[BlueSky: 1532] 生物の多様性とは?  Re:1530  遺伝子操作と農薬 :多様性?


[From] "SUKA, Takeshi" [Date] Tue, 14 Mar 2000 21:15:48 +0900

葛貫さん、一ノ瀬さん、星野さん、みなさん

   須賀(Suka)です。
   (Sugaとお呼びになっても須加とお書きになっても
    わかりますので、気になさらないでください。)

葛貫さん:
> > GM食品の種子は、琵琶湖産アユ種苗のような危険性を孕んでいないでしょうか。

一ノ瀬さん:
> > 孕んでいると思います。
> > ただし、それは、GMというよりは、農業そのものに本質的な問題点です。

確かに近代農法にはそういう面があると指摘されていますね。1950年代から
60年代にかけて途上国の食糧の増産をめざして高収量の改良品種の大規模な
導入をおこなった「緑の革命」についても同じ問題を指摘できると思います。
これについてのつたないまとめを[179]に書きました。遺伝子組み換え作物の
導入をめぐる外国の議論では、こういう方面からの議論もおこなわれているの
ではないでしょうか(たとえば「ワールドウォッチ地球白書1999-2000」)。
もっとも、問題点の指摘の多い「緑の革命」についても、食糧の増産自体への
効果はあったという話をよんだりすると、むずかしい問題だなと思います。

一ノ瀬さん:
> >「旨い米」ブームで、コシヒカリの作付け面積は増え続けてきましたが、これも、
> >種の多様性を減じているという点では、何等差異はありません。

星野さん:
>  コシヒカリの栽培面積はたしかに増加しましたが、コシヒカリを例に種多様性の
> 問題を論じるのは無理がありのではないでしょうか。どの品種も種はイネなので。

なるほど、確かに(笑)。種多様性と生物の多様性はちがう概念(前者は後者の
一部分)ですが、特に生態学や生物多様性の問題に頭をつっこんでいるひとでも
ないかぎり、このあたり、多少の混乱があっても仕方がないと思います。しかし
「種の多様性」を「品種の多様性」とおきかえてよめば、上記の一ノ瀬さんの文
の意味はわかります。

星野さん:
>  Btトウモロコシは、トウモロコシに分類してもよいのでしょうか。Btトウモロコ
> シは形態的には分類されると思いますが、DNAレベルでは別種ではないでしょうか。
>  一ノ瀬さんは種多様性の意味を誤用されているような感じがします。
> こう思うのは私だけでしょうか。どう思いますか須加さん?

「BtトウモロコシはDNAレベルでは別種」これはまた専門的でむずかしい話です
ね(笑)。すでに何度も説明があったのかもしれませんが、わたしにはBtトウモ
ロコシの生物学的特性がよく頭に入っていないので、わかりません。ごめんなさい。

ここでは、話の流れのじゃまにならない程度に、「生物の多様性」と「種の多様性」、
「品種の多様性」などの関係について説明しておきます。

「生物の多様性に関する条約(生物多様性条約)」の名前にもなった「生物の多様性」
には、一般に、「遺伝子レベルの多様性」「種のレベルの多様性」「生態系レベルの
多様性」の3つのレベルがふくまれています。「生物の多様性(生物多様性)」は、
もともと英語ではbiological diversityといい、これを略称してbiodiversityとも
いうようになったものです(意味は同じです)。つまり直訳すると「生物学的多様性
」。
ですから、「生物多様性を保全する」とは、必ずしも種の多様性を保全するということ
だけを意味するわけではありません(それもふくみますが)。生物多様性条約は、
英語ではThe Convention on Biological Diversityといいます。

作物の品種は、ひとつの種のなかの遺伝的多様性の構成要素につけられた名前だと
考えられるので、「種の多様性」というより作物の「遺伝子レベルの多様性」の
問題であろうと思います。星野さんがおっしゃっているのはこのことですよね。
こういう作物の遺伝的多様性を保全することは、そのような作物をつくりだして
きた伝統的文化を守るという意味でも重要だといわれています。

もっとも、考えてみればすぐにわかるように、遺伝子・種・生態系の3つのレベル
にまたがる生物の多様性を保全するとは、ほとんど生物環境の多様性をほとんど
すべて保全することを意味しうるわけで、それを食糧生産その他の人間的ニーズ
といかに両立させるかにはつねに議論がうまれると思います。仮に総論では合意
できたとしても各論にはかならず問題がもちあがる。それについては個別に議論
していくしかないのだろうと今のところわたしは考えています。

このようなところでいいでしょうか(笑)。それではまた。



Takeshi SUKA
Nagano Nature Conservation Research Institute (NACRI)
E-mail: suka@nacri.pref.nagano.jp


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