[BlueSky: 325] Re:324


[From] Minato Nakazawa [Date] Fri, 06 Aug 1999 19:29:30 +0900

中澤です。

葛貫さん:
> 1人の女性が生む子供の平均数が2人を切っていますが、
> 自分の周囲を見渡すと、一人っ子の家庭が増えているので
> はなく、1人も産まない人と、複数産む人に別れているよう
> に感じられます。
日本のデータからみても,その通りです。

[321]で紹介した「出生動向基本調査」の夫婦調査の結果p.11
によれば,出生子ども数0人の夫婦の割合は,

結婚期間 1982年 1987年 1992年 1999年
5年未満 38.9% 32.5% 38.9% 42.6%
5〜9年 4.3% 4.8% 8.6% 10.3%
10〜14年 2.5% 3.3% 4.8% 5.5%
15〜19年 3.2% 2.8% 3.1% 3.7%
20〜24年 2.2% 2.1% 2.8% 2.3%
25年以上 3.8% 2.2% 1.9% 1.3%

となっていて,とくに結婚期間が短いカップルで,子どもの
いない割合があがっていることがあきらかです。

なお,1977年から1997年まで,完結出生児数(これ以上子ども
を生む可能性がほとんどなくなった時点における夫婦集団の平均
出生児数)は2.2で変化ありませんから,子ども数が減っているのは,
晩婚化・非婚化のためだというのが定説になっています。
しかし,これは上の表でいうと,結婚期間15〜19年の人たちの話です
から,今後ますます子ども数0のカップルが増えそうな気がします。
#カップル数そのものも減っていますし,独身者調査の結果に
#よれば,結婚するつもりがない人も増えていますが。

> 物質的な豊かさもそうですが、社会的に認められること、遺伝子を
> 残すことより名を残すことの方が、心地好いのかもしれません。
独身者調査の結果からすると,独身生活の利点として挙げられた
項目は,

男性では,
1)行動や生き方が自由(66%)
2)金銭的に裕福(26%)
3)家族扶養の責任がなく気楽(24%)
4)広い友人関係を保ちやすい(19%)
5)異性との交際が自由(12%)
6)住環境の選択幅が広い(4%)
7)現在の家族との関係が保てる(2%)
8)職業をもち社会との関係を保てる(2%)

女性では,
1)行動や生き方が自由(70%)
2)広い友人関係を保ちやすい(32%)
3)金銭的に裕福(19%)
4)家族扶養の責任がなく気楽(18%)
5)職業をもち社会との関係を保てる(9%)
6)現在の家族との関係が保てる(8%)
7)異性との交際が自由(7%)
8)住環境の選択幅が広い(4%)

となっていて,男女でだいぶ理由が違いますが,「自由」というのが
第一のようです。とすれば,調査結果にはでてきませんでしたが,
夫婦でも,子ども=自由への制約,という気持ちがあるのかも
しれません。

とすれば,ぼくが[162]で書いて,後藤さんが[186]でまとめて
くださった,(もしかしたら錯覚かもしれない)「自由」欲が,
ここでも問題の核心にあるのかもしれないなあ,と思いました。

> 平均寿命が延び、30歳になっても、40歳になっても、親元に残って
> 子供をやっていられる状況も関係しているのかもしれません。
これは,あるにしても,過渡的なことと思います。
Hawkesという研究者が,ヒトの再生産完了後の寿命が,他の霊長類には
見られないほど長い原因を,「おばあちゃんが娘を助けて育児をするの
で,再生産完了後に生命活動を続けることに進化的な利点が発生した
からだ」という説を唱えています。「おばあちゃんがいつまでも娘を
養ってあげるために,娘が再生産活動をしない」となってしまうと,
文化伝播がない限り,そういう形質は定着しないと思われます。
#机上の空論的ですが。

=====
Minato Nakazawa, Ph.D. <minato@sv3.humeco.m.u-tokyo.ac.jp>
Department of Human Ecology, Univ. Tokyo
[WEB] http://sv2.humeco.m.u-tokyo.ac.jp/~minato/index-j.htm


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