[BlueSky: 2385] Re:2383 調査捕鯨拡大にたいして、米が制裁発動


[From] Minato Nakazawa [Date] Tue, 19 Sep 2000 18:31:32 +0900

中澤@東京大学人類生態です。

(件名:[BlueSky: 2383] 調査捕鯨拡大にたいして、米が制裁発動
に於て)
Mon, 18 Sep 2000 22:05:09 -0400頃,Sato, Kenjiさん:
> な努力を続けるのは当然ですね。実は水産庁も、捕鯨が「社会的、政治的な重大な問
> 題でない」から強硬な姿勢を取れるのかも。
うーん,さすがに穿ちすぎでは?

> ちなみに、アメリカ国内ではエスキモー(イヌイットと呼ばないといけないのかな)
> の人たちは年間一人あたりだか、家族あたりだかで、2-3頭の鯨捕りが認められてい
> ます。パンダマークやら緑豆の人たちも、総数の少なさと”あの人達は特別”みたい
> なダブルスタンダードの立場を取っているように見受けられます(個人的な知り合い
> からの印象にすぎません)。
しかし,セントヴィンセントのベックイ島に住む70歳過ぎの老人が
親戚と一緒に手漕ぎボートと手投げ銛でする捕鯨について申請中の
原住民生存捕鯨枠については,親子連れを獲るから駄目だとして反
捕鯨国は強硬に反対したそうです。このことから考えると,イヌイ
ットに原住民生存捕鯨枠を認めているのは,彼らがカナダや米国の
市民であり,かつ寄付金を出すような人々に「あの人たちは特別」
と認知されているからに過ぎないのではないかと,ぼくには思われ
てなりません。

> > 日本には,ではなく,漁業をする以上は,海洋生態系の最上位
> > に位置していて,それなりの繁殖力ももっているクジラだけ
> > 獲らないというのでは,バランスが崩れます。
> ちょっと??です。魚を取って少なくするから、鯨も捕らないとバランスが崩れるっ
> てちょっと変な感じがします。最上位に位置していれば下が少なくなれば、放っとい
> ても上も少なくなると思うので、捕鯨の正当化にはふさわしくないような・・・。文
> 意を読み違えたかな。
完全に放っておけるなら,それはそれでいいのですが,海産物需要
の高まりや,それを代替できるほどの畜産を考えたとき,それに必
要な牧草地を拓くための森林伐採がもたらす影響とかいったことを
考えると,漁業をやめるというのはナンセンスです。

餌となる魚類の減少のために餓死する鯨というのが実際に出現し始
めているそうです。つまり,鯨と魚類を被食捕食関係(ロトカ=ヴ
ォルテラ的な)と捉えれば,佐藤さんが指摘されたフェーズに入っ
てきていると考えられます。しかし,そうなったということは,餌
となるサンマ,カタクチイワシ,スケトウダラなどの量が,鯨の食
欲によって制限されている状態を意味します。とすれば,ヒトがサ
ンマを安定して獲り続けたければ,鯨の量を積極的に減らしてやら
ないとうまくないことになりませんか?

>   アメリカが江戸末期の日本に開国を迫ったそもそもの発端が、
> 鯨捕りの船に食料や燃料を補給するのに便利だからと昔どこかで
> 読みました。肉も食べずに鯨油の為に鯨を乱獲していたアメリカ
> に、昔から近海の鯨をたま〜に取って食べてただけの日本が、捕
> 鯨を拡大する事で制裁を受けるとは、皮肉です。
World Readerに載っている恵谷洋さんの記事
http://world-reader.ne.jp/renasci/another/etani-000919.html
にも書かれています。
# ちなみに,秋道智彌「クジラとヒトの民族誌」(東京大学出版
# 会)によれば,欧米の捕鯨の目的は主に2つで,鯨油のほかに,
# クジラのひげ(コルセット用など)を狙ってヒゲクジラ類を乱獲
# したそうです。欧米での鯨油需要が低下したのがカリフォルニア
# 州で石油が出たことによるという話からすると,最初から彼らが
# 必要としたのはクジラではなかったのです。そう考えてくると,
# 米国の強硬な態度は,「日本を叩くこと」と「クジラ保護〜環境
# にやさしいイメージ」がともに票に結びつくからではないかと思
# えてしまいます。

取り急ぎ。
=====
Minato Nakazawa, Ph.D. <minato@sv3.humeco.m.u-tokyo.ac.jp>
Department of Human Ecology, Univ. Tokyo
[WEB] http://sv2.humeco.m.u-tokyo.ac.jp/~minato/index-j.htm


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