[BlueSky: 2221] Re:2220 害虫とレッドデータブック


[From] Minato Nakazawa [Date] Tue, 15 Aug 2000 10:42:12 +0900

中澤@東京大学人類生態です。

害虫にはハエ,蚊,ブヨなどの衛生害虫というのもいます。
ゴーガスがパナマ運河を掘るために開放水面に徹底的に油を撒くなど
発生源対策をしてハマダラカを殲滅し,マラリアを制圧したのは人類
の英知が過酷な自然に打ち勝った美談として捉えられています。ハマ
ダラカの地域個体群の遺伝的構造は大きく変わったに違いありません
が,マラリアでばたばたと労働者が死んでいく状況下ではそんなこと
は考える余裕がなかったでしょう。
(詳細は,http://sv2.humeco.m.u-tokyo.ac.jp/~minato/m6.htm

(件名:[BlueSky: 2220] Re:2219 害虫とレッドデータブックに於て)
Mon, 14 Aug 2000 20:09:53 +0900頃,SUKA, Takeshiさん:
> 「人間が意図的にこしらえたもの」と「自然界にもともとあるもの」
> のどちらが人間にとって価値あるものか、という話になると、議論
> はぜんぜんちがってくるはずです。
これも難しいのです。人間も自然の一部ですし,こしらえるのには
労力がかかっていますし,こしらえるという行為は脳の本来的な
自己実現ですし。(少なくとも)これらの点で自明ではありません。

人智と自然の間で場合によってふらふら揺れるのが人間の価値観
ではないかと思います。つまり,価値観は可変であるというのが
本質的な問題点だと思います。害虫を論じるときと,絶滅危惧種
を論じるときでは,価値観が違うのです,たぶん。
人智は自然に含まれているので,本来は対立概念ではない筈です
が,須賀さんが言われる「素朴な」捉え方,つまり一般的な捉え
方ではやはり対立図式となっています。

正倉院の建材を白蟻が食っていたら,仮にそれがどんなに希少な
白蟻でも,たぶん,殺虫剤を撒こうという合意形成がされます。
この場面では,価値観が人智側にふれています。

透き通ったサンゴ礁の海を見て,ここにしかいない稀少種が絶滅
しかかっていると知ったら,そこを開発しようとする計画には
反対したくなるでしょう。この場面では価値観が自然側にふれます。
でも,開発によって何かの病気がなくなるとか,飢えから解放
されるとかいったメリットがあったら,それがデメリットかも
しれないことには気づかないままに,価値観が人智側にふれて
開発推進に傾くかもしれません。

デメリットかもしれないことに気づくレベルに人智が到達すれば,
人間自身を含む生態系についての価値判断ができるようになるかも
しれません。自分を含めて客観視するというのは,必ずしも神の
視点というわけではなく,これほどまでに大きくなった脳に
とっては,自然な営為であるように思うのですが。

#話が拡散してしまったかもしれません。すみません。
=====
Minato Nakazawa, Ph.D. <minato@sv3.humeco.m.u-tokyo.ac.jp>
Department of Human Ecology, Univ. Tokyo
[WEB] http://sv2.humeco.m.u-tokyo.ac.jp/~minato/index-j.htm


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