[BlueSky: 5263] Re:5256 「環境保全」


[From] "suka" [Date] Wed, 30 Jul 2003 22:38:02 +0900

西本さん 葛貫さん みなさん

     須賀です。

西本さん:
>  色んな時間軸を念頭に置いてなお「いま」の自然を守ることを
> 選択するということは、人間にとって都合のいい自然を守るという
> ことに他ならず、どこまで行っても人間中心主義から逃れられない
> と思います。エゴと言われようが思い違いと言われようが、
> 人間が・人間のために・やっている行為であるということに
> 向き合わないと、と思います。

おっしゃるとおりだと思います。自然を人間のエゴや思いあがり
から自由にしたい、というのも、考えてみればひとがもつ「思い」
のひとつですからね。その「思い」をも大切にしたいと「思い」つつ、
そのことには向きあわなきゃな、と感じました。

葛貫さん:
> でも、サンクチュアリにでもしない限り、保全とか保護とか考える
> 場合、植生とか、動物の分布密度等を保つだけではなく、そこで生
> 活する人の生活の質もかかわってくるわけですよね。

そうですね。保全とか保護とかについて考えることは、ほとんど
いつでも、そこで生活するひとたちやそこをおとずれるひとたちの
ことについて考えるということではないかと思います。

葛貫さん:
> 現地の人がどんな生活を望むか、その最大公約数的な着地点をみつ
> けるのも、かなり大変でしょうね。

そうですね。そして、それについては、いつでも現場で、その場所の
状況に即して考え、話しあって着地点をみつけていくしかないのでは
ないかと思います。ほかの場所のことはヒントにはなっても、なかなか
一般的なこたえにはなりにくいように感じています。

こんなふうに感じるのは、遠くからながめることしかできない者の腰の
ひけた態度なのかもしれませんが。

葛貫さん:
> 現実に、政治的決定をするとき
> は、何らかの指標を決めて、数値化して、統計処理をして・・・
> という過程を経ることが多く、指の間だから砂が洩れるように、
> 大切なものが取り零されてしまいそうな気がします。
> 現地だけではなく、そこに暮していない外の人からの思い入れのよ
> うなものも入ってくるわけで。

これは、たとえば国ごとのマクロな経済指標(ひとりあたり国民総生産
とか政府の赤字とか?)をもとにして援助機関が開発援助の方針を
きめたりする、といったことでしょうか?

葛貫さん:
> コスタリカというところは、生物保護区を設定したり、エコツーリ
> ズムを導入することで、現地で暮らす人達は、それなりに満足でき
> る生活ができているのでしょうか。

ご存知のとおり、中米のコスタリカは、国内にたくさんの生物保護区
や国立公園を擁し、そういった場所を利用したエコツーリズムが外貨
収入の大きな部分を占める国として知られています。その国が実際に
はどんな様子なのだろう、何事も自分でみてみないとわからないことは
たくさんあるからな、と思って、この4月に2週間ほど、休暇をとって
コスタリカに行ってきたでした。そしてもちろん、葛貫さんがたずねて
くださったのとよく似た興味がわたしにもありました。

それで、どうだったか、ということになるわけですが、正直なところ、
手短にお話しするのはとてもむずかしいです。

何がわかったかとひとことでいえば、安易な一般化はやはり通用
しない、ということがわかりました。そのことがとても面白かったのです。

そのことは、たかだか2週間くらいの訪問で、あわせて数箇所の
国立公園や生物保護区をたずねたくらいで何事かをおおやけの
場でお話しするのはまことにおこがましい、という思いともむすび
ついています。

けれどもこれではご不満でしょうから、無謀を承知で、簡単に印象を
書きます。これは、コスタリカの現実そのものというより、あくまで
わたしが旅をつうじてうけた印象にすぎません。

生物保護区やエコツーリズムの導入によって現地のひとたちの
生活がそれなりに満足できる生活ができているかどうか、という
ことですね。

これは、おそらく国立公園や生物保護区によってもちがいますし、
同じ場所でもそのひとがそれにどのように関わっているかによって
ちがうのではないかと思います。ひとことで国立公園や生物保護区
といっても、運営形態はいろいろのようです。そこに地域のひとたち
が関わるありかたもまた一様ではありません。

印象にのこっている話をふたつだけあげます。

モンテベルデ雲霧林保護区でバードウォッチングのガイドをして
くださった方は、以前は牧場で牛を飼っておられたそうです。

コスタリカでは、牛の放牧のため、ひろい面積の熱帯林が伐採され、
その肉は多くが米国に輸出されていました。「ハンバーガーコネクション」
として知られる話です。その牛肉の価格が落ちたとき、コスタリカ
は経済的に窮地におちいった、という話をきいたことがあります。

ところで、以前牧場で牛を飼っていたというそのガイドの方は、
根っからのナチュラリストで、この仕事は大好きだ、とおっしゃって
いました。わたしたちツアー客にはみつけることのできない鳥を森の
なかでみつけ、望遠鏡をセットしてわたしたちにみせてくれました。
わたしたちはそのバードウォッチングに時間をたいへん楽しみ
ました。小さい頃から自然に囲まれ、鳥をながめてくらしてきた
からこの仕事ができるようになったんだろう、とおっしゃっていました。
ガイドという仕事について、別の面からはこういうふうにも話して
くださいました。わたしたちがたずねたときは、ちょうど対イラク戦争
がおこなわれている時期で、観光客がガタッと減っている時期でした。
このような状況に直面すると、エコツーリズムのガイドという仕事が、
遠くからくるツーリストに依存した不安定な仕事だということも感じる、
その面では、牧場の仕事のほうが地に足のついた仕事という感じが
した、今後はコスタリカ国内や中米の近隣諸国からもっと低コスト
できてもらえるような旅行業を開業したいと考えている・・・といった
話をしてくださったのです。

もうひとつは、グアナカステ保全エリアで働く国立公園の職員の
方からうかがった話です。

・・・この国立公園でも、1980年代の半ばまでは、世界の途上国にある
ほとんどの国立公園とおなじように、少人数のレンジャーが銃をもって
パトロールし、密猟をとりしまるというだけのものだった。国立公園
の森は毎年、牧場などとして周囲から侵食され、面積は年々縮小
していた。働いているのも10人くらいだった。

その後、運営の方針が大きく変った。中央政府からの自立をめざし、
海外からの寄付をあつめてその利子で地域住民を雇用し生物多様性
の研究をおこなったり、小学校の正規の課程として国立公園の
フィールドをつかった生物学教育をおこなったりするようになった。
また、放棄された牧場や農場跡を購入して国立公園の面積をふやした。
その結果、国立公園は大きく広がり、雇用されているひとの数も
100人くらいになった。

けれども、数年前から中央政府のしめつけにあい、公園の運営は
たいへんな打撃をうけた。今年のはじめに環境大臣がかわったので、
状況は好転しつつある。これから、また分権化にむけて軌道修正
をすすめていきたい。・・・

・・・この方からは、3日間で合計10時間以上の話をうかがったので、
とてもこれでは書ききれていません。それにうえのガイドの方の
話もそうですが、わたしはスペイン語がほとんどわからないので、
一緒に行った日本人の友人が通訳してくれた内容をもとにしています。
そのため、こまかいニュアンスなどはわかりません。

これら2人の方は、ある意味でコスタリカの自然保護の中心に
いらっしゃる方で、たいへんめぐまれた立場のように思われるかも
しれません。しかし、あとの方の国立公園の職員の方など、
ここには書ききれませんが、たいへんな辛酸をもなめておられます。

うまくまとめることができませんが、新しいことに挑戦するのは
本当にたいへんだなあ、そして遠くから想像していたのでは
わからないことがたくさんあるなあ、と思いました。

またもうすこし考えを整理することができたらお話したいと思います。

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須賀 丈(すかたけし)
長野県自然保護研究所
電話026-239-1031
Fax026-239-2929











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