[BlueSky: 609] Re:608 昆虫の標本


[From] keimika@246.ne.jp (Keiichi Hino) [Date] Thu, 26 Aug 1999 15:24:13 +0900

BlueSky-MLのみなさん こんにちは。
東京/世田谷在住の日野です。

昆虫採集&標本論ですが、これまた難しい考え方ですね。
確かに河野さんや広木さんがおしゃるとおり、学術的に必要な
部分があります。系統学なんかの発展は、標本がなければ
絶対に進化しません。どこまで細かく追及するか? にかかりますが、
極端な話、昆虫の世界は脚の爪が3本か4本かで種の分化になることが
あります。そんな時には、それが特異的なことなのか? それまでの
進化過程の歴史のどこにポイントがあったのか? などの判定には標本が
重要になります。

これは昆虫のみならず植物も一緒で、世界共通名の「学名」の決定にも
標本は必要となっているようです。

ただ、ここで注意をしなければならないのは、その収集を学術的に
貢献できるような目的意識があるか否かだと思うのです。ポイントは二つ。
1つは、趣味で「並べると奇麗だから」という観点での標本化。

これは趣向主観の問題なので、「絶対にそれはいけない」とは言えない
ことだと思うのですが、自己満足を満たすための殺生は、「スカッとしたい
から、サラリーマンのオヤジを殴った」というオヤジ狩り集団と同じように
思えます(ちょっと暴言かもしれませんが)。よく、切手のコレクションと
同じと表現される方がいますが、大きな違いは「命」が存在するかしないかです。

2つ目は、商業的目的で標本化をしていること。
これも法的規制がかかっていない限り自由なんで、完全に倫理観の問題。
体長80mmのオオクワガタが、10,000,000円。ポルシェ一台分です。
同じ10,000,000円出すなら、オオクワガタが生息できる森林を残すか
つくるかに資金提供して欲しかった。

結局あれを購入した人は、オオクワガタに価値を見い出したのではなく、
10,000,000円に価値があった。だから極端な例えモンシロチョウにその価値が
急についた場合、それでもよかったのだと思います。たまたま今はオオクワガタ
だっただけ。

あのオオクワガタはもう殺されているかもしれない。
なぜなら10,000,000円の体を10,000,000円の価値のまま残すためには、
長く生かした結果、触角や脚が折れると困るから。
まぁ一度くらい卵をとることをするかもしれませんね。
「あの10,000,000円クワガタの子孫!」と売り出すために。

記録として80mmというのを、ちゃんと10,000,000円出資した人には
残して欲しいですね。論文書いて、国立国会図書館にでも寄贈したらいいと思う。
「どういう経緯で発見、または飼育でき、どんな環境で育ったのか?」

僕は大学や専門研究機関に所属していなくても、ちゃんと後世に研究記録を
残そうという姿勢がある人は、一般人だろうと立派な研究者だと思っています。
どうも日本にはその辺の偏見があるのでイヤなのですが。

嫌味はこれくらいにして。


昆虫採集&標本化については、研究レベルの話とコレクターマニアを
混同して議論しない方がいいと思います。


ただ、コレクターマニアについても全面否定するわけではありません。
もちろんインパクトの少ない場所で、インパクトの少ない種類を採集する
のは、良心の呵責が許せる範囲で、また自己責任を負えるという覚悟があれば
いいとも思っています(でも、この自己制御というのが一番難しい)。
他に子供たちの成長過程の中に、昆虫採集や標本化という手段が
選択肢の中にあってもいいと思う。ただこれは、採集していい時期、
駄目な時期を見極めることを、ちゃんと子供に伝えられる構造が、その
地域にあるかないかに関わってくるでしょう。

産卵期のオオカマキリのメスを発見! お腹はパンパンに腫れ、
もう間もなく産卵だ! そんな時にどうするか?
それを考える知恵を人間がなくしていたら、採集はやめたほうがいいと思う。

僕は小中学生時分、ずいぶんと世田谷周辺で昆虫採集&標本をやった。
おかげでどんな昆虫がいたかは、いまでもしっかり覚えている。
そして今何が少なくなったかも感じられる。
観るだけでは味わえない感動があるのも確かです。


最近の学校教育の中での「夏休みの標本づくり」は昔にくらべ
かなり減ったと聞きます。是非はともかく、このMLを読まれている
教育関係者の方で、ご自身の地域で標本を課題にしていらっしゃる方に
お伝えしたいのは、宿題としての標本で終わるのではなく、
それをどうか地域の情報として生きるよう膨らませてあげてください。

その地域の図書館にデータを提供するのもより、
公民館などの一部を借りて発表会をするものよし。
なにしろ学校の中で、その情報が眠ることのないよう工夫してみてください。
けっこう面白い内容になると思いますよ。
こういうのも立派な研究だと思いますよ。


ではでは


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