[BlueSky: 607] 自然の事,昆虫の事


[From] HIROKI Masato [Date] Thu, 26 Aug 1999 13:17:27 +0000

喜多 様、MLの皆様

広木@ICUです。このMLは非常に投稿数が多く、フォローするのがたいへんですね。
読むだけで精一杯。何か発言を、と思うのですが、なかなか。

喜多様の投稿、ちょっと来になりましたので、一言。

> 私は自然の昆虫などを,自然の状態で見るのが好きだ。以前,私の大阪の知人で,

> 良い物を見せて上げる」と言って,大きな箱を抱えきれない位持って来たのがいる。
> 包を解くと,何と「昆虫の標本だ」
> ,私は彼の精神を疑った(笑)。先日もある昆虫学者が「昆虫の標本造り」と言っ

> ,子供達に,昆虫の背中に針を指すのを教えていた。私には理解できなかった。彼

> は「昆虫が飯より好きだから,針を指した昆虫を標本にしている」らしい。私は外

> も数か国行ったが,たまたまかも知れないが,この「背中に針を指した昆虫標本」

> る物を見た事がない。これもテレビで見たが外国(ヨーロッパ)の博物館等では「

> のままの形を机の引出形式の入れ物で保存している」のを見た。あの「昆虫を針で

> して見える様にガラス張りの箱で保存」は外国から来た物か,それとも日本で考え

> れた物なのか。もしかしたら,私でさえ嫌悪感を感じるのだから「西欧人」はあれ

> 「動物虐待」と思わないのだろうか。

「動物虐待」と思う人、結構いるのでは。でも皆さん、ちょっと待って下さい。

昆虫標本を針でさして保存するのは、標本の管理に重要なことです。死んだ虫を「そ
のまま」の状態で保存すると不用意な衝撃ですぐに壊れてしまい、きちんとした管理
が出来ません。

昆虫標本作成は、昆虫の系統分類を行なう上で必要不可欠なものです。同じような状
態で保存された標本でなければ、お互いに比較検討をすることも難しくなります。

「針で刺さない標本」というのは、まだ未整理の物ではないでしょうか?博物館には、
人手が足らなく未分類、未同定のまま保存されている標本が沢山あります。それをそ
のまま公開することもあるでしょう。

一体この地球上にどれだけの種類の生き物がいるのか、それはいまだに分かっていま
せん。それを知る上で、昆虫標本は、非常に重要です。ちなみに、生き物の中で最も
多様なものは昆虫であるといわれています。私はバクテリアの方が多様だと思います
し、「線虫」が一番だ、という方もいます。いずれにしても、とても繁栄した生きも
のであることは間違いありません。それを体系だって調べることは、重要な作業であ
ると思います。

「博物館なり、公的な場所で採集したものがあれば、充分ではないか」とおっしゃる
方もいるかもしれませんが、そうとも限りません。同じ種類の物であっても、生息場
所が異なれば色々な違いがありますし、同じ地域にすむものでも、個体群間の移動な
どによって、構成個体の性質が経時的に変化していきます。ですから、好事家の方が
集めた標本であっても、採集時期や場所が明らかになっていれば、非常に価値のある
資料となります。逆にデータが不完全だとほとんど価値が無いものになります。

> 忘れもしない,私は父が亡くなった高校2年の時,山口県の秋吉台に行った。当時,
> 私は野球が上手かった。秋吉台で,とんぼが飛んできた。私は何気なく,とんぼを

> がけて小石を投げた。見事に命中し,あろう事か,とんぼの首が「ぽろり」と取れ

> 。以後ん十年,私は出来る限り(ごきぶり,蚊,蝿などは捨ておけない)「無益な

> 生」はしないと誓っている。

御意。無用な殺傷は推奨すべきものではありません。ただし、昆虫標本は1個体だけ
あればよいものではありません。生きものには全て「変異」というものが存在します。
その「ばらつき」のなかから、その生き物グループの代表的形質を調べるためには、
多くの標本を比較検討する必要があるのです。

昆虫採集は虫を絶滅に追いやるものとして非難する方が時々おりますが、それよりも
開発などによる生息環境の減少のほうが、実ははるかに昆虫の生存に危機をもたらす
ものなのです。

なぜ「標本」をつくるのか。その本質を分かって下さい。多くの場合、あくまでも、
「自然の多様性」の理解のために行なっているのです。

ちなみに、私個人としては、昆虫採集/標本製作の趣味はありません。時々やります
が。

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広木眞達(HIROKI, Masato)
国際基督教大学生物学教室加藤研究室
〒181-8585 三鷹市大沢3-10-2
TEL 0422-33-3269 (加藤研究室)
email address:hiroki@icu.ac.jp.
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