[BlueSky: 2044] 水処理について


[From] samaki@hs.p.u-tokyo.ac.jp (左巻  [Date] Mon, 05 Jun 2000 11:54:04 +0900

 左巻健男です。
 1年半前からやっていた水環境本ですが、やっと第一次原稿をほぼ終わりま
した。
 次のような章構成です。
 一応化学教育が専門なので1と6に力をいれたつもりです。その他はちょっ
と自信がありません。入門書なので深く突っ込めないという制約もあります。
 ログを拝見していますと下水処理の専門家も参加されているようなので、
下水処理の記述をチェックしていただけると幸いです。一番知識が浅い分野で
書いていてつらかったです(^^;。
 入門ビジュアルエコロジーシリーズの1冊で、下水処理は逃げたかったので
すが本のテーマ上基本的なことは入れる必要がありまして…
 これから1,2週間で図を入れながら手直しをしていきます。
 
*1章 おいしい水、健康によい水とは?

1−1 井戸水はなぜおいしい?
1−2 クラスターが小さな水は健康によい?
1−3 名水の秘密
1−4 ミネラルウォーターとはどんな水?
1−5 ミネラルウォーターの異物騒ぎ
1−6 浄水器のしくみと中空糸膜のヒミツ
1−7 浄水器のかしこい使い方
1−8 浄水器の試験結果(据え置き型)
1−9 浄水器の試験結果(蛇口取り付け型)
1−10 アルカリイオン整水器のしくみ
1−11 「酸性とアルカリ性」と「酸性食品とアルカリ性食品」
1−12 アルカリイオン水についての国民生活センターの試験結果
1−13 アルカリイオン水には効能があるというデータ
1−14 水博士川畑愛義さんのアルカリイオン水批判
1−15 パイウォーター
1−16 磁化水
1−17 特殊な石を使った水
1−18 波動水(波動共鳴水)
1−19 酸化還元電位(ORP)による水の評価

*2章 水道水は安全か

2−1  水道がしかれたのはなぜ?
2−2 水道水が私たちの家庭に届くまで
2−3 水道水に混じっているあぶない物質
2−4 クリプト原虫による汚染
2−5 カルキ臭、カビ臭をもつ水道水
2−6 安全かつおいしい水道水の基準
2−7 おいしい水道水の地域
2−8 水道水をより安全に飲む方法

*3章 水資源と水系の汚染

3−1 飲める水はどのくらいある?
3−2 海の鉱物資源
3−3 海洋深層水の利用
3−3 海水を飲み水に変える
3−4 水の循環
3−5 世界の水資源
3−6 日本の水資源
3−7 漁民が山に木を植えるのはなぜ?
3−8 日本の水使用の現状
3−9 地下水の汚染
3−10 BODとCOD
3−11 湖沼水の富栄養化
3−12 パックテストによる水質の調べ方
3−13 合成洗剤と水の汚染
3−14 日本の水資源と環境
3−15 水環境を汚さないために家庭でできること

*4章 水と生命

4−1 ヒトの体を1日に出入りする水の量
4−2 体の中の水の量
4−3 体の中の水のはたらき
4−4 地球の歴史−海ができるまで
4−5 地球の歴史−水の中で生命が生まれた
4−6 ミネラルとヒトの体
4−7 カルシウムイオンとマグネシウムイオン
4−8 硬水と軟水
4−9 硬水で下痢をするのは本当か?

*5章 下水処理と水リサイクル

5−1 下水処理のしくみ
5−2 下水道をつくれば川はきれいになるか?
5−3 流域下水道の問題点
5−4 トイレの水はどうなっている?
5−5 浄化槽をみてみよう
5−6 いろいろな水リサイクル

*6章 そもそも水ってどんなもの?

6−1 水のもつさまざまな不思議な性質
6−2 水の成分(水素と酸素)探究史
6−3 軽水と重水
6−4 水分子の構造
6−5 水素結合
6−6 氷の構造
6−7 液体の水の構造
6−8 水の状態図
6−9 水の表面張力
6−10 水は電気を通しやすい?
6−11 水は「水色」の理由



5−1 下水処理のしくみ

 人間の生活と生産活動が原因で生ずる汚水、すなわち家庭の台所や風呂場などからの雑排水、水洗便
所排水、工場・事業場(学校、官庁、病院、駅、オフィス、公共施設など)からの排水および降雨、降
雪によって流出する雨水、融雪水をまとめて下水といいます。 それらの下水を管でつないで一カ所に
集めて処理し、川または海に流すものを下水道といいます。下水道には浄化槽は入りません。
 下水道の定義が欧米と違うことに注意が必要です。わが国では下水道というと下水道法に基づいて建
設・管理されているものと限定して、合併処理浄化槽や農村集落排水施設をふくみません。欧米では下
水を処理する施設はすべてふくみます。
 合併処理浄化槽や農村集落排水施設などの汚水処理施設もふくめたほうが、河川や湖沼の環境を考え
る際に実際的です。

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表:下水道など汚水処理施設の分類

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 図に示すように現在の日本の下水道普及率は、全国平均で54%(95年度末現在)ですが、これには合
併処理浄化槽や農村集落排水施設などの汚水処理施設をふくめていません。
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図:下水道普及率

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 多くの下水処理場では、活性汚泥法という微生物を使った分解処理法をとっています。 まず第一沈
殿池で下水中の固形物をとり除き、次に下水をばっ気槽に導きます。ここには活性汚泥が活躍していま
す。活性汚泥は、細菌や原生動物などの微生物が集まってぼたん雪のようになったやわらかい固まりで
す。活性汚泥の細菌などの微生物は、酸素があると活発に呼吸をし、汚れ(有機物)を分解します。私
たちが細胞で栄養分(有機物)と酸素からエネルギーを取り出し、二酸化炭素と水にしているのと同じ
ように、微生物は汚れ(有機物)と酸素から生活するためのエネルギーを取り出し、二酸化炭素と水に
しているのです。そこで処理した水は第二沈殿池に送り、きれいな上澄みを殺菌して川や海に放流して
います。
 沈殿池では大量の汚泥が発生します。その汚泥は沈殿池から抜き取られたときは水をたくさんふくみ
含水率九十%というドロドロの状態ですので、脱水機にかけて水分を抜いて「脱水ケーキ」にします。
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図:下水処理のしくみ


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 下水処理場での処理後の沈殿池にたまる汚泥の処分が全国的な問題になっています。
 「脱水ケーキ」を埋め立てに用いたり、これを焼却し、灰として山に埋めたり、海に捨てたりしてい
ます。また灰を高温で融かして固体(溶融スラグ)に変える処理方法もあります。このスラグは有害物
質をそのガラス質中に封じこめた無公害物質です。このため、土木用資材として、コンクリート製品の
骨材として用いられています。
 下水処理によって発生する汚泥量は93年度で230万7000m3にのぼり、そのうち75%が埋めるか捨て
られています(表)。
 再利用されているのはわずか25%で、そのうち約90%が畑の肥料として使われています(表)。
http://www.toshiba-machine.co.jp/TECH/techrepo/no18/kaihatu/
 
5−2 下水道をつくれば川はきれいになるか?

 多くの下水処理場で行われている活性汚泥法では、アンモニア性窒素やリンが十分に除去できませ
ん。そのため、下水道がなかったときには、くみ取りで川にし尿が入らなかったのに、アンモニア性窒
素などが下水処理水から入りかえって川が汚れるということがおきています。
 このアンモニア性窒素やリンが流入が増加すると、生物の繁殖が活発になります。この現象を富栄養
化といいます。富栄養化が進行すると、藻類が異常に増殖し、悪臭などの不快感を招いたり、海域では
赤潮の発生による魚介類のへい死が起こります。
 川や海のさらなる水質浄化を進めるために、この栄養塩類を除去する高度処理が必要となります。
【高度処理】
 高度処理は色々な処理方法がありますが、横浜市の都筑下水処理場(江川せせらぎ放流水)の例を紹
介します。
 標準法のばっ気槽を嫌気槽、好気槽、無酸素槽等に分けて、生物学的に窒素やリンを効率よく除去す
る方法です。
 リンは嫌気槽で活性汚泥から一旦放出されますが、その後の好気槽で活性汚泥によって過剰採取され
ることにより除去されます。
 また、窒素は、好気槽で活性汚泥によって酸化されて硝酸性窒素になり、無酸素槽で窒素ガスとして
除去されます。
 さらに、せせらぎ等の修景用水として利用する場合は、砂ろ過施設で浮遊固形物をろ過したのち、滅
菌のためにオゾンを注入します。
http://www.city.yokohama.jp/me/cplan/mizu/ge12.1.html
 
【四万十川方式】
 四万十川方式は、水田の水浄化機能を手本に、本来自然が持っている物質循環の自然浄化機能を活か
した新しい水処理システムであり、「自然循環型水処理システム」と呼んでいます。この技術をこれか
らの水環境づくりの手法として確立するため、東京大学大学院の松本聰教授を会長とする産・学・官組
織で構成された「四万十川方式水処理技術研究会」で実証・研究を進めてきました。
 この方式は、化学薬品を使用せず、木炭や枯れ木、石等の自然素材を加工した充填材を適切に組み合
わせることにより、微生物の力を主とした水質浄化を行います。
*充填材(ろ材)には、シイタケ栽培の廃材(ほだ木)も活用するなど、地域の資源の再利用も図られ
ています。
 BOD(生物化学的酸素要求量)、COD(化学的酸素要求量)及び SS(浮遊物質量)の除去とともに、
通常の方式では除去困難な窒素、リン、LAS(陰イオン界面活性剤…家庭用洗剤の主成分)も削減でき
ます。
 また、従来の方式に比べて、保守管理の面でも優れた特徴をもっています。

基本タイプ
●四万十川方式は、自然流下と保温のため、排水路の水位にあわせて地中に埋設します。高低差がとれ
ない場合のみ、ポンプアップを行います。
▲水路埋設タイプ
水路埋設タイプ
●都市下水路など、周囲に適当な場所が確保できない場合には、水路の河床に埋設することも可能で
す。
設置実績
 このシステムは、生活排水などの水処理技術として高知(四万十川流域)で考案されたもので、平成
9年度末現在、流域をはじめ高知県内に16基、県外に8基の四万十川方式水処理施設が設置されてお
り、都市下水路などの汚濁水処理の他、大型の合併浄化槽の3次処理(高度処理)が行われ、処理水が
再利用されているところもあります。また、生活排水の他に、四万十川の汚濁源の約3割を占める畜産
排水を対象とした実験プラントも設置し、研究を進めています。

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1.沈殿糟
2.接触濾材糟(浮遊性有機物質除去)
3.脱窒糟(ゼオライト;ニトロライト)
4.空曝気糟(溶存酸素補給)
5.脱燐・脱色(Ca++;石灰岩;リントール)
枯れ木・枯葉(微生物が炭素系有機物を分解;窒素の吸収
木炭(合成有機化合物の吸着・分解)
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5−3 流域下水道の問題点

 政府は事業主体を都道府県とした複数の市町村にまたがる補助率の高い流域下水道を進めています。
流域下水道は、下水道事業の一形態で、二つ以上の市町村にまたがって下水道を整備する際に、都道府
県が処理場と幹線を設置管理するものをいいます。流域下水道は、大都市地域の水汚染を早期に解消
し、人口急増地帯など市街地における下水道整備を有機的、一体的に進めるために発足したもので、
1965 年に大阪府の寝屋川流域下水道が最初に整備されました。それ以後大都市域に限らず広域的な下
水道整備手法として全国的に実施されています。
 終末処理場を最適な場所に設置できる、高度の技術で安定した処理ができるなどといううたい文句で
進められていますが、強い批判が存在しています。
 一番の問題は、「広域である」ことから、管渠が長くなるので建設費が膨大なものになります。ポン
プ場も必要になります。結果として建設コストが高く、長期計画のため金利負担が大きくなるという点
です。処理施設が集約されることで、単位水量当りの建設費の逓減と人件費・運転経費などの維持管理
費が節減できるという経済性は、膨らむ建設費に消し飛んでいます。現在の流域下水道の幹線は1メー
トルで100万円くらいかかります。1キロなら10億円です。それなら、せいぜい1キロメートルから2
キロメートルの幹線の中型処理場を自然に即した形でつくったほうが大幅にコストダウンできます。合
併浄化槽ならなおコスト的に有利です。
 また将来性についても批判されています。将来、水戦争(水資源の取り合い)がおこる時代になるで
しょう。そのとき、一番下流にもってきて海に流してしまう方法でよいのか、むしろ、上流、中流に比
較的小さいものをつくって繰り返し利用していくほうが賢い計画になるのではないか、という批判で
す。
 とにかく流域下水道のようないたずらに規模を追及することはすでに過去のものと言えるでしょう。

5−4 トイレの水はどうなっている?

 水洗トイレの汚物の処理の仕方は、地域によって違っています。
 下水道が普及している地域は、下水管に流されます。下水管は下水処理場につながっていて、集めら
れた下水は、下水処理場で処理されてから川や湖や海に流されます。これらの下水道に対して、私たち
が飲む水道は、上水道と言います。
 トイレの汚物は、水を除くと有機物です。下水道のある地域は下水処理場で処理して放流していま
す。
 しかし、下水道が普及していない地域がたくさんあります。工事に時間とお金とかかるので、普及率
(普及の割合)がなかなか上がらないのです。
 定期的にバキュームカーでくみ取りにくるところでは、くみ取られた汚物(し尿)は、し尿処理場に
運ばれて処理されます。し尿処理場の処理のしくみは、基本的に下水処理場と同じです。
 下水道が普及していなくて「くみ取りではない」というところは、浄化槽で処理しています。
 では、浄化槽で処理された水はどこにいくのでしょうか。
 結局、道路の端にある排水溝などを通って川や湖や海に流れていきます。家庭から出た水は、どこか
でなくなるのではなく、必ず川や湖や海に流れていくのです。そして、川に流れるし尿処理水や下水処
理水は、また水道のもとの水になったりしています。

5−5 浄化槽をみてみよう

 浄化槽にはし尿だけを処理する単独浄化槽と台所や風呂の水もし尿もまとめて処理する合併浄化槽と
があります。浄化槽の処理のしくみも、基本的に下水処理場と同じです。単独浄化槽は処理する力が
ずっと落ちます。合併浄化槽のほうがいろいろな水が混ざっているので細菌がすみよい環境になってい
るので単独浄化槽より有機物を分解する力が強いです。また、台所からの水には有機物がたくさんふく
まれていますが、単独浄化槽ではそれを処理しません。汚れた水をきれいにするには、下水道が整備さ
れていなかったら合併浄化槽がよいのです。
 *後でもう少し付加する

■左巻健男(SAMAKI TAKEO)
■東京大学教育学部附属中等教育学校:化学・理科
■〒164-8654中野区南台1-15-1 電話 03-5351-9050(代)
■電話 03-5351-9659(教官室直通)FAX 03-3377-3415 
■E-MAIL:samaki@hs.p.u-tokyo.ac.jp
■法政大学工学部兼任講師(理科教育)


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