[BlueSky: 2239] Re:2234 自然の価値


[From] "SUKA, Takeshi" [Date] Sat, 19 Aug 2000 19:32:07 +0900

須賀です。

葛貫さん:
> 環境の方を、ある程度、自分の都合に合わせて変える力を持った
> ヒトは、種分化のかわりに、それぞれ土地の風土にあった多様な
> 文化を創り出したのでは、というような話をどこかで読んだことが
> あります。同じ種でも、地域により違う「生の物語」を生きているの
> だろうな、と思われました。
> 交通手段、通信手段が発達したからといっても、そう簡単に画一
> 化を図れるものじゃないし、画一化を図ることが、持続可能な未来
> へつながるかどうかはわからない、と思いました。

賛成です。確かに、そういう視点はとても大事だとわたしも思います。
しかしむずかしい問題があります。

今世紀の100年間に世界の人口は約5倍にふえました。エネルギー
消費量の増加率はこれを上回るでしょう。来世紀にも、発展途上国
全体では人口がさらに2倍から3倍にふえるといわれています。
経済と情報のグローバル化も拡大しつつあります。いたるところで
自然に対するひとびとの要求のぶつかりあい、価値観や情報のぶつ
かりあいがおこるでしょう。わたしたちは過去の世界とはちがった
世界に生きています。その世界は今も変化のただなかにあります。
そのなかで画一化の弊害をおしとどめながら、どのように持続可能
な未来のために互いにおりあいをつけていったらいいのでしょうか。

自然の保全と利用、あるいはその価値についての議論も、このよう
な問題に答えを出すことをもとめられていくとわたしは思います。

このような状況のなかでは、多様な文化を守るべきだと言う主張
も、矛盾をはらんだむずかしい立場におかれることになります。
経済のグローバル化によって、環境問題もグローバル化し、それ
に対処する動きもグローバルな側面をもたざるをえなくなります。
つまり、ローカルな文化の多様性を守るべきだという主張や実践
を、グローバルな視点でおこない、世界のひとたちの賛同を得る
ようにしていかなくては、目的を達成することがむずかしくなり
ます。

まだ十分に成功していないかもしれませんが、生物多様性の保全
と利用についての議論にも、そういう方向の議論があり、わたし
はこれに強い関心をもっています。

生物の多様性と文化の多様性をむすびつける議論がそれです。

たとえばフィジーの南太平洋大学にいるThamanという学者は、
生物多様性(biodiversity)という用語のなかに

1. 生態系の多様性
2. 種および分類学上の多様性
3. 遺伝的多様性

というどんな教科書にでものっている意味のほかに

4. 民族生物学的多様性(Ethnobiological Diversity)

という意味をふくませると言っています。彼によれば、民族
生物学的多様性とは、「特定の社会、民族集団や共同体が彼ら
の周囲にある生態系、種、分類群、および遺伝子の多様性に
対してもっている知識、利用、信仰、資源管理システム、保全
の実践、民俗分類および言語」とのことです。学問の分野で
いえば、民族生物学(民族植物学もこのなかにふくまれる)、
生態人類学、文化人類学などがこのような分野にかかわって
いるのではないでしょうか。しかし主人公はあくまでそれら
の伝統的な文化をもったひとびとであって、「彼らにとって
の生物多様性を保全する」ことをThamanは主張します。

わたしはこの考えに賛成です。実際、このような考え方をとら
なければ世界の生物多様性を保全し、持続可能に利用すること
などおぼつかないはずですし、何より生物多様性を保全すると
いうことの意味そのものがひとびとに理解してもらえないでし
ょう。(この考え方で理解してもらえるかどうかというのもま
だ残された問題ですが。)

ところで、このような考え方は Thaman ひとりが主張してい
るわけではありません。例の強引なへりくつ(?)をのべた
UNEP の「Global Biodiversity Assessment 」でも、生物
多様性という概念のなかに「文化の多様性」をふくませています。
(あの「利他主義」の話もこういう文脈のなかにおいて解釈する
ことができるのではないかというのがわたしの理解です。)

もっとも、お気づきのとおり、これは環境問題のグローバル化
のなかでローカルな文化と自然を守るという課題を、グローバル
な課題として設定しようという動きだと思われます。その実践
の舞台は、それぞれのローカルな社会になるでしょう。それを
うまく実現できるかどうかにはまたその先のむずかしさがある
でしょう。

たとえば、国際的な援助機関などがローカルな文化とその自然の
多様性の持続的発展を支援するプロジェクトを実施するとします。
計画のための話し合いの段階では地域社会と援助機関のあいだで
意見が一致するかもしれません。しかし実施の段階では、当事者
どうしの考え方や文化のちがいからトラブルがおこることもある
でしょう。

ですから、このように外部からのサポートをおこなうときには、
地域社会の自律性に対して最大限の注意と敬意をはらわなくては
ならないと思います。

けれども、だれかはこのようなことを考え、とりくんでいなければ
ならないのではないでしょうか。

みなさんはどう思われますか?











Takeshi SUKA
Nagano Nature Conservation Research Institute (NACRI)
E-mail: suka@nacri.pref.nagano.jp


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