[BlueSky: 3151] Re:3141- ミーム


[From] Ken Goto [Date] Sun, 18 Mar 2001 20:06:04 +0900

後藤@帯畜大です。

須賀さん、面倒な話題にお付き合いいただいて有難うございます。

須賀さん【3141】:
> ちがいはほとんど言葉づかいの趣味だけ。
う〜ん、とてもそのようには思えないですよ。

> 今手元に本がありませんのでまちがってるかもしれま
> せんが、確かドーキンスは自分の本を「サイエンス・
> フィクションのようによんでもらいたい」と冒頭でことわって
> いたはずです。だからあの本の言葉づかいはSF の文章
> としてよまないと・・・・。
ははは。なるほど、SFね。
でもね、著作の意図がどうあれ、あの本の社会的受容過程に伴う混乱を、
須賀さんも十分にご存知のはずでしょう?少なくも、SFとしては読ま
れなかったのですよ。

・・・そして、僕がこの話題をとりあげているのも、社会的混乱が現実
に存在する、という事実があるからこそなのであって、その科学
的意義について触れているつもりは全くありません。

> だからこれは「科学」の話しではなくて「文学」の話しだと
> 僕は思っています。
いやぁ、現実に文学として読まれていたらよかったんですがね。
そうは読まれなかったのが、社会的現実でしょう? 件の冒頭を引用し
ておきますね。

「利己的な遺伝子」の初版(1976)まえがき冒頭(日高他訳)【こ
の本はほぼサイエンス・フィクションのように読んでもらいたい。イマ
ジネーションに訴えるように書かれているからである。けれどこの本は、
サイエンス・フィクションではない。それは科学である。中略。われわ
れは生存機械ーーー遺伝子という名の利己的な分子を保存するべく盲目
的にプログラムされたロボット機械なのだ。この真実に私は今なお驚き
つづけている。私は、何年も前からこのことを知っていたが、到底それ
に完全に慣れてしまいそうにはない。私の願いの一つは、他の人たちを
なんとかして驚かせてみることである。】

・・・まぁ、僕の願いの一つは、逆説めかした驚きのからくりに注意を
喚起したい、という点にあります。普通の言葉で表現すれば(何
度も何度も繰り返したことですが)、「一般受けする」面白みは
ないですからね。誤解も生まないし。

> 例のミームのところを読んだのは十年以上前ですが、
> こんなに穏当でリベラルで常識的な意見がなぜこれほど
> さわがれるのだろうといぶかしく思いました。今もそう
> 思います。
おっと、SFが常識的な意見だったら、SFとしては通用しませんよ。
>
> あの本で「利己的」ということばが意味をもつのは、
> 次の2点においてではないでしょうか。
>
> 1.遺伝子のことなんか考えもしなかった昔の
> 「種のための自己犠牲」という考え方を批判し、
> 適応進化を考えるには遺伝子レベルの淘汰を
> 考えなくてはいけないことを強調すること。
種のための自己犠牲という考え方を批判したのは、1950年代後半の
G.C.ウィリアムズの著作でしたね?
で、個体レベルの淘汰という考え方が当時は主流だったわけですね。個
体レベルの淘汰を否定し、遺伝子レベルの淘汰を主張した、と見るべき
ではありませんか?
>
> 2.個体の適応度と包括適応度を対比し、
> 前者では子孫の数が減るという意味で「利他的」
> な行動が、後者では遺伝子のコピーがふえると
> いう意味で比喩的に「利己的」といえるようなかたち
> で両立する場合があることを示すこと。
>
> これだけのことだと思います。
>
> この論点に関する限り、「利己的」と「利他的」の対比は
> はっきりしています。
確かに、この対比は妥当ですね。ただし、これはハミルトンの理論その
ものでしょう?ドーキンスらしさが出ているところではない。
そして、僕が指摘した「異次元の事柄の同格化」を行っていない。

> 後藤さん:
> > ドーキンス「利己的な遺伝子」には、【しかしわれわれには、こ
> > れらの創造者に刃向かう力がある。この地上で唯一われわれだけ
> > が利己的な自己複製子たちの専制支配に反逆できるのだ。】とあ
> > りますが、完璧な誤解ですね。
> > ・・・【3095】でも指摘しましたが、ドーキンスは、人間は
> > 本来(遺伝的プログラムとしては)、行動特性として、
> > 「純粋に」利己的である、と考えており、利己と利他の矛
> > 盾としては捉えていません。つまり、愛情もない、と考え
> > ているわけです。で、それを「叩き込め」というとんでも
> > ない指針を導いているわけです。
>
> 包括適応度を高めるように選択されてきた、ととらえてるだけ
> ではないでしょうか。だとしたら、愛情がプログラムされていて
> も少しも不思議ではありません。というか、ごりごりの行動生態
> 学者ならそう考えるのが当然です。
はい、当然ですね。進化的に利己的な個体をベースにしているのに、利
他行動が進化してきたのはなぜか、を問うことが社会生物学の出発点の
一つでしょうからね。

でも、僕が問題にしているのは、社会生物学の学界レベルでの共通見解
じゃないんですよ。この理論の社会的受容過程において、「異次元のこ
とがらの同格化」が行われてきた、という点なのです。【3095】で
指摘したとおりです。そして、この同格化が、ドーキンス自身の文章に
も見出される、としたのです。

> ミームは模倣による学習で身につけるものですよね。でも人間
> の後天的に獲得する行動にはそれ以外のもの=「知性」もある、
> とこの高校の参考書は言っていることになる。僕が高校生のとき
> に勉強した教科書でもそうなっていたと思います。
>
> 後藤さんが引用されたドーキンスのうえの文をよんで、僕はただ、
> そのことを思い出しただけでした。
>
> 「別のコンテキスト」とは今言ったようなことです。
えっと、創造者に対する反逆に関する一節ですよね?
学習が反逆ですと?そしたらなぜ、「唯一われわれだけが」なんでしょ
う?えっ?ここは文学的レトリックですって?

> ここで僕は厳密に科学的に考えてドーキンスの議論が異論の
> 余地のないものだといっているのではなく、むしろ常識的な
> ことを言っているにすぎないのではないか、ということを説明
> しようと試みていることにご注意ください。
なるほど!
おっちゃんが酒の肴にしてたしなむ話というなら、理解できます。

> 「専制支配に反逆できる」といっているだけですからね。
>
> 勝利できるとはいっていないし、どのような形態の支配にも
> 反逆するということをすすめているわけでもありませんよね。
>
> 後藤さんのご意見とどこがちがいますか?
いやぁ、僕は、反逆できるとは思っていませんよ!
ま、ただし、反逆=学習と読め、というなら、理解できなくはないです
が、そういう読み方をすると、学習能力の遺伝性も否定しなくてはなり
ませんし、お猿さんもお犬様だって反逆できるのにどうして「唯一われ
われだけ」なのか、矛盾だらけになりますね。でも、おっちゃんの酒の
肴に過ぎないのだ、と割り切れ、というなら理解できます。でも、ドー
キンスは「利己的な遺伝子」を読む限り、とても頭脳明晰で、論理的整
合性が高い人物だ、と僕は思いますよ。

・・・一見すると「自然法則に逆らっている」ように見える行為も実は
すべて自然法則に則っていると僕は思います。ただし、自然の流
れは変えることができます。

生物は物理法則に沿ったものでありながら、物理法則を超えた法
則にしたがいます。しかし、決して物理法則と矛盾することはな
い。これと全く同じように、人間も、生物学的法則に沿いつつも、
それを超えた人間独自の法則性にもしたがっていますね。でも、
やはり、生物学的法則とは矛盾し得ないのです。自然法則とはそ
のようなものだ、と僕は理解しています。違うでしょうか?

識さん【3123】にご紹介いただいたページを辿っていったら、↑に
関連するドーキンスの「真面目な」文章「なぜ私はヒューマニストか?」
を発見しました。
http://www.world-of-dawkins.com/humanist.htm#dawkins
"What is the purpose of life?" already has a
straightforward Darwinian answer and is quite
different from "What would be a worthwhile purpose
for me to adopt in my own life?" Indeed, my own
philosophy of life begins with an explicit rejection of
Darwinism as a normative principle for living, even
while I extol it as the explanatory principle for life.
やはり、話題にしている事柄の時空の異次元性については無頓着ですね。
また、ダーウィニズムの拒絶を人生規範にしているようですが、本当に、
ダーウィニズムに拒絶できると思っているのでしょうか?自然法則には逆ら
えないはずなのですが。「社会」ダーウィニズム(人間社会は弱肉強食
を原理にすべきだという思想、でよいのかな?)の拒絶、というなら理
解できるんですが。


後藤 健
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生命を考える http://www.obihiro.ac.jp/~rhythms
帯畜大 生物リズム学 Phone (& Fax): 0155-49-5612


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