[BlueSky: 4259] Re:4253 はじめまして


[From] "suka" [Date] Mon, 27 May 2002 13:33:14 +0900

そらさん みなさん

   須賀です

そらさん:
> 私は、小さい頃からの夢で、将来はアフリカの国立公園で
> パークレンジャーのような仕事をしたいと思っています。
> しかし、一体どんな大学へ行けばそちらの方面への道
> があるのかよくわからない状態です。

すばらしい夢ですね。そして手ごたえのあるむずかしいご質問です。
きちんとおこたえする知識は僕にもありませんが、もっと確実な
情報を手にされるための手がかりになればと思って書いてみます。

レンジャーという名前でよばれる仕事に限定せず、アフリカの国立公園
で野生動物の保護に関係する仕事をしたい、というのがご希望
でしたら、まず大学では生態学、保全生物学、野生生物保護管理
(ワイルドライフ・マネージメント)などの勉強をされるのがいいのでは
ないかと思います。

日本の大学でしたら、理学部などの生物学関係の学科で野生生物
の保護管理に関係する研究をしている先生のいるところ、という
ことになるでしょうか。農学部(という名前の学部は最近すくなくなった
のかな)の森林関係の学科にもそういうところがあると思います。
具体的にどこ、というのは個別にしらべないとわかりません。
京都大学動物生態学研究室のホームページにある
「生態学関連分野の研究者に役立ちそうなInternetのサイト」
http://ecol.zool.kyoto-u.ac.jp/homepage/public/UsefulEcologySite.html
などを手がかりに検索してみるのもひとつの方法かと思います。
このなかに紹介されている「jeconet:生態学メーリングリスト 」
などに入会して同じ質問をされてみるのもいいかもしれません。

ただ、国立公園の制度は国によってちがうらしく、たとえばケニアの
国立公園の制度は日本より米国の国立公園のありかたにちかい
そうです。そして野生生物保護管理(ワイルドライフ・マネージメント)
の研究、教育がいちばんすすんでいるのも米国ではないかと思い
ます。ですから、いっそ米国の大学に留学されるのもいいのでは
ないかと思います。

中村千秋『アフリカで象と暮らす』(文春新書)平成14年4月発行
 690円+税
という本があります。僕は買っただけでまだ読んでいないのですが、
そらさんはぜひおよみになられたらいい本じゃないかと思います。
この本の著者は、女子栄養大学を卒業されたあと、ミシガン州立
大学の野生生物学科(Department of Fisheries and Wildlife)に留学
され、現在もケニアの国立公園でゾウの現地調査をされているかた
のようです。実際の様子などがくわしくかかれていると思います。

この本をひろいよみしたかぎりでは、ケニアの国立公園のレンジャー
は、澤口さんが書かれていたとおり、密猟などをふせぐための
パトロールが大きな仕事で、銃をもち、軍事的訓練をうけてやる
ような仕事のようです。一方、日本のレンジャー(国立公園の自然
保護事務所にいる環境省のひと)には、大学で造園学などを勉強
して国家公務員試験をうけてなるのではないかと思います。こちら
はどちらかというと行政的な仕事ではないかと思います。
ですから、おなじレンジャーという名前でも仕事のなかみは国に
よってちがうかもしれません。

ただ、「レンジャー」という名前にこだわらないのであれば、野生動物
の研究や、保護管理計画の作成、普及・教育活動など、野生動物
の保護に関係した仕事はいろいろあると思います。そのために
勉強する内容としてメインになる科目がワイルドライフ・マネージメント
ではないかと思います。とはいえ、日本にはワイルドライフ・マネージ
メントそのものを掲げた大学の学科は(最近の状況を知りませんが)
ほとんどないのではないかと思います。ですので、それそのものを
勉強するには、さきに書いたように米国などの大学に留学するのが
いいかもしれません。でも急に今すぐにはむずかしいようでしたら、
とりあえず日本の大学で生態学などを勉強して、大学院から留学する、
というようなコースが考えられるのではないかと思います。

ワイルドライフ・マネージメントという分野について、簡単に補足して
おきます。これは日本語で野生生物保護管理というように訳される
ことが多いので、僕もそのように書きましたが、「管理」ということば
のイメージにまどわされないほうがいいと思います。このことについて、
上記の本のなかで著者の中村さんはこんなふうに書かれています。

・・・ワイルドライフとは、英語で、野生動物または野生生物の意味
である。マネージメントは、日本語の直訳で管理となっているが、
野生動物そのものを人工的に管理するという印象を与え、適当な
訳とは言い難い。野生動物(ワイルドライフ)を自然生態系で保護
するために、人間の活動を、相談や考慮のもとに制御し、統合的
に監督していく(マネージメント)というのが正しい・・・(27ページ)

・・・ワイルドライフ・マネージメントは、野生動物保護管理と訳される
ことがあるが、その内容については誤解されているようだ。
 本来のワイルドライフ・マネージメントは、野生動物そのものを
管理するという発想や方法にあるのではない。野生動物を自然
生態系の中で保護するために、その地域生態系の人間の活動を
制御し管理する、というのが本来の意味である。つまり、野生動物
に及ぼす「人間をマネージする」のが、ワイルドライフ・マネージメント
である。また、野生動物が自然生態系の中で健全な地域個体群を
維持しつつ生活できるように、生活場所を操作していくのが、ワイルド
ライフ・マネージメントである。・・・(185ページ)

この考え方は、僕が[BlueSky 4216]でご紹介した捕鯨をめぐる
考えかたにもあてはめることができるかもしれません。このなかで
自然保護団体のWWFジャパンは、保護と持続可能な利用の両立を
かかげ、そのために適正な管理が必要だとしていました。このこと
を紹介するとき、僕は「資源としてのクジラを適正に管理する」と
うっかり表現してしまったので、誤解をまねいてしまったと思います。
WWFジャパンの文をもう一度よみなおしてみると「持続的な利用が
確実に行われるような、徹底した管理制度が設けられるのであれば、
その利用を否定することはできない・・」となっていました。ですから
ここでWWFジャパンがいっている「管理」も、人間活動のマネージ
メントとして理解しなくてはいけないかもしれませんね。もしこの点に
ついて誤解をひろめてしまったのだとすれば、WWFジャパンの方を
はじめ、みなさんにあやまらなくてはいけません。ごめんなさい。

さて、いろいろ書きましたが、いずれにしても、とにかく強い熱意を
もって、あきらめずに情報あつめや勉強をつづけていけば、きっと
どこかで道がひらけると思います。応援しています。もしここに書いた
ことでわからないことがあったらまたきいてください。

それではまた。

-----
須賀 丈(すかたけし)
長野県自然保護研究所
電話026-239-1031
Fax026-239-2929






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