[BlueSky: 3027] 環境と文化の多様性 Re:2994


[From] "SUKA, Takeshi" [Date] Fri, 2 Mar 2001 12:55:29 +0900

ダイさん、akiraさん、葛貫さん、みなさん

   須賀です。

ダイさん[2994]:
> 国際化と欧米化を同一視すると必ず大きな弊害が起こるので、日本は今後も国際化を目
> 指すならば、安易に「世界水準」といった既成の概念を賛美するばかりではなく、文
> 化相対主義的な視点を持ち、非欧米国にも目を向けるべきではないでしょうか。

賛成です。[3021]でご紹介した梅棹忠夫『文明の生態史観』(中公文庫)は
そういう意味でたいへん示唆に富んだ本だと思います。著者の梅棹忠夫は、
大阪千里にある国立民族学博物館の初代館長をつとめられた方です。

akiraさん[3000]:
> 20世紀後半の生態学の大きな成果に、いわゆるサル学、があります。これは社会
> 生物学とも密接に連携していたはずですが、そこにおいて明らかにされたサルの
> 人生模様?は驚きに満ちたものでした。
>
> 研究者が取り入れた方法論は、文化人類学的手法を用いて、サルの生態を
> 記述していく、と言うものでした。そして、それは大きな成果をあげました。

「日経サイエンス」4月号に「文化からさぐるチンパンジー社会」
という記事があります。まだみただけでよんでいませんが、チンパ
ンジーの文化の多様性がとりあげられています。著者はイギリスと
ドイツの学者ですが、日本の研究者も協力しているようです。

(ご参考までにこの号には「バイオマス利用で挑む地球温暖化
防止」という記事もあり、この分野で実用化のすすんだスウェ
ーデンのベクショー市がとりあげられています。)

akiraさん[2999]:
> 果たして欧米人の世界観が唯一絶対なのか? 生物学や医学の根底には
> 『生命観』が存在しています。移植医療・遺伝子操作・動物実験や進化論などの
> 根底には、欧米的な生命感が確固として横たわっています。

進化論がどのような意味で欧米的な生命観と関連づけられるかは、
慎重に吟味しなくちゃいけないことだと思います。ダーウィンの
進化論はキリスト教的な世界観に大きな衝撃をもたらしました。
米国などには今でも反進化論の動きがあります。今西錦司の進化
論は日本文化とむすびつけられることが多いようですが、アンチ
ダーウィンの思想がうまれる文化的土壌は日本に固有のものでは
ありませんし、欧米にもあります。

葛貫さん[3026]:
> 空調の効いた施設内で、同じ物、同じ情報に囲まれて生活して
> いると、長い時間が経過するうちに、同じような精神・心を持つ
> ようになってしまうのかな。放っておくと生じてしまう地域間
> 不均衡を、画一化するのではなく、地域特性を残しながら是正
> する方法がないのかな。

やはり概念だけで満足せずにいろんな土地のてざわりやにおいを
おたがいに知る努力を地道につづけることが大事なのではないか
と思います。[3021]でジャレド・ダイアモンドの『銃・病原菌・
鉄』(草思社)と梅棹忠夫の『文明の生態史観』(中公文庫)と
中尾佐助の『栽培植物と農耕の起源』(岩波新書)に着眼点がよく
にていると思ったと書きましたが、共通しているのは、3人の
著者がいずれもたいへんなフィールドワーカーで欧米や日本以外の
文化をよく知っており、生物地理学的な自然環境の多様性と人間の
歴史との関わりを具体的な事実に即して考えようとつとめている
ところです。

最近買ってひまができたら(っていつだろう?)読みたいと思って
いる本に山田勇『アジア・アメリカ生態資源紀行』(岩波書店)
があります。まだ帯しかよんでいませんが、その帯にこう書いて
あります。「歩くことは考えること  真の意味で豊かな世界を
維持し、修復するためにも、われわれは、まだまだ、この地球を
歩かなければならないだろう。」・・・僕もそう思います。





Takeshi SUKA
Nagano Nature Conservation Research Institute (NACRI)
E-mail: suka@nacri.pref.nagano.jp


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