[BlueSky: 2750] 世界遺産の保全 Re:2746 贅沢は素敵だ! ?


[From] "suka" [Date] Sat, 13 Jan 2001 17:26:26 +0900

akiraさん みなさん
             須賀です。
akiraさん:
> 屋久島の縄文杉を中心とした生態系が「世界自然遺産」に指定されました。
> 遺産、すなわち人間によって所有される資産。運用され、消費される資源。
> 世界自然遺産に指定されて以後、屋久島を訪れる観光客は激増し、入山に伴う
> 環境破壊は深刻化の一途をたどっています。
> もし、この世界遺産という概念に、生態系の主体的な生存権が含まれていたら、
> 当然、選定と同時に厳しい入山規制などの環境対策もなされたはずです。
> しかし、どこまでも人間を主体とした「資源」だったために、選定がかえって
> 生態系の破壊を推進する役目を担ってしまった・・・

わたしは屋久島に行ったことがありませんし、現在の屋久島の状況を
くわしく知っているわけでもありません。しかし自然の保全を文化遺産の
保全からの類推で考えるという自分の立場ではこのことをどう考えたら
いいのか、ということに興味をもちました。自分の類推の仕方が万能で
あるとはもちろん思っていませんが、この立場ではどこまでいけるのか
ということにも興味があるので、こちらから考えてみようと思います。

自然環境の保全とか生物多様性の保全というときの「保全」は、英語
ではconservationといいます。これは人間が利用することを前提と
した考え方です。これとは別に利用目的からはなれて対象それ自身を
まもるときのいいかたとしてpreservartion(保存)とかprotection(保護)
ということばがあります。日本語との対応関係はもちろん完全なもの
ではありません。

preservationやprotection (このちがいをわたしはあまりよくわかって
いません)が大事な場面ももちろんあるとわたしは思いますが、一般
論として「自然と人間」のような図式的な話をするときはconservation
を基本にすえてpreservationやprotectionはその特殊ケースとする方
が話がスムーズに進みやすいとわたしは思っています。

世界遺産の話に関連して面白いのは、英語でconservationという
単語は、美術品や建築などの文化財の保存という意味にもつかわ
れるということです。

これについてのわたし自身の経験をひとつ。以前ボルネオ島(東
マレーシア)サバ州の州都コタキナバルにある博物館に行ったとき
のことです。歴史的文化遺産から現代芸術、自然史までなんでも
あつかっている博物館でした。自然史系の室内展示はみすぼらしい
ものでしたが、屋外に大きな植物園があり伝統的に利用されてきた
さまざまな有用植物が植えられていました。その植物園のなかに
いろいろな民族の伝統家屋の実物展示もあって楽しめました。
さて次はどこへいこうかと敷地の案内図をみると「consarvation
center」という建物があるのに気がつきました。お、自然保護に
ついての研究や展示でもやってるのかな、これはぜひみなければ、
と思っていくと、立ち入り禁止でした。文化財や美術品などの
収蔵物を補修する仕事をしているところだったわけです(笑)。

さてここで突然飛躍して屋久島に類推をはたらかせると、自然遺産
であっても世界遺産として保全しようというのなら「conservation
center」がないといけないのではないでしょうか。考えてみれば
美術品などにしても、一般のひとがみることができるように展示
しますが、必要に応じて柵で囲ったり防弾ガラスでおおったり、
あるいはもっとおだやかに「お手をふれないでください」とかいて
あったりします。それでも損傷や劣化はさけられないことなので
「conservation center」があるのでしょう。こういう仕事をする組織
が自然の遺産にも必要なのではないでしょうか。

もっとも、対象が大きいので、美術品の場合のようにはいかない
と思います。常勤の事務職員と研究職員が何人かいるという程度
の組織では到底やっていけないでしょう。外部からも研究者や
住民・市民や行政担当者もいれてつねにプロジェクト方式で
生態系や周辺地域社会、利用者の状況を追跡調査して、必要に
応じて入山規制や環境の修復あるいはその規模などの対策を
柔軟にきめていくのがのぞましいのではないかと思います。
おそらくネックになるのは行政上の執行権をどうするかという
ことです。そのたびに法律や条令を改正したり国や自治体の
予算をくみなおして議会で可決しなければならないとしたら、
理念や提言の内容はよくても実際には身動きがとれないという
ことになりそうです。こういう問題点をうまく回避できるような組織
のありかたを考えなくてはいけませんね。

以上はあくまで類推と一般論だけにたよった話ですので、実際
の状況にはあわないことがきっとたくさんあるだろうと思います。
屋久島や白神山地、あるいは外国の同じような世界遺産では
このような点についてどういうことがなされているのでしょうか。
ご存知の方にご教示いただければさいわいです。

   須賀




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