[BlueSky: 2093] Re:2092 遺伝子組換えポテト


[From] Minato Nakazawa [Date] Tue, 27 Jun 2000 02:55:17 +0900

中澤@東京大学人類生態です。

(件名:[BlueSky: 2092] Re:2091 遺伝子組換えポテトに於て)
Tue, 27 Jun 2000 01:48:54 +0900頃,ICHINOSE,Takeshiさん:
>  世間の風潮というものは、非常に無責任なものでありながら、威力絶大な存在
> で、これ自体が科学的事実を圧殺することも珍しくありません。
そういうこともあるかもしれません。たしかに注意すべきかと思い
ます。

>  中澤さん紹介の研究にしても、それが真に事実であるのか、或いは、風潮にの
> っかった、曲学阿世の結果であるのか、私には容易に判断できません。
Lancetというピアレビューのある医学の一流誌に載ったという点か
ら,ある程度の信頼性があると思われます。また,ぼくが読んだ限
りにおいては,統計処理も妥当だと思われました。データが虚偽で
ない限り,曲学阿世ということはないと思います(ここで,データ
が虚偽というのは,有意な結果だけを採用するということを含みま
す)。
ネガティブな結果は報告されにくいというPublication Biasの問題
は確かにありますが,今後追試されることによって検証されていく
ことだと思います。

>
>  すくなくとも、その遺伝子組み替えポテトが既に食用に供されているのならば、
> その際にしかるべき安全性試験も行われて、”安全”という結果が得られている
> はずです。
Lancetの論文には,調べたGMポテトが食用としての許可が下りてい
るものかどうかは明示されていませんでした。レクチン遺伝子の導
入によってマンノースの結合性を高め,昆虫と線虫への抵抗性を高
めたものだそうです。害虫抵抗性のGMポテトはモンサントによって
開発され,日本でも認可がおりていますが,それと同じかどうかは
論文からは不明です。
# 書き出しはhuman food-chainにGMポテトが増えてきている,と
# なっているので,当然人間の食べ物を視野に入れていると思い
# ますが。

しかし,Lancetの報告の骨子は,導入前のポテトとGNAを同時に与
えた場合と,GNA遺伝子を導入したポテトを与えた場合を比較して,
小腸粘膜などで統計的に有意な差を検出したという点にあり,実質
的同等性に抵触するだけでなく,GNA単独の効果では予測されえな
かった副作用が出たことが問題なのだと思います。
どこに影響が出るのかが事前にわからないわけですから,実質的同
等性という概念自体の怪しさを示唆しているような気がします。
#もっとも,従来型の育種でも同様な危険はあるかもしれないとい
#えば否定できませんが,それでもなおこの指摘は意味をもちます。

=====
Minato Nakazawa, Ph.D. <minato@sv3.humeco.m.u-tokyo.ac.jp>
Department of Human Ecology, Univ. Tokyo
[WEB] http://sv2.humeco.m.u-tokyo.ac.jp/~minato/index-j.htm


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