[BlueSky: 1964] Re:1862,1863 栄養塩類と細菌叢


[From] "Y.Kuzunuki" [Date] Sat, 6 May 2000 17:23:11 +0900

佐川さん、こんにちは、葛貫です。


ここ2週間ほどリアルワールドの用事で忙しく、レスが遅くなってしまい、
申し訳ありません。

佐川さん【1863】:
> 例えば、みんなが石けんを使って米のとぎ汁を捨てないようにな
> ったとすると、どうなるのか?
> 下水処理場が持っているはずの処理能力を発揮できなくなって
> しまい、BODの非常に高いまま、河川に放流されることになります。

最近、読んだ文献の中に、栄養塩とその比が、湖沼や海域の動植物プラ
ンクトン群集等の組成や多様性にどのような影響を与えるか、という研究
をしているものがありました。
(平成10年度 栄養塩と生物の多様性調査報告書 水産業振興事業委託)
 
水域の富栄養化が過度に進行したり,栄養塩の構成比等がアンバランス
になった場合,プランクトン相が単純化し,赤潮や有害プランクトンの発生
が見られやすくなる傾向が強まるそうです。

TN×TP(富栄養度)、DIN:DIP比(栄養塩比)、DIN×DIP(栄養塩積)、
TN×TP:DIN×DIP(栄養塩利用強度)等の水質要因の影響を受けて、
水域の細菌、植物プランクトン、動物プランクトン、それらの捕食者等の
生物相が変化し、また、逆に発生した生物により、水質環境も影響を受
けるようです。


琵琶湖の植物プランクトンの群集構造は、それほど富栄養化が進んでい
ない北湖では、湖水中の現在より数週間前の窒素量の影響があらわれ
ているそうです。富栄養化が進んでいる南湖では、栄養塩以外の要素が
支配的に働いていると考えられ、現在の植物プランクトン群集は、その後
の水質に影響を与える可能性が考えられるそうです。

対象水域が内湾・湖沼なので、下水処理場とは、勝手が違うかもしれませ
んが、「みんなが石けんを使って米のとぎ汁を捨てないようになった」とす
ると、微妙に保たれていた窒素とリンの濃度のバランスが崩れて、処理に
都合の良い微生物の群集構造が崩壊してしまうのかもしれません。

佐川さん【1862】:
> そういえば葛貫さんは活性汚泥法を研究されていたのですね。
・・・・中略失礼・・・・
> で、嫌気槽のORP(酸化還元電位)の値は、微生物や浄化細菌に
> 対してどの程度影響するのでしょうか?

上記の質問に関する知識を持ち合わせていません。ごめんなさい。

私は、学生時代、菌の化学分類の指標となるキノン類(電子伝達系の一員)
の側鎖のイソプレン数や菌体脂肪酸の組成を分析することで、菌の分離・
同定をせずに、菌叢の変化をみようという研究を、お手伝いさせて頂いてい
ました。何という名前の菌が、増えたとか減ったとかいうことはできませんが、
菌叢の変化があるということを化学分析により示すことができました。
(微生物の生態13 p.125‐138、学会出版センター)

曝気槽中の活性汚泥というと、好気性菌が多いように思っていましたが、
通性嫌気性菌の特徴を示す物質も、結構な割合で検出され、フロックの中等
が嫌気的な条件になっていたり、微小な空間で、酸素を巡る熾烈な(?)競争
が起こっているのかもしれない、と思ったのを憶えています。

前述の報告書では、海水の細菌粒子画分から抽出した16SrRNAをPCR法
で増幅し、制限酵素で切断した断片を、アガロースゲル電気泳動にかけ、
そのパターンから菌叢の比較を試みていました。

変動した菌の名前を具体的にあげないと、何だか落ち着きが悪いのですが、
自然界に存在する全ての菌を分離・同定することは、不可能に思われます。
化学物質を指標とした解析方法が、分離・培養が難しい低栄養細菌や偏性
嫌気性細菌等の動態を調べる手がかりとして、有効に活用されればいいな、
と思っています。分類・同定を専門になさる方が、指標設定の基礎を作って
下さることを期待しています。

キノン類といえば、5月4日のNatureに、嫌気的な条件下で菌体外に低分子
のメナキノン関連物質を放出し、難溶性物質を最終的な電子受容体として
利用する細菌の話が載っていました。
未知の代謝様式がまだまだ、沢山あるのでしょうね。

長くなってしまいました。
佐川さんの質問の答えとして、ピントはずれだったら、ごめんなさい。

中澤さん、【1870】でのフォロー、ありがとうございました。
ニジマスの種苗生産・放流事業が、各地の水産試験場の事業報告書に毎年
載っているので、ニジマスが輸入魚であるという認識を持っていませんでした。
(^^;;

ではでは。



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