[BlueSky: 1326] 第十堰は多面的な問題


[From] "Takashi Goto" [Date] Mon, 24 Jan 2000 23:31:21 +0900

小宮さん

後藤 隆@環境NPO研究会です。こちらこそよろしく。

小宮さんwrote;
>住民投票を行っておきながら有権者の過半数の投票がないとその開票さえ
>行わない、というのはあまりにも住民の意志をないがしろにしている・・・

おっしゃる通りです。そもそもこの問題には、面子にかけても建設をという建設
省=国の旧態依然とした姿勢に対して、吉野川の災害防止のためには、新
しく可動堰を建造するよりも、250年前に造られた第十堰を補修し、かつ堤防
をかさ上げした方が自然環境に優しく、低コストであるという市民側の論理的
実証的主張が投じられたという技術的側面が一つ大きくありました。

また、可動堰の建造が、民意を無視し、かつ官公庁やゼネコンなど少数者の
利益分配のために行われがちな公共事業の典型例として注目されたという
政策決定過程の見なおしのキッカケ的な面がありました。

そして、有権者の過半数の投票がないと開票しないという前代未聞の常識は
ずれな住民投票が行われることで、反対か、賛成か、どっちに転んでも住民
や全国の怒れる市民に勝利をもたらすという特筆すべき状況となり、全国の
環境市民の注目を浴び、めずらしくマスコミもいいはたらきをしたのです。
賛成派が呼びかけた投票ボイコットは、まさに負のベクトルとなって賛成派自
身の身に返っていきました。

もう一つ付け加えると、地元の専門家の方に言わせれば、第十堰は石造文化
としても重要な歴史的価値があり、これに防災上の機能を持たせつつ保存する
ことは、まさに現代人の使命である、という見方もあるようです。

つまり、第十堰問題は、公共事業とその決定、市民参加のあり方、それらをめぐ
る人間同士の争いだけのほかに、技術文明、歴史・文化、そしてもちろん自然
環境の保全という、日本の環境問題を象徴する多面的な問題なのです。あたか
も「豊島」がそうであるように。

小宮さんwrote;
>一度動き出した大掛かりな公共事業を途中で止めるというのは確かに難しい
>ことなんでしょうけど、公共事業というのが住民のために行われるものである
>ことを考えれば、少なくともその住民の大半が反対しているような公共事業
>はどんなに大変でも 一度見直し、再検討くらいは行うべきではないのでしょう
>か?

この点については、「[1316] Re:1315 愛知万博とトヨタ」で、一ノ瀬さんが痛烈
なトヨタ批判とともに力説している通り(レス送れて失礼)、これまで多くの公共事
業が住民・市民のためでなく、「お上」や「権力者」「建設屋」などのために行われ
てきたことに異論をはさむのは、かれら自身か、または国の治水政策で一命をと
りとめた当事者くらいのものでしょう。

皮肉なのは、北海道の「時のアセスメント」のように、不況とそれに伴なう自治体
の財政縮減が公共事業の見なおしや中止につながる事例がままあることです。

ぼくは、かつてエジンバラ公が指摘したように「熱しやすく冷めやすい」日本の
環境保全運動を、公共事業の分野で今後いかに継続させて行くかを、今考える
べきだと思います。この点については、いい知恵があんまりないんですが。

ではまた。

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後 藤   隆 [ Takashi Goto ]
[mailto:takapi-@sf6.so-net.ne.jp]
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