[BlueSky: 2456] ナガサキアゲハ ( Re:2453 温暖化?)


[From] Kimio OTSUKA [Date] Fri, 20 Oct 2000 13:05:25 +0900

葛貫さん、みなさん

 ナガサキアゲハがたくさんいた「亜熱帯」熊本出身の大塚です。

 「亜熱帯」といわれると違和感を感じてしまいす。
 もっとも、先進国の住民(だと思っている人々)は自分の住んでいると
ころを基準に温帯を考えているので、日本人からみると亜寒帯に見える欧
州(特に北の方)の人たちから見ると東京でも亜熱帯らしいのですが。

閑話休題
 庭に夏みかんなどがはえていたせいもあり、アゲハチョウの仲間はいろ
いろいました。子供の頃、アゲハ(ナミアゲハ)と並んで最もたくさんい
たのはナガサキアゲハでした。当時(1970年前後)はナガサキアゲハは中国
地方の西側までしか分布していなかったようです。
 東京の多摩動物公園にあるチョウの温室では当時から、熱帯や亜熱帯の
チョウをとばせていたのですが、その中には熊本出身のナガサキアゲハと
その子孫もいました。ナガサキアゲハ写真は
http://village.infoweb.ne.jp/~okamoto3/nango01/ca060.htm
にあります。

 シーボルトが長崎で取った標本を元に記載されたといわれるナガサキア
ゲハですが、発見から100年ほどたった1940年でも本州では山口県までし
か分布していませんでした。これが1981年には大阪でも見られるようにな
り、最近は関東でも見かけるというと、このところの分布の拡大が急テン
ポであることは間違いないと思います。

 さて、以下、ナガサキアゲハについて精力的に研究している吉尾政信さ
ん(大阪府大・農・昆虫)からの受け売りです。
 分布が広がる原因としては

・内因説
 ナガサキアゲハ自体の性質が変わる

・外因説
 餌の分布や気温などといった外部的な要因が変わる

の両方が考えられます。

 まず、ナガサキアゲハの餌はクロアゲハやアゲハのような東日本にも広
く分布する種の餌と大きく重なるので、「餌の分布の変化」は当たらない
と考えられます。

 次に内因です。すぐに思いつくのは「耐寒性」の変化ですが、「休眠に
入るタイミング」も同程度かそれ以上に重要です。
 温帯の昆虫の多くが冬を休眠します。休眠に最適な発育段階は種ごとに
決まっていて、それ以外の発育段階では冬の寒さに耐えられず死んでしま
います。ナガサキアゲハなどのアゲハチョウの仲間は蛹(さなぎ)で越冬
します。蛹ならばかならず寒さに強いのではなく、休眠した蛹(蛹のある
発育段階で成長が一旦停止している)が寒さに強いのです。
 したがって、冬の直前にうまく「休眠蛹」になることがとても重要にな
ります。
 この休眠に入るタイミングを計るのに、昼夜の長さが使われます。昼の
長さがある値(臨界日長)以下になると「冬が近い」ということで、休眠
に入るわけです。
 吉尾さんは様々な地域から取ってきたナガサキアゲハについて調べたの
ですが、鹿児島以北では地域間の差はありませんでした。
 つまり、内因説のうち休眠にはいるタイミングの変化は否定されたわけ
です。

 手元には耐寒性の変化についての文献はありません。

 ただ、最近分布が北上した亜熱帯起源の昆虫は他にもいろいろいるの
で、私は外因、特に気候変動の方がより確からしい原因であるように思い
ます。

 マラリアについては中澤さんが詳しいお話をして下さると思いますが、
かつてマラリアが温帯域でも猛威を振るっていた点、蚊に刺されないよう
にする様々な対策が功を奏したという点は葛貫さんが紹介された記事の通
りだと思います。
 ただし、20 C 前半までの気温は低下気味だったとも聞くので、気候変
化が無関係だとも言い切れないと思います。

 マラリアは病原体と媒介する蚊の両方に薬剤耐性が進化してきているの
で、これから脅威が増すのではないかと心配しています。


大塚公雄
東京医科歯科大学
(お医者さんではありません)


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