[BlueSky: 3536] 日本の温暖化防止政策に関します要望書(本文)


[From] "Hisao Fujii(藤井 久雄)" [Date] Sun, 15 Jul 2001 18:09:20 +0900

皆様
森林NGO緑友会 事務局 藤井久雄

 前投稿に書きましたとおり、森林NGO緑友会の「日本の温暖化防止
政策に関します要望書」本文を転載致します。

-------------------

1.環境税を早期に導入することを要望いたします。

 日本は、先進国の中でも環境に配慮した税制が殆ど導入されていない、
希な国になってしまっています(ご承知のとおり、ヨーロッパのいくつ
もの国等では環境税が導入されていますし、北米も含めそうでない先進
国でも環境に配慮した税制がいくつもの品目で設けられてきています。
環境に配慮した税制が、つい最近導入された自動車グリーン税制等だけ
で殆ど無いのは、先進国中希な国です)。環境税は、広範な対策を一度
に可能にし、しかも市場原理が活用される点から、能率的で効率的な政
策と考えられます。個別対策・個別規制で全般的対策を講じようとする
だけでは、多大な制度改善が必要となり、不十分となると考えられます。

 1997年の環境庁の環境税検討では、2000年にCO2排出量を1990年水
準に安定化するための案として、ガソリン1リットルあたり2円(3,000
円/tC)程度の環境税を掛け税収(年間約1兆円)を補助金に使用する低
税率型(化石燃料だけに課税するもの、あるいは化石燃料だけでなく原
子力・水力発電等も含めたエネルギー税を併用するもの)、ガソリン1
リットルあたり20円(30,000円/tC)程度の環境税を掛け税収を一般財源
に用いる高税率型、等の複数案の環境税が検討され、これらいずれのや
り方でも必要な温暖化対策が実現可能であり、低税率型ではGDPへの
影響も- 0.06%程度と小さいものとの試算がなされています。環境税の
導入に当たっては、環境汚染の観点から原子力発電等にも課税すること
が望ましいと思いますし、税金の高いガソリンと重油等で税率を変え消
費者価格の高いガソリンではリットルあたり税率も上げるることが、需
要の適正なコントロール上望ましいと思われます。また、環境税は貧困
層負担・税の逆累進性を増しますので、税の累進制を強める税制補正措
置が合わせて必要です。


2.自然エネルギーの導入増加を真剣に積極的に進めるべきです。

 日本の水力発電を除く再生可能エネルギー・自然エネルギーの全エネ
ルギー消費に占める割合は、2%余で、世界的にも最低レベルであり、
自然エネルギー導入への積極的取り組みが非常に遅れている国と言えま
す。ヨーロッパの多くの国もアメリカも、風力・バイオマス・太陽光そ
の他自然エネルギーの積極的大規模導入を行なっており、また多くの国
で温暖化対策の大きな柱に位置づけられています(例えば、ヨーロッパ
のいくつかの国やアメリカでは、風力発電の大規模導入が行なわれてい
ますし、アメリカではバイオマス・アルコールのガソリンへの混入が大
規模に行なわれています)。しかし日本は、自然エネルギー多量導入へ
の真剣・積極的な努力も環境税の導入等の抜本的努力も行なおうとせず、
安全性・放射性物質汚染・立地困難・放射性廃棄物処理・廃炉等の多く
の困難を抱える原発への依存や、既存の手法での対策でお茶を濁すこと
に腐心しているために、温暖化対策の十分な見通しが立っていないもの
であると思います。自然エネルギーへの転換に真剣に力を傾注すること
により、温暖化対策のかなりの部分を実現することを要望します。財源
は上記環境税の導入による税収をあてることで可能になると考えられま
す。

 わが国に於きましても、いくつもの自然エネルギーが一部は導入され、
その中には大きなポテンシャルを有するエネルギー源もあります。これ
らを大規模導入し、併せて、省エネルギー、エネルギー効率の向上、低
CO2エネルギーへの転換を行うことにより、温暖化対策を行うことを
要望いたします。そのための財源として、環境税を目的税として導入し
自然エネルギー・代替エネルギー・省エネルギーへの適切な助成措置・
補助措置を行い、またその他の省エネルギー・自然エネルギー・代替エ
ネルギー促進のための政策を講じること等によって、これを達成するこ
とを求めます。そのためにも現在検討されております適切な「自然エネ
ルギー発電促進法案」の成立を要望いたします。 現在電力会社が導入し
ているグリーン電力基金は、自然エネルギーに理解のある一部の善良な
国民にのみ自発的に負担を求めるもので、金額的に僅かしか集まってお
らずあまりに不足すぎますし、電力料金負担の公平性の面からも、全使
用者を対象にした制度の導入が望まれます。 真剣に適切な政策が講じら
れれば、自然エネルギー・省エネルギー・代替エネルギーによる原発抜
きのエネルギー確保・温暖化対策は可能であると思われます。

 現在既に、太陽光発電、風力発電、地熱発電、太陽熱利用等の自然エ
ネルギーが実用化されており、電力需要・エネルギー需要の一部を賄う
ようになっております。 例えば太陽光発電は、家庭用でも、設備費の
1/3程度の助成を行えば、電気代の浮きと売電により元が取れる程度
の価格にまで下がってきており、今後の技術開発・量産化によってもう
少しコストが下がれば、補助金無しにでも普及が可能な領域に達します。
原発擁護側からは、‘100万kWの原発1基を代替するのには、山手線
内側全域くらいの面積の太陽電池が必要’といった主張もされておりこ
の試算はおおよそ合っていますが、山手線の内側の面積(約5000h
a程度)はわが国の宅地面積(約160万ha)の0.3%程度にすぎ
ません。このような方法で、温暖化対策を行い、さらに現在のわが国の
原発を順次廃止して行くことも、積極的な普及策が取られれば可能と考
えられます。 風力発電は、現在でも、気象条件の良い立地では採算ベー
スに載っているとされています。地熱発電は、既に国内に合計50万k
Wの地熱発電所が稼働しており、資源量は750万kWの発電が30年
間可能(より深い高温岩体の開発が可能になればその10倍以上)とも
試算されています(公害資源研編「地球温暖化の対策技術」)。 今後
有望な選択肢として、バイオマスエネルギー利用が考えられます。大き
な技術開発無く実現可能な方法としては、東南アジア等の熱帯降雨林地
域その他に、持続可能なバイオマス林業森林を植林しそこから日本へ木
材を輸入して港湾近くに薪発電所を建設すれば、現在の重油の2倍程度
の燃料コストで発電が可能になると思われ、十分実用になると考えられ
ます。この場合、現在のわが国の約50基4千数百万kWの原発全部を
この薪発電所に置き換えたとしても必要な森林面積は全部で1000万
ha程度と試算され、これは世界の熱帯林の1年間消失面積(千数百万
ha)より小さい面積であり、インドネシア1国の森林面積の1割程度
にすぎませんから、熱帯林地域住民の合意の元で熱帯林国が熱帯林バイ
オマスの輸出を行なってくれれば十分可能なことと考えられます。勿論
このためには、熱帯地域の天然林破壊・自然環境破壊・住民生活への悪
影響等をもたらさない様に植林に際し十分な配慮が払われる必要があり
ますし、そのためには地域住民の主権・合意が十分尊重されていること
が重要であると思います。熱帯降雨林は日本の森林の数倍の成長量があ
り、また熱帯降雨林地域の材は、材中に放射性物質や、廃材の場合のよ
うな防腐剤(砒素・クロム・銅、有機塩素化合物その他有機化合物等)、
その他重金属・放射性物質・ダイオキシン類発生源等の環境汚染物質を
含まず、環境汚染の危険が小さいというメリットがあります(ここ1、
2年、熱帯降雨林材も中国のバイオブリケット燃焼に起因すると思われ
る重金属排煙により汚染が生じていますが、中国での排出が止まりまし
たので早晩解消すると思われます)。国産材で行なうことは量的にもコ
スト的にも非常な困難がありますし排煙による深刻な重金属汚染・放射
性物質汚染が発生します。廃材等のバイオマス利用は、わが国の年間木
材消費量が約1億m3であることを考えますと非常に大きなポテンシャ
ルがございますが、現状の技術では上記の通り、排煙により深刻な重金
属汚染・ダイオキシン等汚染・ヒ素等汚染・放射性物質汚染をもたらし
ます(廃棄物処理排煙問題につきましては、私ども森林NGO緑友会で
別途廃棄物処理につきましての要望書を作成中でございますので、 http
://www2s.biglobe.ne.jp/~ryokuyu/tok0137.htm等を御参照下さいませ)。
従って、今後、農産物残さや廃材からの実用コストでのアルコール製造
技術開発と出来たアルコールからの完全な汚染物質除去技術の開発によ
り、農産物残さや廃材の安全なバイオマス利用が可能になることが望ま
れます。

 その他、コジェネレーションによるエネルギー利用の効率化、燃料電
池等の利用による温暖化ガス排出抑制、海底のメタンハイドレートの開
発利用、等もエネルギー源やエネルギー効率化、温暖化ガス排出抑制に
有効と考えられます。 運輸部門においても、現在既に実用化されていま
すGDI、ハイブリッド車その他の高燃費車や天然ガス自動車の普及の
他、さらなる高燃費エンジンの開発、バイオマス燃料導入、バイオマス
燃料による燃料電池等によりさらなる温暖化ガス削減が可能性であると
考えられます。


3.原子力発電は大変危険であり、軽微な事故でも周辺に放射性物質汚
染をもたらしますし、重大事故が起きれば国土の狭いわが国では安全に
住めるとことが無くなり日本全土の国民の健康・生命を脅かしかねません
ので、対策として用いるべきではありません。また、原子力発電は気候
変動にも良くない影響を与えている可能性があり(重大な原子力発電所
事故の後には、熱波が襲う傾向が認められます。長期的な影響は明らか
ではありませんが、黒っぽい排出煙の影響、排出煙のオゾン層破壊への
影響等は、大変に危惧されます。また、熱波はさらにエネルギー消費を
助長もしますし、後述の地球の温暖化のポジティブフィードバック機構
を誘発する可能性があります)、温暖化対策になっているのかどうかさ
え大変に疑わしいものです。また特に、自国でも安全を保てていない原
子力発電を、CDMの対象に含め輸出することには強く反対いたします。

 原子力発電は、一度事故が起これば環境を著しく汚染するものであり、
日本を含め多くの先進国地域の国土の大部分は原発事故の放射性物質に
より既に汚染されてしまった現状にあります。わが国でも、報道された
一昨年の東海村核燃料工場の事故だけでなく、同じ高速増殖炉関連で199
4年に大洗の重大な全国的規模の放射能漏れ事故(国内最大の原発事故)、
その後にもんじゅの重大な放射能漏れ事故等が起きており、さらにまた、
Y2K以降は数え切れない程の放射能漏れ事故が国内各地で多発してい
る現状にあります(連日のように起きることや、1日に2つ以上の原子
炉が放射能漏れを起こした日すらあります。午前0時を境に発生してい
るものが多いため、Y2K問題に絡むものが多いのではないかと思われ
ますが、それ以外の時間に発生しているものや地震に付随して発生して
いるものもあり、いずれも根本対策が必要です)。これらの何度もの放
射能漏れ事故の発生は、電力会社等が「安全」だと主張してきている原
発が、如何に安全確保が困難で、トラブルに伴って放射能漏れ事故が起
きてしまうものであるかを実証しています(例えY2K問題でトラブル
が起きても、電力会社が言うように安全装置が十分に完備しているもの
で有れば、放射能漏れ事故に至らずに緊急停止していたはずです)。さ
らには今後、MOX燃料(プルサーマル)の導入が予定されていますが、
これは原子炉マージンの減少する危険な運転であり、燃料工場のあるイ
ギリスでも放射能漏れ事故を起こした形跡があり、輸入燃料がデータ捏
造・品質問題を起こしていますこと、燃料工場のあるイギリスで未だに
燃料工場の稼働を巡って対立が起きていますこと(2001/6/14ロイター)、
日本で計画されているプルサーマルはヨーロッパでの実施事例と比較し
てもマージンの少ない運転条件であること等からも、遠く離れた国から
の輸入は安全保障上も問題があり、また、上記の様に頻繁に放射性物質
漏れが起きている中でより重大事故の起きやすいプルサーマルが導入さ
れれば、頻発している放射能漏れが炉心溶融等の重大事故に至る可能性
も有り得ます。また、1994年の大洗事故、その後のもんじゅ事故、1999
年の東海村核燃料工場の事故と、事故が相次いでいます高速増殖炉は、
今後決して動かすべきではありません。現状の様に、放射能漏れが頻発
している中で、電力会社や国がいくら「安全」であると主張されても、
国民が安全であると信じられる訳が無く、先日の刈羽村でのプルサーマ
ル住民投票を含め住民投票で原子力発電が否決されてきているのは当然
です。また、今後過去に建設された原発が高齢化し廃炉コストを削減す
るために無理な寿命延長運転が行われる怖れもあり、それに伴う事故の
危険も大変懸念されます。アメリカでは昨年4月にオクラホマあたりで
最悪の炉心溶融事故が起き、地下マグマが汚染されて世界的に火山噴火
等に伴い放射性物質汚染が生じる様になっています。このように原子力
発電事故は世界的に深刻な影響をもたらすものであり、国土の狭いわが
国でこのような炉心溶融事故が起きれば、安全に住める土地が無くなる
ことになりかねません。

 原子力事故に伴う放射性物質汚染は、国民の健康・生活や農林水産業
のみならず多くの産業に影響を与えており、今後の安全な国民生活のた
めにも安定な経済成長のためにも、原子力発電は安全に段階的廃止を目
指すべきと考えられます。なかでも、高速増殖炉やプルサーマル(MO
X燃料)は、決して導入すべきでありません。私共森林NGO緑友会で、
以前に作成・提出いたしました「原子力発電の縮小・廃止と、自然エネ
ルギー・代替エネルギー・省エネルギーの促進を求め、原子力立地地域
振興特別措置法案に反対します要望書」( http://www2s.biglobe.ne.jp
/~ryokuyu/tok0120.htm#yobosyo)を合わせてご参照下さいませ。

 また、原発事故は、気候変動にも良くない影響を与えている可能性が
あります(重大な原子力発電所事故の後には、熱波が襲う傾向が認めら
れます。長期的な影響は明らかではありませんが、黒っぽい排出煙の影
響、排出煙のオゾン層破壊への影響等は、大変に危惧されます。また、
熱波はさらにエネルギー消費を助長もしますし、後述の地球の温暖化の
ポジティブフィードバック機構を誘発する可能性があります)。従って
原子力発電は温暖化対策になっているのかどうかさえ大変に疑わしいも
のです。また、上記要望書や本要望書に記載のとおり、原発以外の方法
によって、削減目標の達成は十分に可能なものです。従って、温暖化防
止対策としまして原発を用いることには強く反対いたします。

 また、このような自国内での安全性すら確保できず繰り返し事故をお
こしている原発を、途上国に輸出し途上国の環境や人々の生活を危険に
さらすことは、人道的に許されない暴挙です。例えば現在台湾への原子
力発電輸出を巡って台湾政界も対立が続き、現地住民は焼身自殺まで試
みて反対運動をしています。わが国より遙かに国土の小さい台湾で重大
原発事故が起きたときのことを考えると、反対するのが当然と言えるで
しょう。途上国地域に於きましては、さらに安全性確保のための十分な
保守点検や高い技術による安全性の維持は困難になる可能性が高く危険
性も増すと考えられます。従いまして私共は、全ての原発輸出に反対し、
原発をCDMに含めることに断固反対いたします。


4.環境税だけでなく、市場経済・貨幣経済の中に、出来るだけ環境価
値を算入させて流通させることにより、適切な環境政策を効率的に実現
することを要望いたします。具体的案として、エコポイント・カードの
ような市場インセンティブ政策を導入し、温暖化対策に全般的インセン
ティブを発揮させ、合わせてその他の面での環境保全も進めることが有
効だと思います。 このような方法は、環境税の様な大きな経済的負担を
もたらさずに、大規模・効率的な温暖化対策を行なえる可能性を秘めて
いると思います。

 現在多くの資本主義国は、貨幣価値を経済活動の価値の基準として動
いております。しかし、環境汚染が深刻化し、国民の生活が環境汚染に
より多大な影響を被り、また経済成長も環境汚染により大きな影響を受
ける様になっている昨今、貨幣価値だけを主とする経済活動では問題が
大きいことが明らかとなり、市場経済の中に環境という価値を上乗せし
て、環境を市場経済の中に組み込み貨幣価値のように流通させていくこ
とが、適切な社会経済活動の上で望まれていると考えられます。

 上記環境税もその一つの形態ですし、最近各地で行なわれている地域
通貨等の試みもその一種としての側面を持っています。この地域通貨の
様な試みを、全国規模で環境保全のために導入することで、特段の経済
的負担なく効果的な温暖化防止対策が行なえるのではないかというのが、
本提案です。最近、小売り店、チェーン店、ガソリンスタンド、飛行機
等で、ポイントカードのようなことが随分やられております。小売店が
積極的に導入しているということは、経済活動として採算ベースに載せ
てやれているということです。そのようなポイントカードを、全国的に、
環境に優しい商品でやったら良いと思います。環境に優しい商品を買っ
たら、環境への貢献度に応じてカードにポイントが溜まって、溜まった
ポイントの高に応じてなにがしかの特典がもらえる、といったシステム
を全国的規模で導入すれば、環境に優しい商品の購入拡大に大きく貢献
するでしょう。企業・小売店も、環境保全商品の販拡のためだけでなく、
企業・店イメージのアップのための広告も兼ねて、このエコポイントへ
のサービス提供を積極的に行ってくれると思います。できるだけ、時代
に即応した柔軟な環境保全が出来るように、商品ごとのポイント数は、
環境保全内容の必要性等が自然に反映されるシステムができれば良いと
思います(例えばポイント数と理由を公開で国民意見を集めながら決定
したら良いと思います)。これなら、購入にインセンティブになります
し、増税や規制でないので産業界等からの反対も少ないと思われ、有効
な対策になると思います。


5.日本は、4月の国会決議に従い、率先して京都議定書に批准するべ
きです。現在の日本やアメリカの姿勢は、自国の経済ばかりに配慮して、
京都議定書の抜け穴を拡大しあるいは枠組みを壊そうとしているものと
しか見えず、全世界的な環境保全的見地や適正・公正な温暖化対策への
配慮を欠いたものとしか言いようがありません。日本はまず、京都議定
書への批准を表明し、その上で、アメリカを枠組みに組み入れ、より適
切な形で京都議定書が発効する様に、より公正・適正な議定書の発効の
仕方を議論し実現するよう努力すべきです。

 地球温暖化にはいくつものポジティブ・フィードバック要因が指摘さ
れています。現在進行している温暖化の今後の行方を確実に予測するこ
とは困難であり、現在の予想以上の急激な変化が生じる可能性も有りま
す。従って、着実な温暖化対策を進める枠組みが必要であり、京都議定
書の早期の発効が望まれます。もしアメリカや日本の反対で京都議定書
が発効せず、対策が遅れれば、地球に急速な温暖化が訪れる日が来るか
も知れません。その時生き残った人類の間に、ブッシュ政権、小泉政権
・川口環境大臣の名は、地球の破壊者として長く伝えられるかも知れま
せん。

 地球温暖化には、凍土融解によるメタンガス発生、珊瑚礁の海水温上
昇による白化・海水中炭酸塩の炭酸水素塩化による生育困難、藻類の組
成変化、深層・中層海流変化、メタンハイドレート融解、極周辺におけ
る氷の融解によるアルベドの低下、生態系呼吸量増加、降水量不足等に
よる植生衰退、等の数多くの温暖化加速要因・吸収源減少要因が指摘さ
れています。これらポジティブフィードバック要因による変化の確実な
予測は困難であり、何時の時点かに急速な温暖化が生じて人類の生存を
脅かすことも考えられます。

 世界的にも最低レベルの、水力を除く自然エネルギー・再生可能エネ
ルギー導入率、環境に配慮した税制を殆ど導入していない先進国中希な
国という事実からもわかる様に、CO2削減努力が世界的にも著しく不
足している日本が、アメリカの京都議定書離脱表明を悪用し京都議定書
存亡のキャスティングボートを悪用して、京都議定書の抜け穴を拡大し、
あるいは自国に有利な条件を引き出そうとしてる交渉姿勢は、国際的に
も国際倫理上も許し難い行為と考えます。

6.温暖化防止京都議定書のわが国の削減目標の達成手段として、森林
・土地利用等吸収源の算入増を主張することに強く反対します。吸収源
にわが国の削減目標達成手段の一部を依存することは、科学的に正しく
なく認められないものです。

 現在算入が議論されている日本の森林吸収の殆どは、森林の伐採−更
新サイクルの施業に起因するものですが(わが国の場合、非森林地への
植林面積は非常に少なく、現状では森林減少面積が非森林地への植林面
積をかなり上回っています)、森林の伐採−更新は数十年以上掛かって
蓄積したCO2を伐採によって概ね短期間に放出してしまい(森林に蓄積さ
れた炭素の何割かは伐採時に林地に枝条・根等の形で残され通常数年程
度で分解放出されますし、短期間に腐朽する戸外用途用材や使い捨て用
途用材、紙等は通常短期間に分解あるいは焼却放出されてしまいます。
建築物等の長期用途にしてもその寿命は30年等でありまた建築物等の
形でのストックが増加するのでなく単なる建て替えであればCO2シー
ケストレーションの意味は有りません)。従って、森林の伐採−更新に
ともなって、CO2は通常吸収が増加するのでなく減少すると考えられ、
伐採−更新を吸収源として算入せよという主張は土台おかしいものです。

 伐採−更新がCO2吸収に貢献する場合があるとすれば、それは利用
部門に於いてCO2削減に資する利用が十分に行われた場合だけであり、
その様な例は、バイオマス燃料利用による化石燃料使用の削減の場合、
木材利用により他の工業材料が代替されLCA的にCO2排出量が削減
される場合、建築物その他長期用途で特にストックの総量を増加させる
ような施策が取られた場合、等の限られた場合のみであり、これらは利
用部門の排出量で勘定されるべきものだと考えられます。また、ここに
列挙したものには既に排出部門で勘定されるはずになっているものもあ
り、それらは森林等(LULUCF)吸収の算入を認めれば二重算入の
不正算入が生じることになります。

 いかに京都議定書の算入方法が条約上の政策的なものであったとして
も、実際に全く吸収に貢献しない活動(あるいは排出を増加させすらす
る活動)を吸収源として算入させることは、国際的にも全く認められる
はずのない、また認められてはならないことだと考えます。

 伐採・更新だけでなく、除伐・間伐・枝打ち・除草・つるきり・病虫
害防除・気象害防除等も算入の可能性のあるものとして検討されている
と思いますが、これらも通常、伐採−更新サイクルの中の1施業として
行われているもの(伐採をしなければ必要のなかったはずの作業)であ
り、たとえそれがいくらかCO2吸収の増大に貢献する部分があったと
しても、それは過去の森林伐採・CO2放出の結果に他なりません(過
去に多くCO2放出を行った国の方が多くの吸収算入を認められるとい
うのはおかしなことです)。また、例えば間伐にしても、切り捨てのも
のと材を利用するものとでは大きくCO2収支への影響が異なるという
ように、多面的・科学的にCO2収支への影響を検討する必要があり、
十把一絡げにしての算入は容認できません。

 また、現在の日本政府の主張は、こういった追加的人為活動を行った
森林のCO2吸収量すべてを追加的人為活動による吸収増加として算入
させようとしていますが、京都議定書の追加的人活動による吸収増加の
算定は、その活動を行った場合に行わなかった場合よりどれだけ吸収量
が増加したかで算定するべきもので、追加的人為活動を行った森林のC
O2吸収量すべてを算入することは道義的に許されるものではありません。
ましてや日本だけを特別扱いする理由はありません。

 アメリカの京都議定書からの離脱表明に伴って、日本に特に多くの森
林吸収算入を認める特例措置の提案がプロンク議長よりなされています
が、本来は吸収していない量を森林吸収として算入すること・日本にの
み人為活動を行なった森林の吸収量全てを追加的人為活動による増加分
として算入を認めることは、筋の通らない話です。削減割当量の実行可
能容易さ・過去の省エネ努力等を理由とする調整ならば、削減割当量の
数字をいくらにすべきかという議論で行なうのが本筋だと考えます。も
し現在提案されているような日本に対する森林吸収算入の特例措置がな
された場合、森林に与える問題点として、天然林施業(主に伐採・更新)
が算入対象となった場合に貴重な天然林の伐採が加速される怖れがあり
ます。また、伐採−更新施業の算入を認めることは、世界的に伐採を促
進し材価を低迷させて、持続的森林管理が妨げられ、森林の劣化につな
がる怖れがあります。

 日本政府・産業界は過去に省エネを進めてきていることを強調してい
ますが、日本は国土が狭く人口が密集しており輸送に掛かるエネルギー
が少ないこと、冬季に著しく寒い地域が少ないこと、GDPについては9
0年前に急速に円高が進みまた生活コストが諸先進国と比して高いと言わ
ていることを考えると、日本の、先進国平均よりやや低い程度の1人当
たりエネルギー消費量、低いGDP当たりエネルギー消費量は、必ずし
も省エネ努力によるものとは言えず、割り引いて見なければなりません。


7.世界的に環境汚染の影響は深刻化しており、これからの時代は、環
境汚染に配慮しなければ安定な経済成長も望めないと思われます。日本
やアメリカのような、経済成長優先の政策姿勢は、結局環境汚染を増加
させ、そのために経済成長を低下させるという、自らの首を絞める結果
になると思います。例えば地球温暖化の影響による、異常気象・気象災
害の多発は、現在でも、生活・産業・エネルギー消費・農林水産業等に
多大な経済的損失をもたらしています。それ以外の、放射性物質汚染、
廃棄物処理排煙汚染等も、消費動向等に深刻な影響を与えて、景気停滞
の真の大きな原因の一つになっていると思われます。

 にもかかわらず、京都議定書の抜け穴の拡大を画策している日本の姿
勢は、米国同様、経済優先で環境への配慮を著しく欠いたもので、日本
は今もって「エコノミック・アニマル」、川口順子氏は環境破壊大臣と
呼ばれても仕方ないでしょう。今年1月の省庁改革で環境庁は環境省に
昇格しましたが、このように最近の環境省は温暖化防止に消極的姿勢を
取り続けていますし、また、環境省の一元管理に移管された廃棄物処理
問題を見ても、ダイオキシン規制に際して副作用を殆ど評価・対策する
ことを行なわなかったために、結果として全国的に深刻な重金属等汚染
を撒き散らしただけでダイオキシン対策は何も進んでいないという結果
をもたらしており、さらにまた現在新たに施行された食品リサイクル法
でも農地の重金属汚染という重大な副作用をもたらしかねません( http
://www2s.biglobe.ne.jp/~ryokuyu/tok0137.htm参照)。このような環境
省の姿勢を見るにつけ、環境省は産業界の片棒をかついでいるだけで殆
ど環境を守ろうとしていないのではないかとの疑念を禁じ得ません。

 小泉首相は、先日の党首討論会でも環境税に否定的な発言をしていま
したが、経済優先・環境軽視の政策を早急に見直さなければ、大変なつ
けがくると思います。日本経済はバブル崩壊で大変な打撃を被りました
が、環境を犠牲にして進められている経済成長も、やはり類似の砂上の
楼閣の様なものであり、刹那の快楽を求める麻薬中毒患者のようなもの
だと思います。また、早期の真剣な取り組みによる環境技術の進歩は、
将来、環境技術の輸出等を通して、経済にもプラスの影響をもたらすは
ずだと思います。

以   上  

尚、本意見書および作成議論の過程につきましては、緑友会Home Page
尚、本意見書および作成議論の過程につきましては、緑友会Home Page(
http://www2s.biglobe.ne.jp/~ryokuyu/)の会議室・林産物貿易問題・
国際森林問題コーナー( http://www2s.biglobe.ne.jp/~ryokuyu/tok013
2.htm等)で公開しておりますので、そちらもご参照下さいませ。



*********************************************************
  緑    友    会
−森林・林業・自然と研究のためのNGO−
http://www2s.biglobe.ne.jp/~ryokuyu/
E-mail ryokuyu@nisiq.net
事務局 藤井 久雄(fujiihi@nisiq.net)
tel:090-1800-4721(いつでも連絡可)
 郵便物は当面旧住所(〒305-0044つくば市並木2-14-301-802)宛で
 転送にて届きます
*********************************************************


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