[BlueSky:06812] Re: 休耕農地の耕作再開と生物多様性の保全


[From] "SUKA Takeshi" [Date] Mon, 28 Jun 2010 00:31:49 +0900

今枝さん 横山さん 青空メーリングリストのみなさん

すばらしいご返事をいただき、ありがとうございます。今枝さん、横山さん、お二人
のご意見に、向かうべき方向みえたような気がしました。啓発されて、以下のような
ことを考えました。

まず説明不足であったかも知れない点について補足させていただきます。今回耕作が
再開された場所は、知人が教えてくれた場所、わたしが見た場所のどちらも、完全に
耕作放棄されていたわけではありません。どちらも農家の手で火入れなどによる管理
が継続され、野草地(半自然草地)として維持されていました。そこが草原性の希少
種の生育地となっていたわけです。完全に耕作放棄されていれば、森林化がすすんで
それらの希少種の生育にも適さない環境になっていたと思います。その意味で、これ
らの場所は、広い意味での農業生態系の一部として保たれていたわけですが、耕作は
されていなかったわけです。昔の「粗放な」農業のやり方をしていたころは、放牧地
や採草地などのかたちでこのような環境が里山に広くみられたのだろうと思います。
この点は横山さんのご指摘にもつながります。

そのうえで、このような環境をまもるために国家戦略レベルでの言及にとどめるので
はなく法律をつくるべきだとの今枝さんのご指摘、また行政よりも前に生産者と消費
者でスクラムを組むことを先行させるべきだとの横山さんのご指摘、どちらにも深く
うなずかされました。

今枝さんのご指摘のように、国家戦略には行政の行動をしばる拘束力があまりないの
ではないかと思います。それでも地方行政のレベルで生物多様性の保全のような新
規・かつ弱小な分野の取り組みをすすめる上では、たとえ法的拘束力がなくとも、行
政の事業体系のなかに何らかの位置づけ・言及が少しでもあると、その運用のなかで
行政にできることが出てくるというメリットがあるのも事実だと思います。位置づ
け・言及がまったくない分野について、(ことに事業仕分けがすすむ昨今)行政は事
実上なにもできませんし、むしろそれが障害となることもあります。とはいえ今枝さ
んのご指摘のように、法律での位置づけがあると行政のさらに動きは明確になりま
す。生物多様性国家戦略に関連しても、外来生物法・カルタヘナ法の制定、自然公園
法・鳥獣保護法の改正などがありました。生物多様性基本法ができ、生物多様性国家
戦略2010はその基本法にもとづく法定計画となりましたので、新しい法律の制定に向
けての根拠としての重みは増したと思います。どのような法律が必要か、また望まし
いかは、今後考えていかなければなりませんね。

一方、行政、財政ありきで進むと隘路に迷う事になる、生産者と消費者のスクラムが
最強だとの横山さんのご指摘には、この分野で豊富な経験と実績をふまえておられる
と思われるだけに、信頼すべき指針としての重みを感じさせられました。わたしがこ
れまでかかわってきた生物の保全の問題の多くは、里山の雑木林や比較的長くつづい
た草原が生息地でした。そのため今回のように耕作地としても利用される場所の場合
に生産者だけでなく消費者をもまきこんだ活動に大きな可能性があることが、実体験
に裏打ちされた知識としては身についていないところがあります。今回のケースは、
農家の手で維持されてきた「半自然」の生態系にどのような社会的・経済的な価値を
みいだし、それをどのように具体的なかたちにしていくのか、という課題でもあるの
ですね。確かに、まずその実質の部分ができないと、行政・財政だけを先に動かすの
はむずかしいでしょうね。まだ現場のリサーチも十分でありませんので、まずはそこ
をしっかりやりつつ、横山さんのお示しくださった方向でできることを、地域のみな
さんと一緒に考えていきたいと思います。

ありがとうございました。
                        須賀 丈







-----Original Message-----
From: jce00700@nifty.ne.jp [mailto:jce00700@nifty.ne.jp]
Sent: Thursday, June 24, 2010 12:59 PM
To: post@bluesky-ml.org
Subject: [BlueSky:06811] Re: 休耕農地の耕作再開と生物多様性の保全

須賀さん、青空MLの皆さん

いつも変わらぬ環境への視線と問題提起に敬服を禁じえません。

耕作放棄地が希少生物の生存のかけがえのないサンクチュアリ化している
という話には、現代農業の抱える問題の一端を如実に物語っている感がい
たします。

そこでは山林と農耕地、その間を取り持ちながら双方の多様性を維持して
きた里山という自然環境利用の知恵の素晴らしさを思い起こさせてくれる
気がいたします。

私が今関わっている活動として、農耕地の生物多様性を維持する事が却っ
て農業の持続的生産に寄与するのではという考え方に基づく取り組みです。

http://www.npotambo.jp/2010/pdf/ramfesta-21.pdf
http://www.jgoose.jp/tanbo/

などをご覧ください。
長年にわたって、田んぼの生き物を見続けてきた篤農家が行き着いた考え
のようで、それが消費者の共感を呼び、今、佐渡のトキの故郷づくりや、
兵庫のコウノトリと農業の共存の活動に波及しようとしています。

私も、地上生物の多様性と、土壌微生物の多様性とのコラボで参画させて
いただいています。10月の名古屋会議では始めて世界に向けてアピール
します。

須賀さんの周りの貴重な耕作放棄地の事例は、しっかり調査して、その価値
を無くさない形での耕作再開のし方を生態学者と生産者相互に知恵を出し
あう形を模索してはいかがでしょうか。その時、賢明な消費者の方々に一枚
加わってもらうことが成功の秘訣かもしれません。先行する宮城、新潟、
兵庫の事例がそれを教えてくれていると思います。

行政を動かすのはその後だと思います。行政、財政ありきで進むと必ず隘路
に迷う事になる気がいたします。生産者と消費者のスクラムが最強です。

COP10名古屋の会場でお会いできると良いですね。では

横山


----- Original Message -----
>Date: Wed, 23 Jun 2010 00:13:16 +0900
>From: "SUKA Takeshi" <sayasuka_380878@kce.biglobe.ne.jp>
>Subject: [BlueSky:06809] 休耕農地の耕作再開と生物多様性の保全
>To: <post@bluesky-ml.org>
>
>
>青空MLのみなさん
>
>この春、休耕農地の耕作が再開され、希少種の生育地となっていたその環境が壊滅

>な打撃を受けた。最近、わたしのすむ長野県内の知人からそういう話をききまし
た。
>はっきりとはわからないが、最近すすめられている戸別所得補償制度と関係がある

>ではないか、知人はそう推察しています。わたしも県内のかなり離れた別の場所
で、
>過去十数年耕作されない状態で野草地として維持されていた場所が、最近半分くら

>畑に戻されているのをみました。
>
>耕作されることもある、という土地利用自体が悪いわけでは必ずしもなくて、利用

>れるときがあることを見越して休ませながら適度に管理された状態で維持されてき

>ことが、これらの場所では生物の生息環境としていい状態をつくりだしてきたのだ

>思います。
>
>ヨーロッパでは、集約的な農業が生物多様性をそこなうのに対し、伝統的でより粗

>な農業のやりかたには生物多様性にプラスの側面があるとして、農業の粗放化を奨

>し、それに対して補償をおこなう制度があることをきいたことがあります。そうし

>方向で考えて、日本でも実現可能なやりかたをあみだしていくことはできないで
しょ
>うか。
>
>それには、生産者や納税者としての市民の理解とともに、行政では農政と環境、財

>などの部局が連携することが必要なのではないかと思います。現在、策定の取り組

>がすすんでいる生物多様性地域戦略のなかで、そうした行動計画がつくられるよう

>ならないかなとも考えます。生物多様性国家戦略では、このことはどのようにあつ

>われているのでしたっけ? ヨーロッパの制度を勉強して、日本の制度にどのよう

>生かしていくかを考えることも必要ですね。
>
>唐突にひとりごとのような投稿をして恐れ入りますが、いいお知恵がありましたら

>聞かせください。よろしくお願いいたします。
>
>                        須賀 丈
>
>






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