[BlueSky: 5745] Re:5722 緊急提案「学


[From] "suka" [Date] Fri, 30 Jan 2004 20:23:23 +0900

和尚さん
        須賀です。

和尚さん:
> 貴方の県には田中さんと言う破戒大好き知事がいるじゃないですか。
> 私は彼の全てが良いとは思いませんし、どちらかと言うと近づきたいとは
> 思わない人ですが、「私は他人と違う」と言って憚らないキャラクターは
> 今の社会には貴重至極と言わざるを得ません。そのためにも、何か腹に抱
> いて彼に直訴と言うのも一案ではないかと思いますが。必要とあれば応援
> に駆けつけますよ。

頭のなかであたためているアイデアがないわけではありません。
とはいうものの、かなり大きな構想で、わたし自身にもどこから
手をつけたらいいのかよくわかっていないところがあり、今のところ
準備中という状況です。必要な知識をもう少し頭に入れなくては
いけませんし、県だけでなく地域住民の方や地元の市町村、大学、
国などにも協力をいただかなくてはならないだろうと思いますので、
そのなかで県の位置づけなどについても整理する必要があります。
今の知事の在任中に全部ができあがるというものではおそらくあり
ませんので、計画をいくつかの段階にわけ、立ち上げの段階での
青写真をえがく作業も必要です。それに和尚さんがおっしゃるように、
手をつけたひとの「結果責任」のようなものも問われることになるで
しょうから、わたしのように気のちいさいものは慎重にならないわけ
にはいきません。

けれども、こんなふうに躊躇したままではいつまでたっても動き
はじめることができないということにもなりかねませんから、和尚さん
の行動力にみならって、まずラフスケッチのようなアイデアをみなさん
お話してたたいていただいて、動きながら考えるということも必要かな、
と思いなおしました。

ひとことでいうと、信州の自然を舞台として、自然史や自然環境に
ついての研究・調査・教育・観光・保全を一体化したような人的ネット
ワークのしくみをつくりだすというものです。

アイデアのもととなっているのは、パナマにあるスミソニアン熱帯研究
所のバロコロラド島の研究施設や、コスタリカのラセルバ研究施設、
グアナカステ保全エリアなどでおこなわれている活動です。これらの
場所は、野外研究のすばらしいフィールドとその研究施設をもち、
活発に研究がおこなわれているだけではなく、その場所を舞台に野外
学習やガイドつきのエコツアーがおこなわれており、自然の奥深さや
それらの研究のおもしろさを参加者のレベルに応じた体験を通して
からだにきざみこむことのできる機会を提供しています。またそれらの
活動や情報がその場所の環境の保全に活かされています。

エコツーリズムや野外学習は、わたしの経験では、実際の研究や調査
が動きつつある現場をフィールドとして体験することで、その「わくわく感」
がずっと大きなものになります。おそらく、それによって、自然界にまだ
まだ未知の領域が広大にひろがっていていることや、それらについて
どんな研究がすすみつつあるのかを感じることができるからでしょう。
いろいろな生物やその生息環境をからだを動かして五感で感じる快感
と、未知の世界にいどむときの知的な快感を一緒に味わうことができ
ます。

これは反省もふくめていうのですが、通常よくおこなわれる自然観察会
などでは、自然についてすでにわかっていることを解説するというかたち
をとることになりがちな傾向があるのではないでしょうか。そのことには
そのことの意味があり、その面白さがあることも事実ですが、その同じ
場所で現に別の研究がすすみつつあることを知らされると、面白さは
倍化します。しかし、そういう情報までふくんだ自然解説をおこなうのに
はかなりの知識と経験が必要ですし、それを支える相当な人的ネット
ワークの支援がなくてはなりません。

また、もうひとつの留意点は、そのフィールドを単に「自然」一般を代表
するものとしてあつかうのではなく、独自の進化的・歴史的・地理的
特徴をもった場所として紹介できるようにすることです。

パナマやコスタリカに有名な研究施設やエコツーリズムのサイトが
あるのは、この場所が、南北アメリカ大陸の一番細くなったところで、
ローラシア大陸とゴンドワナ大陸で起源したそれぞれの動植物が
交じり合うルート上に位置していることと関係があります。そして、
エコツーリズムの解説でも、(わたしの数少ない経験では)たいてい
そうした地誌的背景についての紹介がありました。またそのことが、
見聞きする動植物についての印象をふかめてくれました。

こういう「独自の進化的・歴史的・地理的特徴」についての知識が
その場所の自然の印象をいかにふかめてくれるかについては、
ガラパゴス諸島、ハワイ諸島、マダガスカル島、ボルネオ島、
スラウェシ島、小笠原諸島、南西諸島といった「島々」が、その自然
の貴重さでしばしば注目されることからも想像することができます。
実は、このような背景は、地球上のどの場所にでもそれぞれ独自
のものがあります。けれども小笠原や南西諸島にかぎらず、日本
列島は「島々」ですから、世界的にみてもおそらくこういう独自の
特徴を色濃くもった地域のひとつであると考えられます。今の標準
的な学校教育の課程では、こういう自然史をまとまったかたちで学ぶ
機会がほとんどないのではないでしょうか。ブラックバスなどに代表
される移入種の問題も、こういう背景への理解があってはじめて、
その自然環境への影響のもつ歴史的な意味について考えることが
できるようになります。

信州の自然環境はひとが生活してきた里山地域から高山帯まで
の幅広い標高差をふくんでいますから、異なった地史的背景を
もった多様な動植物に生活の場所を提供しています。まだまだ
わからないこともたくさんあり、研究テーマもいくらでもあります。
すでにわかっていることもたくさんありますが、それらの情報は
いろいろな文献や私蔵の標本などに散在していて、必ずしも
わかりやすくまとまったかたちで整理されてはいません。

こういったものを、上で例にあげたパナマやコスタリカの例にある
ようなかたちにまとめあげていくのは簡単なことではありません。
人的なキャパシティーの面からも、長野県自然保護研究所の
ような少人数の施設だけでできるようなことでは到底ありません。
全国や地元の大学、博物館、市民グループなどとの連携を考え、
企業、市町村、県、国などからのサポートも期待しつつ、寄付など
の受け皿ということを考えても、独自の運営主体(NPO?)をつくら
なくてはいけないのではないかなどと考えています。

この運営主体が、研究者の受け入れやそのコーディネート、
必要な宿泊施設や機材・情報などのサポートをおこなうほか、
情報を整理して野外学習のプログラムを提供したり、エコツアー
の支援(ガイドのトレーニングコースの提供など)をおこなうといった
ことを考えています。箱物はなるべくつくらないでできるだけ既存の
ものを活用するとしても、たとえば野外調査や野外学習の拠点など
を借りるための交渉は必要ですし、あちこちの博物館や標本庫を
ネットワーク化して標本の保存の体制をととのえ、情報を検索できる
ようにするサービスなども必要でしょう。ですから、生物学者だけで
なく、教育活動やマネージメントの能力などさまざまな専門的能力を
もった多数の方々の協力が必要になります。

首都圏や中京圏、関西圏からもそれほど遠くありませんので、
いろいろな方からのサポートも受けやすいのではないかと思うの
ですが、いかがでしょうか。

こういうしくみがうまく回転していけば、国や自治体などさまざま
な主体がおこなう自然環境の保全対策にこれまで以上に充実
した情報を提供することができるようになるでしょうし、学校などが
おこなう野外学習の選択肢をひろげることや、住民が地域の環境
をみなおしたり、新しい観光のあり方を振興したりすることにも寄与
することができるようになるのではないでしょうか。とはいえ実は
わたしの本心は、自然史(ナチュラルヒストリー)の世界の面白さを
ひとりでも多くのみなさんと自然のなかで分かち合いたいというところ
にあります。

このように書いてくると、やはり、この構想をあたためる段階から
いろいろな方の意見をうかがって、さまざまな視点から肉づけを
していくのがよさそうに思えてきました。

これはまだわたしのあたまのなかにぼんやりとあったことをなんとか
文字のかたちにしてみようと思っただけのものですので、あいまいな
ところもたくさんありますし、きびしくたたかれるとすぐにへなへなと
なってしまうようなものかもしれません。それでも、もしもご意見を
いただければ、それが新しい視点をもたらしてくれることになりますし、
もしかしたらほかの場所で似たようなことを考えていらっしゃる方々へ
のご参考になるかも知れません。ご意見をいただけましたらさいわい
です。

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 須賀 丈(すかたけし)
 長野県自然保護研究所
 電話: (026)239-1031
 Fax: (026)239-2929





















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