[BlueSky: 195] Re:192 技術万能論と自由意志


[From] Ken Goto [Date] Wed, 28 Jul 1999 01:20:11 +0900

小宮さん、青空MLのみなさん。

              後藤@帯畜大です。

ちょっと(大分?)誤解させてしまったようなので、ひとこと申し添えます。

小宮さん【192】:
> >(2)二つの自由(資本の自由競争と個人の自由意志)
> >
> >さて、話を戻します。
> >西洋型テクノロジーの野放しの浸透・拡大という「自由」は、利潤
> >追求の自由であって、個人の自由意志としての自由とは何の関係も
> >ありません。ここら辺を錯覚していると、浸透・拡大の社会的規制
> >に対して、「個人の自由」を侵害するものだ、という錯覚を抱いて
> >しまうということは十分ありうることです。
>
> >西洋型テクノロジーの野放しの浸透・拡大によって、奪われてきた
> >ものはたくさんあります。その、「奪われた」側の個人の自由と人
> >権を想定してみれば、むしろ話は逆なのだ、ということが明らかに
> >なると思います。
>
> >つまり、社会的弱者の個人の自由と人権を奪う形で、「技術の進歩」
> >という利潤追求の自由が尊重されてきた、というのが現実の歴史と
> >なっているわけです。そうであるにもかかわらず、「技術の進歩」
> >に対する社会的規制を「自由意志の侵害」であると感じる人がいる
> >とすれば、その人は、「技術賛美」を絶対善とする無定見、あるい
> >は支配的イデオロギーに対する迎合を表明しているだけである、と
> >いって差し支えないものと思います。
>
> うーん、かなり厳しい御意見ですね(^^;企業に努めて給料をもらって
> いる技術者としては、恥ずかしいばかりです。科学技術の進歩、利潤
> 追求の弊害に対しては僕も同じ意見なのですが、ちょっと西洋イデオ
> ロギーの弁解もしておこうと思います。

僕自身は、社会構造的な問題に焦点を当てているつもりです。ですので、「恥ず
かしい」思いをさせてしまったなら、誠に申し訳ないと思っています。僕自身の
方こそ「恥ずかしい」存在ですから、そのような思いをさせてしまったのです。
それこそ、「恥ずかしい」わけです。

ただ、僕としては、技術万能論がイデオロギーでも何でもなくて、価値中立的な
ことなんだという思い込みが、理工系の方々ばかりでなく、わが国の多くの人々
に共有されているけれど、、、それはほとんど国家イデオロギーの「洗脳」に近
いんじゃないか、という見解を表明したかったわけです。で、もうちょっと昔に
は、全然別の考え方の方が主流であった、ということの例として「我が輩は猫」
を持ち出しておいたのです。

> 西洋イデオロギーをその基本理念とする企業は確かに利益追求第一主義
> で、様々な弊害を生んできました。しかし、これらの科学技術の発展、
> 経済発展の恩恵のことも我々は忘れてはならないと思います。企業に
> よる経済発展は、我々に平和と安定をもたらし、飢餓や貧困を駆逐
> しました。国民全体が飢えて、犯罪者がたくさんいるような社会より、
> 今のこの社会の方がましでしょう。家族と笑いながら暖かい御飯が
> 食べられるのも、とりあえず命の心配をすることもなくぐっすり眠れる
> のも、全て経済発展のおかげ、西洋の技術賛美主義のおかげだと思い
> ます。

ここの事実認識が食い違っているものと思います。
【186】でも申し上げましたが、僕自身、西洋テクノロジーに依存して生物学
の研究を行い生計を立てています。その意味で、全面否定を行うつもりは毛頭あ
りません。

・・・ただし、西洋テクノロジーがなければないで、別の研究課題を見つけたで
しょうから、西洋テクノロジーがなくても「研究者」としてはよかったわ
けです。

そして、栗原さんや須賀さんのような若い方々が、世界を飛びまわって「感動」
を持ち帰ってこれるのも、わが国の高度経済成長があったからこそであることを
忘れているわけではありません。

でも、平和と安全、飢餓と貧困は、まさに西洋イデオロギーの産物である、と思っ
ています。そもそもが、西洋列強による世界征服(植民地侵略)の野望がなけれ
ば、それぞれの民が、ローカルな生活を彼らの掟で楽しんでいた筈なのです。

現在40ぐらいの人までは、容易に「昔の」くらしに戻れる、といわれています。
僕自身、46歳ですが、たびたび申し上げている通り、40年前のくらしの方が
とても豊かだったと思っています。

小宮さん【192】:
> 技術者も、自分は政治家でなく技術者だから…といって何も考えず開発
> するのではなく、自分が世界に与える影響の大きさを常に自覚しなけれ
> ばいけないのでしょうね。例え企業の中では個人の意見は無力であった
> としても。

技術者集団の力はとてつもなく大きいですね。
それはまた、エンジニアの誇りでもありますしね。ただ、そのモノ造りが、個人
裁量ではなく企業利益の中でのことに限定されている点で、職人とは大きく異な
るし、「完全満足」には至らない点でもありますね。

ひところ昔は、企業別労働組合の他に「産業別」労働組合なるものがあったので
すが、何か力があったんでしょうか。札幌の今田さん、何かご存知ですか?

> 後藤さんwrote;
> >このこと(テーマの社会的規定性)は、企業内開発エンジニアの方々
> >を想定すれば、より一層明白でしょう。ある商品(技術)を開発する
> >ことは、社員としての義務(?)というか、上司の命令に背くことは、
> >首きりを意味する、というか、「抵抗」の自由度は、大学教員や国公
> >立研究機関の研究者よりはるかに小さい場合が多いでしょう。
> >
> > ・もちろん、開発の自由度は企業体質に大きく依存していると思い
> > ますが、商品化されるためには企業の利潤目的に適合していなけ
> > ればならない、という意味でも、自由度は小さい。
>
> 少なくとも、企業の中ではある商品(技術)を開発する目的はただひとつ、
> 「利益」ですからね。その枠組み、価値観の中ではある程度自由に開発
> できるかもしれませんが、少なくとも企業の中にいて、世界平和のために、
> とか、環境保全のために、とかの目的で開発はできないと思います。これ
> はどこの企業も同じと思うのですが…もしそうでない方がいらっしゃった
> ら教えて下さい。

ここは、環境保全型の製品開発にどんどんシフトしていくことを期待したいです
ね。帯広の和田さんのように「魚がたくさん住めるような川の設計」(賛同呼び
かけ人のページに「十勝へようこそ」というページがリンクしてあります)をし
ていらっしゃる方々もいっぱいいらっしゃるんだろう、と期待しています。

後藤 健
=========================
帯畜大 生物リズム学 Phone (& Fax): 0155-49-5612

★★★ 青空ML過去ログの全文検索は便利ですよ(↓)。
http://sv2.humeco.m.u-tokyo.ac.jp/bluesky2.html


▲前の記事へ ▼次の記事へ △記事索引へ △青空MLトップへ

(注)この記事が最新である場合,上記「次の記事へ」はデッドリンクです。