[BlueSky: 3868] Re:3867 昭和30年代の自然と暮らし


[From] "suka" [Date] Mon, 14 Jan 2002 19:33:57 +0900

葛貫さん

   須賀です。

葛貫さん:
> ゲームで「遊びの伝承」がなされる、何か、変な感じ。

今日、素樹文生『上海の西、デリーの東』(新潮文庫)
という旅行記をよんでいたら、ベトナムのフエという町の
なかのくだりで涙がでてきてしまいました。

著者は昭和39年生まれ(僕とほぼおなじ年齢)。
中国、香港を旅したあと飛行機でベトナムの首都ハノイ
にたどりつき、そこから列車でフエにやってきます。
フエはベトナム最後の王朝、グエン王朝の都が
おかれていた街だそうです。

「ドンパ門をくぐって城壁の内側へ入る。すると、そこは
もう自分が今まで生きてきた世界とはまるっきり違う世界
が広がっている。僕が旧市街を訪れたのは夕暮れだった。
空気がぴんと澄み渡り、遠くの音がよく聞こえていた。
 緑が多かった。広場が多かった。入るとすぐそばに
フラッグタワーがそびえ、夕暮れの碧(あお)、紫、赤の
グラデーションが暗く沈んでゆく空に、同じような色の
ベトナム国旗がはたはたと翻っていた。どんな仕事をして
いたのかは知らないが、勤めから帰る人の自転車とホンダ
の群れが行き交っていた。子供がまだ遊んでいた。ボール
で遊ぶのもいたし、自転車に乗る子供もいた。サドルに
跨ることのできない大人用の自転車の三角のフレームの
中に足を入れて、その子どもは器用に漕ぎながら自慢げ
にこちらを見て笑っていた。・・・」

別の日、著者が山ばかりの田舎道をバイクを走らせて
いると、

「・・・突然、目の前に一人の女の子が飛び出してきた。
年齢にして十歳くらいで、その手には冷えたコカコーラが
握りしめられていた。僕がホンダを止めると、彼女は
飛びついてくる犬のように近寄ってきて、僕の頬や手に
コーラの缶を押し当てて、冷たいということをアッピール
しつつ「コーラ、コーラ」と言った。
 ベトナムの女の子はかわいい。男の子も女の子も
かわいいが、特に女の子はかわいい。・・・」

というわけで著者はその女の子の一家の店に入り、
家族全員にとりまかれてコーラをのむことになります。

「やれやれと思ってコーラを飲んでいると、今度は
女の子がこっちをじっと見ている。コーラを物欲しそう
に見ている。飲むかい? とためしに差し出してみた。
すると彼女ときたら、髪の毛の先まで笑顔になって、
それからむしゃぶりつくようにしてそのコーラを飲んだ。
こんなに美味しそうにコーラを飲む人間を僕は今まで
に見たことがなかった。彼女は空を仰ぎながら最後の
一滴まで飲み干そうとしていた。その姿をみていると
わかる。この子は自分で売っているコーラであるのに、
それを飲む機会なんてほとんどないのだ、ということを。
 一気に飲み干して、彼女は「カムーン」と言った。あり
がとう、の意味である。僕と彼女は並んで記念写真を
撮ってもらった。さっきの青年に撮ってもらったのだ。
一家全員の写真も撮った。みんな、笑っていた。・・・」

日本にもかつて、こういう時代があったのかな、と
思いました。

   須賀 丈





▲前の記事へ ▼次の記事へ △記事索引へ △青空MLトップへ

(注)この記事が最新である場合,上記「次の記事へ」はデッドリンクです。