[BlueSky: 986] ブラックバス


[From] Minato Nakazawa [Date] Fri, 08 Oct 1999 18:52:33 +0900

中澤@東京大学人類生態です。ブラックバス関連でjeconetからいらした皆様,
こちらでもよろしくお願いします。生物多様性研究会の皆様,もしいらして
いたら,是非発言してください。

先日,秋月岩魚「ブラックバスがメダカを食う」宝島社新書,という本を
読みました(書評は下記)。
http://sv2.humeco.m.u-tokyo.ac.jp/~minato/cgi-bin/bookres/19990922135557.html

いくつか疑問な点はあるものの,ブラックバスをはじめとする外来魚を内水面に
放流することは生態系保護の立場からは良くない,という点では,この本の主張
には原則的には同感です。

しかし,水産大の水口憲哉さんの発言とされている「日本の湖沼は昔からの放流
事業ですでに釣り堀化しているから,バス問題は環境破壊というより経済の問題」
「日本の内水面漁業は放流事業無しにはもはや維持できなくなっており,その
意味では日本全国が<釣り堀化>している」にも一理あると思います。

本書では,放流が影響を与えるかもしれない「自然」は細々と生き残っている
のに,研究者がこういう発言をすると,放流派が元気づいて,そういうところ
まで放流が行われる危険がある,といっていますが,おそらく水口さんの発言
は,内水面漁業が行われるようなところを念頭においたものなので,文脈が違う
わけです。

もし,生態系保護を放流反対の論拠にするならば,メダカのいる川を増やそう
という放流にも,漁業のためのワカサギやアユの放流にも反対せねばおかしい
ことになります。ブラックバスを特別視する論拠は,ブラックバスの繁殖力の
強さとフィッシュ・イーターとして被食魚に対する影響の大きさもありますが,
この本では,密放流の違法性を最大の論拠としています。そうであるならば,
経済の問題だという指摘はもっともです。

バス関連産業やバスプロという人々が,これほど短期間に増えたのは,なにか
「しかけ」というか,計画性を感じますが,そうであるならば,まさに経済の
問題でしょう。

一方,「バス釣りに行って自然に接する」という本質的にはおかしなことを
実感としてもっている人が既に存在するのならば,今からバス排除をするのは,
もしかしたら社会的自然破壊になってしまうかもしれません。この辺り,いろ
いろな視点で難しい問題を含んでいると思います。パッと思いつくだけでも,
内水面漁業における放流の問題,内水面は誰のものかという問題,放流が生物
多様性に与える影響をどう考えるかという問題,バス釣りあるいは釣りという
趣味をどう考えるかという問題,などが浮かびます。

青空MLで話し合うのに格好の話題ではないかと思い,jeconetと生物多様性
研究会宛にメールでお誘いしてきました。いろいろなご意見を期待しています。

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Minato Nakazawa, Ph.D. <minato@sv3.humeco.m.u-tokyo.ac.jp>
Department of Human Ecology, Univ. Tokyo


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