[BlueSky: 1834] 硬水で下痢?


[From] samaki@hs.p.u-tokyo.ac.jp (左巻  [Date] Sat, 22 Apr 2000 09:27:52 +0900

 左巻健男@水の本を執筆中 です。
 水の話題が出たついでに、みなさまに質問があります。
 欧米の硬水の水道水で下痢、ということを聞いたことがありませんか?
 わが国では硬度が高いところで160g/l、ところがヨーロッパでは地域に
よっては300g/lの水道水もあります。
 
 ぼくは、次のようにその「硬水飲用で日本人は下痢」に疑問なんですが、
本当のところはどうなんでしょう?



硬水で下痢をするのは本当か?

 「日本のように水道水がそのまま飲める国はほんのわずかです」という
ことがよく言われます。
 その理由として、発展途上国では細菌汚染、先進国では硬度の高さ、が
あげられます。
 海外旅行者がかかる病気でもっとも多いのは下痢です。“旅行者下痢症”
と呼ばれているほどです。その多くは食べ物や飲み物が原因と推測されま
すが、環境の変化、疲労や緊張感なども原因となります。
 私たち日本人が飲めない水には、2つの種類があるといわれています。
 一つは、消毒が不完全で病原菌が入っているものです。
 もう一つが、硬度が高い水、とくにマグネシウムが多くふくまれている
ものです。
 前者は、「水道水でつくった氷もあぶない」「水道水で洗ったコップや
生野菜もあぶない」などと言われます。実際、信用できるメーカーのボト
ルを常にもって歩いて、それを飲んでいた旅行者が下痢をしてから思い起
こすとオンザロックでウィスキーを飲んだなどという話がよくあります。
(環境の変化、疲労や緊張感で下痢をしたのかも知れないのですが。)
 後者は、軟水に慣れきっている日本人が急に硬度が高い水を飲むと腸が
過度に刺激されるからだと言われています。マグネシウムイオンはしばし
ば硫酸イオンと一緒に溶けています。マグネシウムイオンと硫酸イオンと
からできている硫酸マグネシウムは下剤ですから、そんな水を飲むことは
うすい下剤を飲むことになるのです。しかし、「下剤」の作用をもつほど
のマグネシウムイオンをふくんだ水は飲料水にほとんどないでしょう。
 赤痢など水系感染症をもたらす病原菌やウイルスの汚染がなければ時差
ぼけなど疲労、緊張などの心身の不調で下痢をしている場合がほとんどで
はないでしょうか。ヨーロッパのミネラルウォーターのなかには、わが国
のそれと比べて10倍、20倍のマグネシウムイオンをふくんでいるもの
がありますが、それで日本人が下痢をしているという話はありません。
 水道水があぶない地域では、生水では飲まないで、煮沸してから飲むか
信用できるメーカーのボトル水(ミネラルウォーター)を飲むことにしま
す。煮沸することで病原菌を殺します。また、硬度が高いことが原因で味
が合わないといったことも、一時硬水ぶんを沈殿させることで除去できる
ので、味アップになる可能性もあります。

■左巻健男(SAMAKI TAKEO)
■東京大学教育学部附属中等教育学校:化学・理科
■〒164-8654中野区南台1-15-1 電話 03-5351-9050(代)
■電話 03-5351-9659(教官室直通)FAX 03-3377-3415 
■E-MAIL:samaki@hs.p.u-tokyo.ac.jp
■法政大学工学部兼任講師(理科教育)


▲前の記事へ ▼次の記事へ △記事索引へ △青空MLトップへ

(注)この記事が最新である場合,上記「次の記事へ」はデッドリンクです。