[BlueSky: 144] Re:142 RE:138 ナショナル・トラスト


[From] Minato Nakazawa [Date] Wed, 21 Jul 1999 13:28:58 +0900

中澤@東京大学人類生態です。こんにちは。

葛貫さん:
> その土地で開かれた自然教室に参加したことがあります。
> 大学生がリーダーとなり、全国から募集した小学生〜高校生と
> 地元の小学校に合宿し、毎年、調査を続け、どのように自然な状態に復元して
> ゆくか、植生等の追跡調査しようという企画があったように記憶します。
おもしろそうですね。小学生のときから継続的に参加したら
毎年発見があって,ものの見方が変わることでしょう。

> クマゲラ、ノゴマ等、お目当ての鳥達に逢えたのは嬉しかったけれど、
> 霧が重く立ちこめ、8月でも気温が17℃にしかならない土地で、崩れかけた廃屋を
> 見ながら植生調査をしていると、このまま迎えのバスがこなかったら、
> 自分達まで草に埋もれてしまいそうな気がしました。
> 都会にいると「自然は守るもの」であるように思っていますが、
> 私達は、偶々、この時代の日本に生まれたから、このような生活をしているのだ、
> 電気、水道等、文明の利器がなかったら、身一つではどれほどのものか、
> 人間って結構、弱っちいものなのかもしれないと実感したのを憶えています。
ぼくも,パプアニューギニアで似たような経験をしたことが
あります。村人のハンティングについて行ったら,鹿を見つけた
瞬間にみんなブッシュの中を走り出して,一人取り残されてしまい,
いつ蛇に襲われるか(パプアンブラックという,わりと大きな毒蛇が
いるのです)とビクビクしながら,道まで(といってもヒトの通行に
よって踏み固められただけの道でしたが)戻ったときの心細さは,
いまでもよく覚えています。本来の自然の中では自分の生命を守る
ためには常に緊張している必要があり,そのせいで逆に昆虫や植物
の多様性がよくわかって,世界はこんなに多様な要素からできている
のか,と実感されて,生が豊かになったような気がしました。

もっとも,こんな感想は,無事に戻ってきたからこそいえるので,
蛇に咬まれて死んでいたら,と考えると,自分の子どもを放り込む
気にはなれません。マラリアのような死亡率の高い感染症が
風土病としてある地域でもありますし,地元住民には,自動車道路を
通して開発を進めることを望んでいる人が大勢います。そうすれば
子どもが病気になってもすばやく病院に連れてゆけるから,という
のです。そのためには多少生物相が貧弱になっても仕方ないと
言う人もいます(多少でなく大いに貧弱になるというのなら,また
反応は違うでしょうが)。なかなか難しい問題と表裏一体です。

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Minato Nakazawa, Ph.D. <minato@sv3.humeco.m.u-tokyo.ac.jp>
Department of Human Ecology, Univ. Tokyo


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