[BlueSky: 2727] Re:2708 Endangered Species


[From] "勅使川原 覚 " [Date] Tue, 9 Jan 2001 18:51:58 +0900

こんにちは、akiraです。

佐藤さん:[2708]
> 「絶滅の危機に瀕している動物(たとえばパンダやサイ、虎、・・・・鯨の話は
> 経済が絡んできて、複雑なのでさておいて・・・)を何故保護する必要があるの
> ?」という単純な質問なのですが、ここでは心情的な理由(子供たち、孫たち
> に見せられないとか、在ったものを失うのは惜しいなど)は”さておいて”くだ
>さい。何かメリット、デメリット(勿論人間にとって)の理論的根拠が欲しいで
す。
> ・・・中略・・・ 犀を絶滅に追い込んでいる自然環境の変化が、東京のアパー
>トに住む人の環境に10年なり、50年の間にどれほど影響を与えられるものか
>(ほとんどバタフライ理論)?
> 希少動物の保護、バイオデバーシティの保持、・・・みんな好ましい事の様に思っ
>ているんだけど、情緒的な話ではお金が出てこない。

この発言は、いろいろな意味で興味深いものでした。
ひとつの思考実験なのですが・・・
「絶滅の危機に瀕している動物」を「健常者を主体とした社会システムの構造的障害
によって、日々の暮らしにおいて多大なる困難を強いられている障害者達」に置き
替えて、全文を読んでみてください。
心情的な理由、あるいは倫理道徳観は”さておいて”、マジョリティにとってのメ
リット・デメリットに論点を集約した時、この世界がどのようなものになってしまう
のか、そして、弱者達がその中でどのような運命をたどっていくのか・・・・

グローバリゼーションというのは、アメリカという強者の論理をスタンダードとし
て、世界を一元化していこうという、巨大なうねりです。我々大方の日本人も、
マジョリティの一翼を確実に担って、日々、そのうねりを推し進めています。

東京のアパートに住むごく普通の生活者を取り巻く環境変化の中で、近年見逃せない
大きなトピックに「価格破壊」があります。おそらく、このMLに参加している人の
ほとんどが、その恩恵を享受しているでしょう。

しかし、この「価格破壊」、遠く離れた中国奥地、パンダの生息域の環境変化と密接
に結びついています。それは、この価格破壊がどのようなプロセスで実現されたかを
考えてみれば、一目瞭然でしょう。

価格が破壊された商品の多くが、中国で製造されています。それは、いわゆる100円
ショップの商品がほとんど中国製である、という事実に象徴的ですね。
先進国における人件費の高騰、環境基準の厳格化、土地、水資源の枯渇、などによっ
てあらゆる企業が、未開の大地中国に進出しました。
結果、それまで農業を中心にした生活を営んでいた人々が貨幣経済の旨味と、物質文
明の魅力に目覚め、怒濤のように工場へ、都市へと押し寄せました。
そこで得られた金と商品は、農山村に還流し、さらなる欲望の増幅を促しました。
一方、都市や工場に出て行けるほどの勇気と才覚とコネを持ち合わせていない多くの
人たちは、相対的に効率の悪い農林業の中で、いかにその収入を都市に近づけるかと
血眼になって、山野の乱開発へと走りました。
もちろん、地方における工場の進出、社会資本整備、都市化、なども、はるかに大き
な規模で、山野を乱開発していきました。奥地に行けばいくほど、手つかずの土地が
あり、人件費も安いという理由から、工場は奥地へ奥地へと進出しました。
工場や発電所からは大量の煤煙や排水が垂れ流しになり、酸性雨が森に追い打ちを
かけました。
その結果、パンダの生息域は大きく狭められ、その生態系は劣悪化しました。その結
果、東京のアパートに住む人は、価格破壊という恩恵を享受する事ができました。

これは多かれ少なかれ、世界中の発展途上国についても言える事です。

パンダを保護する事によるメリットと、価格破壊によって得られるメリットを、東京
に住む人の視点で評価したら、答えは明らかでしょう。

生態学的に見ると、東京のアパートに住む人が呼吸している空気の中には、確実に、
アマゾンの熱帯雨林で二酸化炭素から変換された酸素が含まれています。そもそも、
地球生命系というシステムそのものが、本来「グローバル」なもので、どんなに地理
的時間的に離れていようが、すべての要素が無関係ではあり得ない相互作用の
結果として存在しています。

生命系という本来的なグローバルの上に、資本主義市場経済文明という新参者が
あとからやって来てシステムの上書きを強行している、それが現状です。
旧システムを動かしているソフト(自然の摂理)と、新システムを動かしているソフ
ト(市場原理)があまりにも整合性を持たずに、激しい対立を生み出している。
それが、地球環境問題の本質です。

地球生命系にしても、文明によるグローバリゼーションにしても、共通して言える
事。それは、「あらゆる要素が個別に切り離して無関係には論じる事ができない
相互作用」によって成り立っている、と言う事でしょう。

我々が、地球は丸くて宇宙に浮かんでいる、という事実を、知識としては認識できて
も日常的には実感しようがない様に、東京のアパートに住む人間の生活が、世界
中とリアルに関わっているという現実は中々実感する事が難しい。
だからこそ、他者の立場に立って考える「洞察力」、が問われるのだと思います。

そして、利己的なメリット・デメリットという視野狭窄を越えて、他者の立場を本当
にリアルに実感できた時、自ずから、自然な成り行きとして、心情的な使命感、
倫理観、道徳観、と言うものが湧き上がって来るのではないでしょうか。

絶滅の危機に瀕している動物の保護に対する、ひとつの可能な理由付けは、
「中国の人たちが数十年後にある程度の経済的豊かさを実現した時、パンダ
がすでに絶滅していたら、多分おおいに嘆くだろう」ということかな?
日本人が朱鷺やニホンオオカミに大騒ぎしている様に、彼らに同じ轍を踏ませては
ならない。それが、この文明の先輩であるぼくらの義務ではないか、という・・・

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