[BlueSky: 3790] Re:3783 狂牛病と科学


[From] "Sato, Kenji" [Date] Fri, 9 Nov 2001 13:36:57 -0800

佐藤@ミシガンです。

横山さん:
> それから当地の超スローのネットスピードではスレッドをフォローするのがしんど
くな
> ってきました。また、視点と思考の時間スケールがずれてきましたので、発言はこ
れく
> らいにします。
そんな事言わずに、おつきあい下さいませんか? ホテルか宿舎の遅い回線で、こん
なしょうもないメールが多量に落ちてくると思わずムッとするかも知れませんが、そ
こを押して、御教示頂けると非常にありがたいです。僕も食糧問題が昔からの主たる
関心事です。

> 仰るとおり分配の問題ですが、現時点の生産量を倍加させて現時点と同等ですよ。
人口増加に見合う生産量の確保と言う意味に取りましたが、よろしいのでしょうか?

> 減少あるいは、減少するのでは無いかという危惧が生まれるだけでも今より更に分
配が困難
> になります。
例えば、北米大陸大凶作との見通しが、どのようにバングラデシュの飢えている人に
影響を与えるのでしょうか? 何か具体的な「分配が困難になる」シナリオをお示し
頂けませんでしょうか。いまいちピンと来ないのです。

> これもその通りですが、現実は佐藤さんの思考を遙かに越える深刻さで進行してい
ます
> 。アメリカの穀倉地帯ミシガンに居れば無理ないですが・・・私もMSUに居たと
きは
> そうだった。
どのようなご自身の観察に基づいて横山さんが、「佐藤さんの思考を遙かに越える深
刻さで進行している」と考えられているのか、全く不明なのですが、是非、その現象
をお教え下さい。これは公にすると”危ない”種類の”真実”なら、個人的なメール
でお願いいたします(秘密は厳守致します:-))。

> 途上国の農業を発展させるのと同じか、更に多くの労力をかけて世界的な食糧供給
の長
> 期安定化を図らないとあっという間に市場が最貧国を飲み込んでしまいます。
市場が最貧国を飲み込んで、飢えている人から更に食料を奪うかもしれないと言うこ
とを言っているのだと解釈しましたが、間違いですか? 確かに食料価格が高騰すれ
ば、短期的には都市の貧困層にかなりのダメージを与えることは間違いないでしょ
う。でも、10年20年のスケールで見れば、(他の消費財に比した)食料価格の高
騰は、土地への回帰を促すのでは・・・・と希望的観測かな。

> 佐藤さんの言われることを否定しているわけではありませんが、時間スケールと視
点の
> 違いが意見の相違となっているだけです。
いやぁ、別に、僕の言うことなど否定して頂いて結構です。僕の時間のスケールは
20-30年レンジです。100-200年レンジや、2-3年のレベルには興味はないです。僕の
視点は”最大多数の最大幸福”です。でも、ちょっと消費者側ではなく、農業生産者
側にバイアスがかかっています。意見の相違の元になる、横山さんの時間スケールと
視点の違いは何処なんでしょうか?

> それは分かっていても、現場に立つと餓死者を放っておけない。全く悩ましいで
す。
どういう現場に立たれているのか知りませんので、何が悩ましいのか不明ですが、餓
死者が出る場所では緊急援助しかあり得ません。農業技術者の出る幕ではないでしょ
う。WFPやUNHCR、その他の2国間協力による緊急輸入に任せる以外ありません
(2−3年レベルの話?)。

> が、日本が国際市場で買いまくる食料が国際価格の高騰を招いているとしたら、私
の視
> 点では暢気ではいられません。市場の話はまた更に複雑ですから今回はしません
が、私
> の立場としては日本も応分の責任を果たし自国でもっとちゃんと食料を賄うべきだ
と考
> えています。現在では国内の農地の2.5倍もの耕地を海外で使用している訳ですか
ら。
自由主義経済を金持ち国の多数が信奉し、WTO体制が着々と進行している世界で、
金持ち国の食料浪費と、食料価格の高騰(最貧国から見て)を止めるすべはないと思
います。国内的には、日本国農林省が行ってきた輸入制限による価格操作はますます
不可能になります。でも、繰り返しになりますが、食料価格高騰は消費者にとっては
悪い話ですが、生産者にとっては悪い話ではありません。

日本の自給率を高めるべきだという総論には全く同意します。ただ、どうやってとい
う部分ではここ半世紀の歴史が示すように、非常に難しい問題ですね。

> それと、無農薬にすると20%の減少なんてもんじゃないですよ。おそらく10%
も出
> 来ないんじゃないかと危惧しますね。無農薬栽培○○が成立するのは、一つは周り
の農
> 薬が系全体の害生物のバイオマスをコントロールしていることと、世間に他に食べ
物が
> いくらでも有るからです。つまり無農薬を成立させているのは、巡り巡ると農薬な
んで
> すよ。ちょっと悲しくなる話ですが、私の視点と時間スケールでは農薬がなくて食
料生
> 産は全く成り立ちません。
90%減少はちょっと大げさに聞こえます。ご存じとは思いますが、大規模な農薬激
減による影響とそこからの回復のよい例が、キューバにあります。ソビエト連邦の崩
壊によって外部からの農薬、農機具、石油の供給が途絶え、その上、主たる産業で
あった砂糖も売れない状況になって、キューバは文字どおり飢えていました。その時
の農業生産高は確かに90%減と言っても良い状況だったと思いますが、その後、農
薬の輸入を大幅に増やすことなく、かなり回復しています。「農薬がなくて食料生産
は全く成り立ちません」というのも、ちょっと誇張のしすぎと思うのですが、いかが
でしょうか。

> 科学と技術は最早不可分です。少なくとも科学者はそう考えておく必要があると私
自身
> 考えています。
技術から見れば科学は不可分です。でも、科学から見れば技術は一部にしかすぎな
い。技術は科学の部分集合じゃないかと思います。

> 私の考える複雑系の未来は決定論的厳密に予測できないですから人間が好む(ある
いは
> 現代科学がと言う方が良い?)ような精緻なデザインは不可能です。ただ、確率的
には
> 予測可能ですし、複雑系は明らかに持続的に仕事をします。それと、持続的の意味
は、
> 内発的には非常に安定ですが、外部からの破壊には弱い面があります。私が望むの
は、
> 放っておくのではなく、適度に刺激を与えつつ人間にとって望ましい範囲でうろう
ろし
> て貰う(こう言うのはコントロールではなくハーネシングと言う)ことです。それ
と、
> どうハーネスすればより頑健な複雑系ができあがるかも興味があります。
ホッとしました。確率的に予想出来るなら研究する価値ありですね。と、いうか、決
定論的に厳密に予測出来るという概念自体がもう完全に過去の概念ですし・・・。以
前葛貫さんがおっしゃっていた、微生物群活性安定性の話を思い出しました。そこに
何が入っているかわからない(名前さえない)微生物の群をどのように活性を高めた
り、安定性を高めたりするのか・・・。非常に面白いですが、”途方”もない研究で
すね。用量・効果は当然非線形だろうし、インターアクションもあるわけだから、指
数関数的に項目数は増えていかざるをえないし。普通の統計手法だと、なにも有意差
を見いだせなくなりそう。複雑系という概念はまだ全然理解不能ですが、少し横山さ
んの言ってることがわかる気がしました。ありがとうございます。


▲前の記事へ ▼次の記事へ △記事索引へ △青空MLトップへ

(注)この記事が最新である場合,上記「次の記事へ」はデッドリンクです。