[BlueSky: 2406] Re:2401 奉仕よりも生活教育を


[From] "Y.Kuzunuki" [Date] Wed, 27 Sep 2000 18:58:09 +0900

こんにちは、葛貫です。

中澤@東京大学人類生態さん:
> それと,曽野綾子さんの文章で一番大事なのは,生きるとはどうい
> うことかを実感させる教育ということですから,現実を直視するこ
> とが大事で,社会奉仕なら何でもいいわけではないと思います。

つい先日、村上龍さんの「希望の国のエクソダス」(文藝春秋社)という
本を読み終わりました。

エクソダスの最初の「e」を大文字にした「Exodus」は、【1352】で紹介した
旧約聖書の出エジプト記のことです。

出エジプト記では、モーゼは、奴隷であったユダヤ人をエジプトから脱出
させ、奴隷であった経験がある世代、奴隷ミームを持った世代が去って
行き、荒野で生まれ育った「奴隷であること」を知らない世代が育つのを
待って、新しい国を作る過程を書いた物語でした。

村上龍さんの本は、「復興への希望だけがあり、物がなかった時代、
そのままの教育を、全てがあり、希望だけがないこの時代にしてもらって
も・・・・」と、ポンちゃんや中村君達、不登校になった中学生がネットワー
クをつくり、市場に関する知識とインターネットを駆使し、経済的な基盤を
確保した後、移住し、自分達の望む生活が実現できるような自治体を合
法的につくってしまう。そして、その地域通貨の価値が国際的に認められ
るようになる(独立国の様相を呈してくる?)、というような物語でした。

その本の中に

「彼ら(金融資本)がすべてを略奪してしまう前に、ASUNAROは、この国の
財を略奪しつつ、この国から脱出しようと考えています。もし、僕らの計画が
決定的に遅れれば、この国は全体が養鶏場のようになることでしょう。餌だ
けはきちんと毎食与えられて狭い鶏舎に閉じこめられた鶏のような人間だ
けになって、略奪だと知らないまま略奪され尽くすことになるでしょう。養鶏
場は、メディアの力を借りて、すでにこの国の隅々まで広がっています。養
鶏場の鶏たちは、何も不足がないと思っていることでしょう。はっきりしてい
るのは、今のこの国と同じで、養鶏場には希望だけがないということです。」
(p.315〜316)

・・・中略・・・

北海道の開拓の歴史を展示した資料館が野幌に開館した。それを一緒に
見に行ったときに、ポンちゃんが中村君にある写真を示した。昭和初期の
網走刑務所の囚人の写真だった。囚人たちは野外で作業をしていた。粗末
な服を着てクワや鋤を持ち、巨大な切り株の横でカメラをじっと見ていた。
生まれてから今までこういう目の人に会ったことがない、とポンちゃんが
中村君に言ったらしい。
「なんかギラギラしている。欲望が強そうな目だと思わない?この人たちに
は何かはっきりしたものが必要で、つまり、肉の入ったスープとか、毛糸の
セーターとか、生きるために直接必要なものだけれど、それが手に入るん
だったら、簡単に人を殺すようなニュアンスの目つきだ。そういった欲望っ
ていうのは、生きる力になるんじゃないだろうか。」(p.417)

・・・中略・・・

「この国には何でもある。本当にいろいろなものがあります。だが、希望だ
けがない」
ポンちゃんはそう言ったのだった。この快適で人工的な町に希望はあるの
だろうか、と考えた。もし希望があるとしても、実現に向けてドライブしていく
動力となるのは欲望だろう。彼らに欲望が希薄なことはポンちゃん自身が
認めている。・・・後略・・・(p.419)

という、文がありました。

人は、ギラギラした欲望を満たすために、技術や社会を発達させてきた、
そして、欲望の表出を牽制し合い、現行のシステムを維持管理するため
に教育を施してきたのでは、と思われます。
「生きる実感、生きる力」というものが、ギラギラした欲望と表裏の関係に
あるなら、本質的に現行の教育とは相容れないもののように思われました。

大多数は、たとえ鶏舎の鶏として生きるとしても、生存の危機やギラギラし
た欲望をリアルに感じないで済むことを、幸せに思っているのではと思います。
今、教育の対象になっているのは、そういう「幸せ」なあり方以外、知らない
子供達で、教育する側も、鶏舎の外に想いを馳せてほしいとは、少しも思って
いない。鶏舎の外に、現実に、どのような危機が潜んでいようと、です。

「生きる実感や生きる力」が「ギラギラした欲望」ではなく、「キラキラした希望」
と表裏の関係にあるなら、教育と相性が良いような気がするのですが。
希望と欲望は、何処が違うのでしょう?

中澤さんの視点からは、大きくはずれてしまったようです。
村上龍さんが最近書かれた物語を読んで、「生きる実感」について上記の
ような感想を持ちました、というお話でした m(_ _)m

419ページの本の中で、自分の頭に引っかかった箇所だけ引用して、
皆様、どう思われます?ってきいても、無理ですね (^^ゞ



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