[BlueSky: 5894] Re:5893 補足 ( 海の希少種)


[From] "Yamaguchi" [Date] Wed, 10 Mar 2004 07:25:53 +0900

須加さんの問いかけの一部に説明不足だったと思いますので補足します。

希少種が貴重→保護、という自然保護運動のワンパターンを批判した意味ですが、
海、特に熱帯海域の生態系の基本的な特徴として種の多様性があります。
この多様性の中身を見ると、いくつかのグループで放散進化による近縁種の
多数の種への分化の結果であると見ることができそうです。そして、その中を
もっとよく見ると、比較的少数の勢力の強いものと多数の「希少」なものとから
構成されています。さらに、遺存的なものと見られるような「希少」種が多数ある
ことも特徴的です。地質時代の熱帯海域の物理環境の安定性がその要因かも
知れません。

熱帯海域の生物相を精査すれば、ものすごく多数の「希少種」が出現するし、
見た目が似ているために混同されているものが多数出てきます。つまり、
希少種というのは、変な逆説ですが、珍しい存在ではないのです。そして、
生物地理的な分布がとても広いことも指摘しておきます。熱帯海域の生物
調査はα分類の段階でさえ、まだまったくの未整理状態です。(熱帯降雨林
でも同様でしょう)本当の意味での希少生物も多数ある一方で、地域ごとに
見かけ上の希少種が無数にあるような姿を考えてください。陸上の脊椎動物
を基準にした野生生物保護の考え方を熱帯の海に当てはめるのは無理です。

泡瀬干潟が話題になっていますが、それに引っ掛けて具体例で説明します。
海草の珍しい変なものが出たといって騒がれていますが、それはさておき、
地元民が昔から干潟で捕獲して食べている小型タコ類について述べます。

現在大学院の学生さんが精力的に調べていますが、沖縄沿岸の浅瀬には
学問的な名前のない小型タコ類がタコサンいるようです。いったい全部で
何種類いるのだろうと気にしているのですが、同じ場所で細かな生息場所
ごとに複数いるし、干潟でも砂泥地や岩石や転石の多い場所など、そして
リーフの礁原部などでそれぞれ少しずつ形態と習性が違う連中が見つかり、
カウントが止まるのはいったい何時になるだろうか、という状態です。
これは沖縄だけでなく、熱帯海域全体で同様であるらしいのはオースト
ラリアの研究者との交流でわかっています。近々、新種記載ラッシュが
続くでしょう。

泡瀬干潟でもタコとりが盛んです。ここにいる種類では、もっとも多い奴は
他の場所でも普通に見つかるのですが、数が少ない奴らはいったいどこで
どうなっているのかまだわかりません。また、形は同じと見られても、他の
島々では微妙に生態が異なるようなのです。分子遺伝情報から解析する
以前の段階でも、初歩的な分類を整理するだけで大変な仕事になります。

私が一番心配しているのは、身近な沿岸部でごく普通にいた生物たちの
姿が減少傾向を続け、あるいは地域的に消滅していることです。「希少」
な生物を守ろうなどという都会人の趣味的な世界には違和感があります。

山口


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