[BlueSky: 111] 食べ物やタバコからのダイオキシンリスク


[From] Minato Nakazawa [Date] Fri, 16 Jul 1999 11:29:29 +0900

中澤@東京大学人類生態です。

環境汚染物質のリスクアセスメントというと
中西準子さんの「中西準子の個人ページ」
http://env.kan.ynu.ac.jp/~nakanisi/
と安井至さんの「市民のための環境学ガイド」
http://plaza13.mbn.or.jp/~yasui_it/
がお薦めサイトだと思いますが,後者の昨日付けの記事「ダイオキシン
サマリー(摂取量編)」を読んで感心したので紹介します。

先頃ダイオキシンの1日当たりの許容摂取量(TDI)が改訂されましたが,
そこで元にした資料について,安井さんのサイトには次のようなデータが
あります。

1日当たりのダイオキシン摂取量(TEQとして)は,魚介類からが1.506 pg/kg
(食べる人の体重1 kg当たり1.506 pg[ピコグラム=1/1000000000000グラム]),
肉・卵からが0.417 pg/kg,乳・乳製品からが0.188 pg/kgで,他の食品群からは
それ以下です。飲料水からは0.0004 pg/kgだそうです。大気からは0.165 pg/kg,
土壌からは子どもで0.22 pg/kg,大人で0.044 pg/kgとなっています。合計すると
約2.6 pg/kg/dayとなります。

一方,TDIは,体内に蓄積されたダイオキシンが86 ng/kg(体重1 kg当たり86 ng
[ナノグラム=1/1000000000グラム])という体内負荷量を超えると何らかの異常
がでるとして,これだけの体内蓄積量になるには43 pg/kg/dayの一日摂取量が
必要であることを根拠に,安全係数(安井さんによれば不確実係数が正式との
こと)を10として4 pg/kg/dayと計算されています。

2.6は4より低いからまあ安全だというわけです。この辺の計算については,
安井さんのサイトに懇切丁寧に書いてありますが,仮定はいろいろあるものの
現状ではかなり合理的な算定だと思いました。

安井さんは,昨日の記事で,TDI評価に使われなかったデータとして,タバコ
からのダイオキシンを指摘し,吸収率が25%と仮定しても1日20本吸う人では
4 pg/kg/day取り込むことになると推定しています。

しかし考えてみればタバコなど,トレス海峡諸島民や南米インディオなど
何千年も吸ってきています。それでも彼らは絶滅しなかったわけです。
ということは,自然界にもともと存在するものを燃やして発生する程度の
ダイオキシンなら,それほど危険ではない,ということにならないでしょうか。

ゴミ焼却場からとか,除草剤からのダイオキシンのような,桁違いの高濃度
のダイオキシンは危険だとしても,直接汚染されていない食物やタバコなどは
気にしなくても良いように思います。母乳も同じだと思うのですが。

ま,実は安井さんもその辺は書いていて,(生殖毒性はわからないので)
妊婦以外は食物やタバコを気にする必要はないだろうと提言しています。

大事なことは,危険だ危険だと騒ぐことではなく,正確なデータを元にして
リスクアセスメントをすることだと思います。皆さんは,どう思いますか?

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Minato Nakazawa, Ph.D. <minato@sv3.humeco.m.u-tokyo.ac.jp>
Department of Human Ecology, Univ. Tokyo


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