尼崎市の一ノ瀬です。今年初めての投稿です。
景気の悪化と産業の空洞化は、数年前からの傾向ですが、昨年は、加速度が付
いた一年でした。失業率は5%を越え、天井知らずで増加しています。町中の
ホームレスの数も、増す一方です。
悩ましいことですが、このような厳しい経済情勢の下で、温暖化ガスの排出を
削減しつつ、しかも、これ以上の失業の増加は回避しなければなりません。
どのような政策ならば実現できるのか、私にはわかりませんが、三つだけ言え
ることがあります。
それは、
1.「産業競争力の確保は、常に念頭に置かなければならない」
2.「炭素税を追加するだけでなく、既存の税や公共料金も見直そう」
3.「他国のモノマネでない、日本式の炭素税を考えよう」
です。
1は、例えば#3807の後藤さんの発言
<
中央環境審議会専門委員会で、経団連は「環境税を導入してもCO2排出を抑制
できるのか、効果は疑問」と、相も変わらぬ主張を繰り返しています。・・・・
単に「税の導入は国際競争力の低下を招く」という、お話にならない理由しかあ
げていません。
>
に真っ向から反対する内容ですが、私は”経団連の主張だから”と言って色メガネ
で見る立場は採りません。
環境保護政策を推進するための最も重要な要素は、国民一人一人の自覚である
と思いますが、その自覚を促し維持するためには、国民の生活がある程度安定し
ていることが必要条件です。仮に今のまま、不況が深化して、失業率が10%に
届くような事態になれば、環境問題の解決など、まともに主張することは出来な
くなることでしょう。しかも、失業率10%で温暖化ガス排出も10%減ってく
れるのならばまだ救いがありますが、多分、コンマ何%かの小幅でしょう。痛み
のみがあって、排出削減には貢献しないのが、不況というものです。
故に、「国際競争力の低下」は、お話にならない理由などではなく、大変に重
要な論点だと思います。
現実にも、多くの企業が日本を脱出して中国等に移転していますが、それら企
業の中には、本来日本を捨てなくてもいいのに、エネルギーや輸送などのコスト
高に耐えかねて、拠点を移している企業が少なからずあります。
炭素税は、企業の排出削減努力を合理的に推進する効果がある、ということ
で、その効果に期待が寄せられていますが、現下の情勢を見ると、導入には、よ
ほど工夫が必要です。
”税をかければ、後は企業がどうするか考えるだろう”との、他人任せの無責任な
意見もあるようですが、企業がどうするかは目に見えています。効率改善のため
の国内投資が、経営面でも合理的であったのは20年以前の話。今や、効率改善
のための技術的余地は非常に小さく、一方で、途上国への移転は非常に魅力的です。
この上、炭素税を追加して負担させることは、避けなければなりません。これ
以上、高コストな国にしてしまっては、日本国内に産業が残らなくなります。無
論、それは、京都議定書の国際公約達成を幾らかは容易にします。しかし、生産
の国外移転をテコにした排出削減は、実際には、京都議定書の欠陥−−発展途上
国は対象外−−を利用してのインチキでしかありません。日本人が最終消費する
製品やサービスを供給するために排出された二酸化炭素は、地球レベルでみた場
合、増えこそすれ、減りはしないのですから。
ではどうすべきか?少なくとも次のような方針は検討の価値があると思います。
屋上屋を架すがごとく、既存の税の上に炭素税を載せるのではなく、既存のエ
ネルギー関連の税(5.0兆円)に高速道路料金(2.4兆円)等のエネルギー関連の
公共料金を含めて内容を見直します。そして、排出削減を進めることが、今より
も経済的に合理的になるように組み直すのです。また、それらの方法でかき集め
られた金の使い道についても、排出促進を念頭に見直します。
例えば、高速道路料金は税ではありませんが、その額の大きさと負担のあり方
から言って、税に近い存在ですから、これは見直しの中に含めなければなりません。
高速道路料金を徴収していることは、現在でも排出削減に寄与していることは
間違い有りません。けれども、その実、環境負荷に応じた料金体系になっている
とは必ずしも言えない面がありますから、国民に負担をかけている割には、排出
削減を促す効果は小さいと言えます。この部分を見直せば、低燃費車両への切り
替えが、促進されることを期待できます。他の公共料金や税についても、既得権
や過去のしがらみに囚われずに見直せば、削減のインセンティブを高められる部
分が多くあるのではないかと思います。
一方で、(税+その他を含めた)国民負担の総額は、据え置くか減らすように
します。
また、集めたカネの使途についても、現状は、高速道路をはじめとして、道路
関係への偏重が目立ちますが、これを見直します。例えば、高速道路の新規建設
は原則禁止して、浮いたカネの半分を、省エネ技術の開発の補助金として使い、
残る半分を公団の借金返済に振り向ける、というやり方も考えられます。(高速
道路建設に関して、小泉首相は「額は減らすが今後とも建設を続ける」こと、
「孫子の代まで借金を残す」ことで党内と妥協しました)
こういったやり方ならば、競争力の低下は回避できます。経団連とも−−仲良
くする必要もありませんが−−わざわざ対立する必要もありません。
既に炭素税を導入している欧州の例を見ると、導入に当たっては既存のエネル
ギー関連の税の見直しも同時に行っています。日本の様に、税以外での負担が無
視できないほどに大きな国では、税以外の部分まで考慮せざるを得ません。しか
し、日本のこれまでの炭素税に関する議論を見ると、「既存の税(+公共料金)
を含めた見直しが必要である」との主張は少なかったように思われます。
既存の税制の見直し議論が欠落する傾向にあるのは、恐らく、特定の政治勢力
の既得権に絡むからであり、更には、炭素税をそのまま付加して税収の総額を増
やすことは、財務省の利害に一致するからです。
残念なことに、これまでは炭素税というと、欧州のやり方を手本にして、その
まま日本に持ち込む内容が主流であったように感じています。そのようなあり方
を見直し、背景にある日本の経済社会差異を良く見据えて、日本にあったやり方
を模索すれば、競争力低下を極小に押さえつつ、排出削減の実をあげる方策が、
まだまだ見つけられるかもしれないと考えています。
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