[BlueSky: 4075] Re:4074 進化をまなぶ意味


[From] "suka" [Date] Tue, 23 Apr 2002 21:55:57 +0900

後藤@帯畜大さん みなさん

   須賀です。

ご返事ありがとうございます。いつもながら緻密な論の展開に
舌をまいております。逆にいつものことながら、僕のほうは
思っていることと文字での表現のあいだにひらきがあるようで、
自分の文章の散漫さにあきれております。

僕は長谷川さんの議論の全体の方向性について、そうだなあ
と思っただけで、後藤さんのようにそれほど緻密に考えていた
わけではありませんでした。

進化を教えるといっても、まさにそのなかみやレベルだって
いろいろ考えられますよね。僕は、とにかくなーんにも教えない
んだとしたら、それはちょっといきすぎなんじゃないかなあ、
と思った程度です。中学校でも、原始の海にうまれた単細胞
生物から長い年月のあいだにえだわかれして環境の変化や
絶滅をくりかえして、今のような多様な生物相からなる地球環境
がうまれた、という進化の事実についてのおおまかなストーリー
くらいは教えたほうがいいのではないかと思います。このくらい
ならそんなに苦労しなくてもわかるだろうと思いますし。
こういうストーリー性がナチュラルヒストリーの面白さのひとつ
でもあると思いますから。

後藤さん:
> この一文や、上記の「重力、分子」の話からすると、須賀さんの念頭に
> あるのは、どうやら「高校教育」の方ですね。

前のメールではそのことに重心をおいて書きました。

後藤さん:
> 僕が高校生のころを回想してみるに、僕自身の場合、自然科学そのもの
> について、具体的なイメージは全くといっていいほどつかめていません
> でした。ようやく分かりかけたのは、恥ずかしながら、大学院に進んで、
> 研究の真似事を始めてから、のことです。

いやいや、こんなふうにおっしゃられると冷や汗をかかなくては
いけないのは僕のほうです。そんな高度な話をしたつもりじゃ
ありませんでした。

長谷川さんが書いておられたように、僕は、大学生になって進化
のことを勉強してはじめてこれが生物学に統一的な視点をあたえる
ものらしいことがわかって面白くなってきた、そのことが高校までの
生物の教育にほとんどとりいれられていないらしいのは惜しい、
と思う、その程度のことです。

後藤さん:
> さて、高校までにおける科学教育の目的には、いろいろあると思います
> が、科学に対する興味をひきつけること(離さない事)と、科学的姿勢
> を身につけることが、特に重要だ、と僕は考えています。
>
> 少なくともこの二点があれば、(高校を出て)世の中に出たとき、自分
> でいろいろ勉強していくことができるからです。

おっしゃるとおりだと思います。そしてその意味で、生物では進化の
ことにふれたほうがいい、というのが僕の考えです。なぜなら、暗記
することがらのあいだにほのかな論理的つながりが感じられるよう
になって、まったくの機械的な暗記より面白いだろうと思うからです。

須賀:
> > 「保証」はないかもしれませんね。保証がなくても改善できそう
> > な方向には動いたほうがよい、と思います。また「暗記科目」
> > であることが自動的にわるいとも思いません。

後藤さん:
> 現状を改善したいという点で、↑の前半部は概ね賛成です。
>
> ただ、高校教育のあるべき姿についてのイメージや一般的な「趣味」の
> 違いがあるので、改善の具体的方法論になると、大きくずれるのかもし
> れません。
>
> 高校教育段階でも、基礎知識の習得は好ましいことでありますが、学問
> としての体系性についてのイメージを習得してもらうことは(優秀な生
> 徒をのぞけば)不可能だ、と感じています。
>
> それよりもむしろ、どのような生徒でも、理科のすべての分野に興味と
> 意欲をもって学べ、思考力が養成されるような、そういう教材なり、方
> 法が好ましい、と考えています。例えば、「生物」が暗記科目でなけれ
> ば、僕も高校生のころ、意欲を持って「生物」を学んだかもしれない、
> という思いが強いのです。

この最後の点については僕も同じです。僕の場合、物理や化学には、
よくわからないながらも、個々の単元でならうことのあいだに論理的な
つながりかあるような感じがどこかでしました。教科書の前のほうをを
とばすと後のほうがわからなくなるというように。生物でも、進化について
教えることで、この点をある程度よくことができるんじゃないだろうか、
という気がするのです。個々の単元でならうことの位置づけがもうちょっと
はっきりするとでもいうのでしょうか。

後藤さん:
> ところで、いわゆる「暗記」科目という言葉で表される「暗記」
> とは、意味もなく覚える、というような意味で使われていると思
> うのですが、、、この意味での暗期科目でもわるくはないとお考
> えなのでしょうか?

意味もなく、ですか。ここは気をつけたほうがよさそうですね。
「意味もなく覚える」と言われていても、本当に意味がないか
どうかはわかりません。

英語など、僕は暗記科目だと思っていて、高校生のころは
本当に意味もなくおぼえなくちゃいけないような感じがいや
でいやでたまりませんでした。でも意味があるとわかって
いたらもっと楽しく勉強にとりくめたでしょう。僕は地理や
歴史の暗記はわりとすきだったのです。

こういう気質とも関係があるかもしれませんが、ストーリー
的な面白さを感じられたら、僕はいろいろなものごとを
ずらずらならべていく、というあたまの活動がそんなに
きらいではないのです。

梅棹忠夫がどこかで、「つらぬく論理」と「つらねる論理」という
ことを言っていました。数学や物理はつらぬく論理、分類学や
切手収集はつらねる論理だと思ったらいいのではないかと思い
ます。どちらも人間の知的活動のなかにふくまれている。

仕事でハチの分類の勉強をしたりするのがぜんぜん苦痛じゃ
ないのですから、僕はかなり「つらねる論理」寄りのひとかも
しれませんね。

ところが進化についての理論は、生物学に「つらぬく論理」を
あたえているように思います。それがあるから分類や生態の
勉強が苦痛じゃない、ということが僕にはあります。

たぶん飛躍してるだろうと思いますが、だから、高校の生物も
進化をきっちりと教える姿勢をしめせば「暗記科目」としての
苦痛の度合いもへるのではないかと僕は思ったのでした。

後藤さん:
> とくに、高校生ともなれば、だいぶ行動力が強まります。そして、たく
> さんの科学的良書が、図書館にも書店にも並んでいます。興味をもてば、
> そうしたところから自主的に学んでいけるでしょう。ですから、例えば、
> 進化では、「生命の起源」というテーマを考えるきっかけがありさえす
> れば、時間の許す限り、興味が湧く限り、いろいろと深めていくことが
> できるものと思います。もちろん、興味の及ぶ範囲には個人差がありま
> す。高校生の時には全く興味をもてないテーマでも、社会に出て働いた
> とき、あるいは、大学で学んでいくうちに、とてもインパクトの強いテー
> マになったりもします。それが、人生の晩年であっても、僕はかまわな
> い、と考えています。

そうですね。これにはまったく賛成です。僕も、結局大学で生態学
なんかを勉強することにしたのは、高校の教科書じゃなくて、本屋
で買った吉良竜夫や中尾佐助や梅棹忠夫などの京大探検学派?
の本に夢中になって、こういうことをやりたい、と思ったからでした。

後藤さん:
> ただし、高校レベルで、進化をおしえるべきではない、とは考えていな
> いことにも注意してください。現状でも「覚えるべき知識量」は多すぎ
> るのでもっと削減したい、と考えている身からすれば、授業の総時間数
> の削減という現実の中では、もっと大胆に切り捨てる必要がある、と考
> えざるを得ない。その分、じっくりと一つの知識について深めてくれた
> 方がよい、と考えるのです。その際、どの分野を切り捨てたらよいのか、
> となると、とても難しい問題だ、と思います。

なるほど、おっしゃることはよくわかるような気がします。

後藤さん:
> 科学的興味を膨らませ、科学的思考力が養成されるなら、あとは自
> 主学習で十分ではないか:むしろ、こうした2点を培うような教育シス
> テムに移していくべきではないか、と考えているのです。

なるほど、そうですね。いわれてみると確かにおっしゃるとおりです。
その点でも進化はいい材料だ、と僕は思いますが、この点には
もしかしたらバイアスがかかっているかもしれません。

散漫な話で恐縮です。ありがとうございました。それではまた。

   須賀 丈(Suka Takeshi)





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