[BlueSky: 3714] Re:3711,3705  プリオン不活性化


[From] Minato Nakazawa [Date] Mon, 29 Oct 2001 15:42:01 +0900

中澤@東京大学人類生態です。
土日と帯広に出張してきたのですが,蕎麦が大変に美味なのにびっくり
しました。新蕎麦の時期だから,尚更おいしいのでしょう。

(件名:[BlueSky: 3711] Re:3704,3705  プリオン不活性化に於て)
Tue, 23 Oct 2001 17:21:44 +0900頃,Y.Kuzunukiさん:
> これが、産業廃棄物として処理し続けなければならないか、
> 資源として利用できるかを判断する際、問題になるところだ
> と思うのですが、一度、恐ろしげなイメージが流布されて
> しまったものは、科学的に安全であることがわかったとしても、
> 社会的に受入れられにくいのでは、と思います。
自然界のほぼすべての事象に確率的なゆらぎがあり,他の事象との
つながりがあり,予期しなかった相互作用が常にありうる以上,
「100%安全である」ということは,科学的には決して言えません。
たぶん今,最も必要なことは,危険を定量的に評価することでは
ないかと思います。
#あまりdose-responseみたいなデータが出ていないと思うのですが,
#どこかにありますか?

その上で,今後の発症者見積もりが多く見積もっても全世界で10万人
規模であるnvCJD(少ない見積もりではせいぜい数千人)に対して
かける物資やコストが,アフリカを中心に毎年100万人以上の死者がでて
いるマラリア対策や,なかなか感染者が減らず,日本では増加を続けている
HIV対策よりも多くなる(かもしれない)ことの是非を考えた方がいいの
ではないかと思います。
アフリカでのマラリア対策として,なぜDDTを使い続けなければならないか
といえば,DDTが安価だからです。DDTの毒性で蒙る不利益とマラリア罹患
を逓減させることの利益とのバランスでDDTを使うという選択がなされて
いるわけです。エイズに関しても,先進国で行われているような薬剤
カクテル療法にかかる莫大な経費を負担できる人間は,世界でもほんの
一握りに過ぎませんから,nvCJDと同様なほぼコントロール不能な不治の
病として受け止めねばならない人々が大多数だと思います。

食肉検査で行われているELISAや,ウェスタンブロットに必要な抗体は
かなり高価ですし,ウェスタンブロットで使われるゲルは,もしポリアクリル
アミドゲルなんかだったら,毒性がある物質です。検査の評価には,
廃棄物がどれくらい出るのかという評価も当然含まれるべきだと
思うのですが,寡聞にして検査のコストや廃棄物の環境負荷の検討が
なされたという話を聞きません。

いわずもがなですが,そもそも100%安全な食物など存在しません。
ヒトを含む動物が従属栄養生物であり,従属栄養生物がエネルギー
を得る手段が食物という異物を取り込んで分解し吸収することだと
いうことを考えれば,食べられる側の防御として毒物を生産する可能性
は普通にあり,寄生体が宿主からリソースを奪って増殖するというニッチ
をもっている以上,多くの種類の宿主に感染できることは寄生体にとって
適応的なので,食物経由で何かの毒物や寄生体が入り込んでくることは
動物の宿命ともいえます。その意味でも,【3634】の澤口@一升金さんの
「一般の消費者の方がむやみにナーバスになる必要はあまりないのでは
ないか」というご意見に賛成です。

本音を言えば,肉牛は牧草だけを餌にして育て,牛肉をもっと高価で
希少な食物にした方がいいと思います。以前,小宮さんが計算してくださった
通り,現在の飼育法では,牛肉を食べることのエネルギー摂取効率は
かなり低いわけです。その上さらに,全ての食肉についてプリオン
の存在チェックをするという方法論は資源の多量消費で,環境負荷が
大きいという視点は忘れてはならないと思います。

もちろん,BSEが肉骨粉を牛に共食いさせたために発生した,人為が原因
の病だとすれば,ヒトがその責任をとってBSEの解決を図るべきだという
論理はわかるのですが,もう少し相対的な評価もすべきなのではないか
と思うのです。如何でしょうか?

ちなみに,10月26日付けのセメント協会のニュースリリースによれば,
同協会は農水省の要請に応じて,肉骨粉をセメント工場で処理するよう
各社に依頼したということです。


> かつて畜産、養魚の飼料や肥料に加えられていたマイワシは
> 依然として不漁だし、どうして行くんでしょうね。
非常勤でやっている生態学の講義の第14回目で取り上げましたが,
http://sv2.humeco.m.u-tokyo.ac.jp/~minato/ptlecture/ecology_p14.html
マイワシやマサバのような浮魚類の資源変動は人為的なものでは
なく,例えば3すくみであるとか,魚食性プランクトンの量の
変動の結果であるとかの理由で,古来周期的な変動を繰り返して
来た可能性が高いので,きっとマイワシの漁獲もそのうち回復
するんではないかと思います。
#もっとも,養魚の飼料や畑の肥料にマイワシを加えることの是非
#は,また別に検討すべきだと思います。なるべく多くの関係性を
#加味したリスクアセスメントをした上で,関係者がその予測を元に
#ディスカッションをして合意形成を図るという手順が必要でしょう。

=====
Minato Nakazawa, Ph.D. <minato@sv3.humeco.m.u-tokyo.ac.jp>
Department of Human Ecology, Univ. Tokyo
[WEB] http://sv2.humeco.m.u-tokyo.ac.jp/~minato/index-j.htm


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