[BlueSky: 3562] Re:3548 冬がとっても寒いので


[From] ICHINOSE-Takeshi [Date] Sun, 29 Jul 2001 23:39:39 +0900

尼崎市の一ノ瀬です。

 藤井さん(#3548)の主張;

「ドイツの削減分は、EU他地域の増加分をカバーしない」
「旧東独地域の経済崩壊の影響は、無視して良い」
「旧東独地域から西独地域へ生産移転しても、排出削減には寄与しない」
「ドイツの排出量が多いのは、冬が寒いからである」
および
「環境税で排出削減は可能だ(#3536)」
について、反論しておきます。


1.「ドイツの削減分は、EU全体の削減分をカバーしない」か?

 この点について、

 京都議定書で決めているのはEU全体で1990年排出量より2010年に
8%削減ということだけです。

と指摘されました。正にその通りですが、その後EU内部での負担割合について
話し合われていますね?

 それによると、+20%台から−20%台まで様々に分散していて、排出量の
シェア1,2位のドイツ、イギリスが、それぞれ−21%、−12.5%を負担
しています。
 このお陰で、他の国は、少々排出を増やしても問題ない構造ができあがってい
ます。
 この2カ国がこれだけ削減しているのに、何故、全体では8%削減でしかない
のか。それは、ドイツの”ガスの傘”の下に他国が入っていることを意味しま
す。

 付け加えると、イギリスやドイツは、エネルギー使用効率を高めなければ、産
業競争力を維持できないと見られます。
 故に、この2カ国については、たとえ、”止めてくれ”と我々が頼んだとして
も、炭酸ガスの排出削減を進めます。その方が企業が儲かるからです。
 その影に、他の排出増加国が隠れている、のが、EUの姿です。
”多くの国が協力して削減する”という存在ではありません。



2.「旧東独地域の経済崩壊の影響は、無視して良い」か?

 この点について、

・東独のGDPが4割減ったいう統計的根拠を示せ
・ドイツの原油消費量の主な減少は1980から1990年の間に起きている
(=東独の経済崩壊の影響はない)

と指摘されました。

 まず、GDPについてですが、統合後の旧東独地域のGDPデータは、統合さ
れてしまっている以上簡単には解りません。
 けれども、直接に証明できないから「まぼろしだ」と断ずるのはおかしい。

 より2次産業の比率が低いロシアですら、1990から1995年の間に32%、炭酸
ガス排出量が減っていることを考慮して、同レベル或いはそれ以上の減少が東独
で起こったと見なすことは合理的です。
 むしろ、”東独の経済崩壊の影響は軽微だ”とする、藤井さんの主張こそ、一
般常識に反します。

 次に、原油消費量ですが、二つの点で温暖化ガス排出量を議論する為には無意
味です。
 化石燃料としては、石油以外に、天然ガス、石炭等があります。ドイツのよう
な石炭依存の強い国で、石油だけを見るのは不合理です。
 また、1990年と94年の比較もされていましたが、ドイツ統合に伴う1700万
人の人口増の効果はどう補正しているのでしょうか?

 この二つの問題があるので、一人当たりの炭酸ガス排出量で見るのがベターで
す。
 統合直前の、1988年の排出量は、次のようになっています。

米国:5.79トン/人
日本:2.25トン/人
西独:3.25トン/人 東独:5.25トン/人
英国:2.95トン/人
カナダ:5.10トン/人

 驚く無かれ、東独の排出量はカナダよりも多かった。
 藤井さんによると、

「ドイツの排出の削減は、主に統合以前に起こっている」

そうですが、となると、東独は、未だに、こんなに大量の炭酸ガスを垂れ流して
いるのでしょうか?
 藤井さんは、西ドイツの排出量が多いことについて、色々弁護しておられまし
たが(#3548)、その論法では、東独の大量排出は正当化できません。
 せめて、旧西独と同じレベルにまで炭酸ガス原単位を改めるのが当然の義務
で、その分(ドイツ全体の12%分に相当)は、京都議定書とは別カウントにす
るのが当然です。そうでなければ、他国は納得しません。



3.「旧東独地域から西独地域へ生産移転しても、排出削減には寄与しない」
か?

 完全な誤りです。

 同じものを同じ量だけ生産する場合、東独地域は西独地域よりも圧倒的に大量
の炭酸ガスを排出します。それが、5.25トン/人という異様に高い値となっ
て現れています。

 東独地域の工場を閉鎖し、その分を西独地域の工場の稼働率アップでカバーす
ると、炭酸ガス原単位の差の分だけ、まるまる排出量が減少します。

 これは、西独地域の企業にとっておいしい話です。しかも、それで「地球に優
しい」という事になる。
 でも、それはまやかしで、”今までが酷すぎた”だけのことです。



4.「ドイツの排出量が多いのは、冬が寒いからである」?

 そうか、すると、ドイツの夏は、日本の大阪並に暑くって、クーラーも、日本
並にガンガン使っているのかな?

 失礼ながら、#3548は、真面目に反論する気の失せる噴飯ものの内容ですが、
ちょっとだけコメントとしておきます。

藤井さん;
a)運輸部門のエネルギー消費量割合が日本がOECD諸国(の平均)に比べ非常に小
さいのは、国土が狭いせいである
b)国土の広いアメリカでは、上記一人あたり道路交通量は1万4、200kmにもな

c)ドイツは冬季の暖房に石炭等を大量に燃やしている(だから排出が多くても仕
方ない)

コメント:
a)OECDの中には、アメリカも入っていますね。
 国土は狭いけれど、その分都市部では渋滞が多い。
 日本は小型車が多い。
   等々の影響を含めないと、分析としては物笑いの種です。
b)すると、アメリカは炭酸ガス排出量を削減できなくても、仕方ない、と言うこ
とになるのですか?
c)燃やす方が悪い。天然ガスや石油に早く切り替えよ。

 以上の指摘は、末節です。
 #3548の藤井さんの主張には、より根本的な矛盾があります。

 #3548の様に、個別の国毎の経済、社会、産業の状況を分析して、削減可能性
を積み上げ、合理的な削減目標を定めるという、方法自体には大賛成です。
 しかし、京都議定書の6%、7%、8%の目標は、そうして決まったものです
か?
 違います。

 すなわち、藤井さんが#3548で議論した手法が合理的で必須のものである
ならば、その様な分析に基づいていない京都議定書の正当性は、失われます。

 自分で自分の主張(京都議定書)を否定されては、困りますね。


5.おまけ:環境税について

藤井さん(#3536)<
 1997年の環境庁の環境税検討では・・・・
ガソリン1リットルあたり2円程度の環境税を掛け税収を補助金に使用する低税
率型
ガソリン1リットルあたり20円程度の環境税を掛け税収を一般財源に用いる高税
率型
等の複数案の環境税が検討され・・・温暖化対策が実現可能であり、
低税率型ではGDPへの影響も- 0.06%程度と小さいものとの試算がなされてい
ます。

 私は環境税には必ずしも反対ではありません。が、このご意見はダメです。

 低税率の場合、補助金が期待通りの温暖化ガス排出削減効果を上げてくれなく
てはダメです。
 そのためには、補助金が有効に利用されているかどうか、チェックされなけれ
ばなりません。
 しかし、日本は、そういう機構が非常に弱い。これから整備して行かなければ
ならない状況です。
 しかも、たとえそういう機構が機能したとしても、技術開発は水物で、金をつ
ぎ込んでも上手く行くとは限りません。
 環境庁は、”補助金”に対して、適当な係数をかけて投入金額の一定割合が排
出削減に寄与すると計算しているのでしょうが、その係数には、一体どの程度の
合理性があるのでしょうか?

 高税率の場合、現在の不況下の日本では、採用は不可能です。
 また、ガソリンは、価格弾力性の小さな商品です。20円程度の税で効果があ
るとは、一体どういう根拠に基づくのか、大変に疑問です。

 要は、環境税はやってもいいが、過大な期待は禁物で削減量の国際公約なども
ってのほかである、というところですか。


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