[BlueSky: 2401] 奉仕よりも生活教育を Re:2329 提供御礼 & ボランティア活動


[From] Minato Nakazawa [Date] Wed, 27 Sep 2000 11:11:25 +0900

中澤@東京大学人類生態です。ちょっと考えが変わったので。

(件名:[BlueSky: 2329] Re:2322 提供御礼 & ボランティア活動に
於て)
Fri, 8 Sep 2000 11:05:55 +0900頃,yuichiro komiyaさん:
> 他だ僕は、国からなにか労働を強制される、と聞くと、どうしても
> 違和感を感じてしまい、すぐ徴兵制度の復活とかファシズムとか
> 連想してしまうんですが、これも戦後教育の弊害の一つかもしれ
> ません(僕のような連想をする人は恐らく少なくないと思うので、
> 実施に移す場合はよほど注意しないと真意が捻じ曲がって伝
> わってしまう恐れがあると思います。もちろん、葛貫さんが言わ
> れるように、本当に捻じ曲げられてしまう恐れもあるし)。今の子
> 供達は他人のためになにかするということを実践、体験する機
> 会が少ないと思うので、そういう意味でもいいかもしれませんね。
小学館文庫で西尾幹二編著『すべての18歳に「奉仕義務」を』とい
う本が出ているのを見つけました。石原慎太郎都知事のコメントな
どもついていて,「奉仕義務」というコトバが一人歩きすると,い
ろいろな人の思惑が重なって利用され,もともとの主旨と違ってし
まう可能性が高いなあと感じました。だからこそ「義務」というコ
トバへの警戒心が強いわけですし。

義務づけでは融通がきかないことも考えれば,東京都老人研の前副
所長だった柴田博さんが「肉食のすすめ」という本で書いているよ
うに(柴田さんは老後の暮らし方の指針として薦めているのです
が),自発的な相互扶助による自己実現というのが理想だとは思い
ます。ボランティアがいかに長期的にみれば自分のためになるのか
という教育を通して動機付けして,かつボランティア活動ができる
時間を与えるという。人々の英知を信用し,性善説でいけるならば
これでいいのですが,現実にはそうもいきませんよね。

それと,曽野綾子さんの文章で一番大事なのは,生きるとはどうい
うことかを実感させる教育ということですから,現実を直視するこ
とが大事で,社会奉仕なら何でもいいわけではないと思います。つ
まり,生活教育としてしっかりとしたカリキュラムを組まなくては
効果がないのではないかと思います。たとえば,ゴミ収集や,集ま
ってきたゴミを再生できるように分別する作業,食肉加工,発電設
備の保守,葬儀などなど,生きていくために必要な営為で,そのお
かげで生きていられるのだけれどいろいろな理由で子どもたちの目
から隠されていることを直視させ体験させる年間カリキュラムをき
ちんと組めば,初期の目的があげられるように思います。逆にいえ
ば,教育としてカリキュラムを組んでしまえば,妙な思惑で利用さ
れる危険は減りますよね。何が必要かということはPI (Public
Involvement)でオープンに論議して,常に見直し可能なようにする
ことも大事でしょう。地域独自の事情もあるでしょうから,自治体
ベースで弾力的にプログラムされることも必要です。

もちろん生活実習ということでやるとすれば指導者が必要ですが,
現在の学校教員だけでまかなえるとは思えないので,非常勤(ただ
し社会保障,身分保障をきちんとして,自治体が責任を負う)で現
場の作業者を講師として雇用し,教員と協力して実習する体制をつ
くればいいのではないでしょうか。

農作業については,一つアイディアが浮かびました。ただ従事する
のでは生産の場にかかわることにはなりますが,それが消費につな
がらなくては,自分たちが生きていくために食べるものを手に入れ
るにはどれくらいの農地が必要か漁場が必要か,それらがどういう
ルートで手に入っているのか,といったことが実感できません。そ
こで(かなり机上の空論ですが),自治体営あるいは学校営の農園
をたくさん作って,年間の学校給食を自給できるくらいまで農作す
るというのはどうでしょう? 生徒だけでできない部分は,それこ
そ地域の大人や保護者がボランティア活動で補えば,無理ではない
ような気がします。東京23区のように農地がほとんど無くて水利も
期待できないところは,他に農地を買うか借りるかして,作業は合
宿形式で行うという手段がありえます。学校全体の分を賄える生産
物を維持管理するために,順繰りに作業に従事すれば不可能ではな
いような気がします。これができれば食糧自給率も上がるし,生き
るとはどういうことかを実感させる教育にもつながるのではないで
しょうか? 農耕方法についても,どういう方法がいいのか(例え
ば永田農法を採用するのか)ということについての検討への社会的
な要請が生まれるはずで,大人の目も生きるということに向かうこ
とが期待され,とってもいいことのような気がするのですが。
どうでしょう?

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Minato Nakazawa, Ph.D. <minato@sv3.humeco.m.u-tokyo.ac.jp>
Department of Human Ecology, Univ. Tokyo
[WEB] http://sv2.humeco.m.u-tokyo.ac.jp/~minato/index-j.htm


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