょうね。

広木さん:
> 社会学/経済学では、このような考えは当たり前なのでは、と思っていましたが、ど
> うなのでしょう。どなたか御存知ではありませんか?それともタブー?

わたしは共有地の悲劇に関するこのギャレット・ハーディンのもとの論文を
読んだことがありませんが、これについて紹介したジョン・マコーミック
『地球環境運動全史』(岩波書店)の一節によると、
 <ハーディンの指摘のように、共有地問題は目新しいものではなく、社会
  科学では周知のことだった。ただ、新しかったことといえば、論争を巻
  き起こした結論部分である。>
とのことです。

このマコーミックの本によると、ハーディンのもとのたとえは、共有地に多
数のひとが牛を放牧した場合に、それぞれが自分の利益だけを考えて飼う牛
の数をふやしたら餌となる草が足りなくなり、全員が共倒れになる、という
もので、そこから環境汚染や人口の問題に警告を発したものだったようです。
さらに、
 <自粛は良心に訴えても実現できないが、「ある集団が合意したうえでの
  相互的な強制」を通じてのみ、実現できる。その強制は、とくに人口増
  加の抑制などにあてはまるだろう。>
とあり、人口抑制の問題とむすびつけたことが、論争をよんだ大きな理由の
ひとつだったようです。

マコーミックの本の引用文献リストによると、ハーディンのもとの論文は、
Hardin, Garrett, "The Tragedy of the Commoms", in Science 162:
3859, 13 December 1968, 1243-1248.
だそうです。

コモンズ(共有地)の問題への社会科学からのアプローチで最近わたしの
目にとまったものとしては、『環境社会学研究第3号』1997年(新曜社)
所収の「特集 コモンズとしての森・川・海」があります。わたしはこの
なかのすべてを読んだわけではありませんが、7人の方が論文をよせていら
しゃいます。そのひとつ井上真「コモンズとしての熱帯雨林 −カリマン
タンでの実証調査をもとにして−」では、コモンズを「グローバル・コモ
ンズ」と「ローカル・コモンズ」、「タイトなコモンズ」と「ルースなコ
モンズ」の2つの軸でタイプわけして考察しています。そして森林居住者
たちが政府やNGOの支援をうけながら「タイトなローカル・コモンズ」を
構築できるかどうかが、森林システムの急速な変容に対するオルタナティ
ブを構築するうえで重要、と結論づけています。

確かに、大気などはグローバルにみてもコモンズとしての性格がはっきり
していますが、森林など土地に関係するものには権利関係が複雑にからみ
あってくるので、単純な考え方では切れなくなると思います。ハーディン
の問題提起は、問題をあえていったん単純化・抽象化して思考実験をおこ
なってみるときの出発点としての意味が大きい、ととらえることができる
のではないでしょうか。



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