[BlueSky:06506] Re: 生き物と の出会い


[From] SUKA Takeshi [Date] Tue, 9 Aug 2005 19:44:47 +0900

須賀です。

葛貫さん:
> > 管理人グループの方々が、このMLを立ち上げられようと思われたとき、
> > 想定していらし感じとは、大分違うものになってしまったのではないか
> > 仕切りなおしたい、と思われることもあるのではないか、と、時々、
> > 思ったりするのですが、今まで投稿を保存しつつ、この場を継続して下さ
> > っている。設立目的に近づけるものになるといいですね m(_ _)m 。

中澤さん:
> 個人的には,議論だけではどうにもならないような閉塞感を感じることも
> 時々あります。けれども,議論が必要なことも確かだと思います。
> # 昨今の国会みたいな議論放棄→強行ではダメでしょう。

遠くからみていると、何をやっているんだか、と思ってしまうような
ことでも、よくよく話をきいてみると最初に思った以上にこみいった
深い話であることがわかる、というようなことがよくありますね。
わたしはこのメーリングリストでそういう経験をたくさん味わって
きました。

最近、ユクスキュル/クリサート著 日高敏隆・羽田節子訳『生物から
見た世界』(岩波文庫)という本をよんでいたときにも、そのことを
考えました。(この本は1942年と1973年にも翻訳が出ていて、動物行動
学の分野では有名な本なのだと思いますが、わたしはずっと前から気に
なりながらよんでいなくて、最近岩波文庫に入ったのをきっかけに
よみました。)

この本のなかでは、いわゆる客観的な「環境」とは別に、動物がその
知覚や運動を通じてそれぞれ主体的に意味づける「環世界」があること
が説明されています。くわしい内容はこの本をよんでいただくのがいい
のですが、たとえば、同じ部屋という「環境」でも人間と犬とハエと
では、それぞれ壁や椅子や電灯や食器などがちがった意味をもっていて、
それぞれにちがった世界が見えているのだ、というようなわけです。

訳者あとがきで、日高敏隆さんがこんなふうに書かれています。
“けれど動物行動学の仕事にたずさわるようになってみると、環境も
 もちろん大切だが、その中から動物たちが自分にとって意味のある
 ものとして選びだし、それによってつくりあげている環境世界の
 ほうが、動物たち自身にとってもっと重要なものであることがます
 ますよくわかってきた。コンラート・ローレンツも示している
 とおり、それを考えずには動物の行動は理解できないのである。”
   (中略)
“人々が「良い環境」というとき、それはじつは「良い環世界」の
 ことを意味している。環世界である以上、それは主体なしには
 存在しえない。それがいかなる主体にとっての環世界なのか、
 それがつねに問題なのである。”

そしてここからはわたしの考えですが、人間の環世界も、時代や文化
や立場や関心などによっていろいろです。けれども人間はことばなど
をやりとりすることで、お互いに環世界を広げたり、ちがった環世界
への想像力をふかめたりすることもできます。

そしていわゆる「環境問題」の多くは、いろいろな活動の相乗効果で
ひとりひとりの環世界の範囲をこえて互いに影響をあたえ合っています。

それは他の生物の環世界をおびやかしている面もありますし、それに
よって、人間のそれぞれの環世界に対する自然界からのサービス(恩恵)
のあり方を(大局的にはおそらく負の方向に)変えつつある面もあると
思います。

こういう影響にはだわからないこともたくさんありますし、どういう
選択をすればいいかについては、なおのことむずかしい判断がもとめ
られていると思います。それでも少しでも確実な方向にむかって進もう
とするなら、お互いに環世界をひろげ、それについての想像力を豊かに
もつことにも意味があるのではないでしょうか。そういう意味で、これ
までこのメーリングリストはとても多くのことを教えてくれる場でした
し、これからもそうであることを一参加者として願っています。

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須賀 丈(SUKA Takeshi)
〒381-0075 長野市北郷2054-120
長野県環境保全研究所(飯綱庁舎)
自然環境チーム 動植物生態ユニット
Tel: (026)239-1031 Fax: (026)239-2929
E-mail: suka-takeshi@pref.nagano.jp



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