[BlueSky: 4315] 「懐疑的な環境保護論者」  Re:4312


[From] "suka" [Date] Fri, 31 May 2002 21:36:49 +0900

みなさん 
     
   須賀です

佐藤@ミシガンさんが[BlueSky 4295]で紹介してくださった
ロンボーグ『懐疑的な環境保護論者』への反論をあつかった
米国のホームページをご紹介します。

「憂慮する科学者連盟」(Union of Concerned Scientists)
のホームページで、ロンボーグの本がまないたのうえに
のせられています。
http://www.ucsusa.org/environment/lomborg.html

水資源、気候変動、生物多様性の各分野の専門家が
書評をのせています。PDFファイルでよむことができます。

僕はそのなかの生物多様性についてのレビューをよみました。
http://www.ucsusa.org/environment/wilson.pdf

タイトルは
Biodiversity Distortions in Lomborg's The Skeptical Environmentalist
(ロンボーグの『懐疑的な環境保護論者』にみる生物多様性の曲解)

著者は、E. O. Wilson, T. E. Lovejoy, N. Myers, J. A. Harvey, S. L. Pinn
の5人です。
このなかのHarveyは比較的わかいひとのようですが、のこりの4人は、
僕のような不勉強な者でも名前をよく目にする生物多様性の論客です。
ですから、この分野の主流の科学者の反応をよく代表しているのでは
ないかと考えられます。

内容はといえば、酷評に近いです。この本の生物多様性をあつかった
章はケアレスミスに満ちているし、もっと深刻な難点もかかえている、
われわれは生物多様性の重要性や価値に関する彼の評価に同意
しないし、彼が基本的な生態学の概念を理解していないかまちがった
かたちで表現している、とのべています。

本文中のいくつかのフレーズがイタリックの大きな字で見出しになって
います。それを訳してみます。
「ロンボーグが引用する情報源や、選ぶ実例、データの解釈のまちがい
 などをみれば、彼の見方にバイアスがあることはあきらかだ」
「ロンボーグは、絶滅したと思われていた種の少数の個体を科学者が
 みつけると満足する。しかしそれらの野生状態での運命はすでに
 さだまっている。」
「今後50年間で0.7%というロンボーグによる種の絶滅率の予測は、
 よく調べられている種の10〜40パーセントが絶滅のふちに立たされ
 ているという事実とかけはなれている。」
「われわれがあつかっているのは、ひとつひとつがユニークな生命の
 かたちが、とりもどすことのできない消失に直面しつつあるという
 ことだ。ロンボーグは値段のつけられない遺産の価値に対して
 十分注意をはらっていない。」

議論の流れは、[BlueSky 4312]でご紹介した「日経サイエンス」7月号
に訳されているT.ラブジョイ(この書評の5人の共著者のひとり)の
ものとよく似ています。そして内容がより詳細で、批判が徹底しています。

全体としては、ロンボーグの議論の誤りをあきらかにすることに
終始した感じで、これまで科学者のあいだでおこなわれてきた種の
絶滅に関する議論とそんなにかわらないという印象をうけました。

「日経サイエンス」7月号に訳されているロンボーグの反論から判断
すると、ロンボーグ自身はそういうことを問題にしているのではない、
といいたいようです。

個人的には、「日経サイエンス」に日本経済新聞記者 久保田啓介氏
が書かれている解説文の次の文章が(正しいかどうかはわかりません
が)示唆にとんでいるように思われました。

・・・ロンボーグの主張が科学的に誤りを含んでいたとしても、少なからぬ
読者を得た事実をどう受け止めるべきなのか。環境科学者や行政担当
者たちは「マスコミの過大な宣伝」にすべてを帰着させようとしているが、
環境科学の専門家たちが世論を納得させるに足る情報提供を怠って
きたことも否定できない。それだけに、ロンボーグがあえて問題提起を
し、科学論争を引き起こした意義は大きいのではないか。
 さらに言えば、ロンボーグの著書を機に欧米で環境論争が盛り上がる
なかで日本の多くの市民が蚊帳の外に置かれているという状況は、
残念なことだ。・・・・

みなさんは、この論争、どんなふうにうけとめられるでしょうか。

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須賀 丈(すかたけし)
長野県自然保護研究所




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