[BlueSky: 721] 完全変態生物について2


[From] "nobuaki" [Date] Thu, 2 Sep 1999 15:23:20 -0600

青空な皆さん、ゲンゴロウさん、こんにちは。
川口伸明です。
[BlueSky: 702] 完全変態生物について の続編です。

ゲンゴロウさん wrote:
>ここからが、妄想です。
>昆虫の変態は、かつて二つの別の生物だったものが、
>一つの種になってしまったのではないかと。。。
(中略)
>青虫は卵からふ化して、「さなぎ」までの間をもらって死ぬのが一生で、
>蝶は「さなぎ」からの後が一生。
>「青虫生物」と「蝶生物」とは、双方とも、昔はぜんぜん違う
>形態そしていて別々の進化を遂げた結果が、
>「青虫のような生物」と「蝶のような生物」になったのではないでしょうか?

幼虫も蛹も成虫も、働く遺伝子の組合せこそ異なりますが、DNAは同一です。
また脳神経系も幼虫から蛹を経て、成虫に受け継がれますから、同じ個体です。
よって、「異なる2つの生物が合体した」のではなく、「同一のゲノム(遺伝子
集合)から異質の2つの生活形が作られる」と考えた方が分かり易いのでは?
# 私はこの事実の方に遥かに驚きを感じます。

私の研究では、幼虫から摘出した成虫原基をシャーレの中で形態形成させる実験
を行い、生体防御蛋白の Sarcophaga lectin が成虫原基からの正確な形態形成
に必須であることが示されたのですが、同一の分子種(Sarcophaga lectin)が、
このハエの卵からの胚発生、幼虫における生体防御、蛹内での形態形成、成虫に
おける生体防御に共通に関与していることから、私達の研究室では「高等生物の
発生過程は、生体防御と共通のメカニズムを持つ」というコンセプトを持ってい
ました。

以下は私個人の全くの妄想であり、科学というより文学として捉えて頂きたいの
ですが、私は個体発生のみならず系統発生においても、「生命システムは本来、
環境変化に応じて生活形を劇的に変化させる」性質を内在しているのではないか
と考えています。環境の変化に対応して、ゲノムは変わらなくとも、発現する遺
伝子群を再編成することで、それまで安定していた表現形(姿や機能)を根本から
変えて、新しい環境を生き抜いていく...
私は、昆虫の変態は、進化プロセスを考えるヒントになるのではと想います。
昆虫の変態は個体発生の中で起こりますから、ゲノムは変化しませんが、系統発
生の中で起こるゲノムの再編を伴なった表現形の劇変が進化ではないかな?
ある種が絶滅して新しい種が出現する(ように見える)のも...などと夢想してま
す。

# 琵琶湖博物館長の川那部浩哉先生も昆虫の変態と進化を関係づける話を、やは
り、妄想(だったか?)として多様性に関する本の序に書かれてましたね。
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Nobuaki Kawaguchi, Ph.D.
http://www.geocities.co.jp/WallStreet/2101/nob.html



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