[BlueSky:06756] Re: キングペンギンの給餌と採餌


[From] 稲垣 武司 [Date] Thu, 26 Feb 2009 22:16:03 +0900



 久方ぶりです。皆様の投稿は、いつも興味深く拝見しております。

 さて、このたびの大塚さんのご投稿の件、わたくしも、動物園での解説としては少
し不適当なような気がします。
 百歩譲って、自然界でそのようなことが起こっているとしても、動物園で飼育係の
方が一匹ずつ手渡しで餌を与えるのなら、全ての個体が満腹(腹八分目)になるよう
に与えるのが、適切ではないでしょうか?
 それを、このような解説で済ませてしまうことに、人間の世界での弱者の切り捨て
を容易に納得させてしまうことになるのではないかとの危惧を抱きます。
 また、わたくしのような職種・職歴を持つ人間がそれを認めてしまっては、自己の
否定に直結してしまいそうです。
 現状、わたくしは病院の厨房にいますが、ここでは強い個体が優先的に食を与えら
れると云うことは起こりえません。
 栄養士さんや私ども調理師の管理の下、厳密な食の管理を行うことを目標としてお
ります。(まぁ、治療食ですから、当たり前と云えば当たり前なのですが)
 わたくしの職場は、精神病棟もあり、デイケア・ナイトケアと云った短期の介護も
あります。ので、病棟で食事をされる方ばかりではなく、食堂にきて食事をされる方
も大勢います。
 そのような場合、希に(あるいは食事の形態によって)ではありますが、先に大塚
さんのご投稿にあったペンギンのようなことが起これ得ます。(そうならないよう配
慮するのが、看護師さんや現場に立ち会うわたくしたちの役目なのですが)
 また、経済的なものや家庭環境などの理由で、売店などで自由に嗜好品を入手でき
ない方もいます。(医師に止められている患者さんは論外ですが)
 職場の栄養士さんは、そういった方のために、ある意味偏った献立を故意に作るこ
とまでしてくださいます。
 大塚さんのご投稿にあったような解説の仕方をされると、(特に子供達が)誤解と
偏見に染まってしまい、我々の仕事の意義を、否定されるのではないかと、思ってし
まいます。



-----Original Message-----
From: OTSUKA Kimio [mailto:otsuka@kais.kyoto-u.ac.jp]
Sent: Thursday, February 26, 2009 3:02 PM
To: BlueSky ML
Subject: [BlueSky:06755] キングペンギンの給餌と採餌

大塚です

 先日、大阪の天王寺にある動物園に行った折、ペンギンに餌を与えるのを見る
ことができました。
 キングペンギンには飼育係がアジを一匹ずつ手渡しで与えていました。5頭い
るキングペンギンは集団で行動していました。飼育係に近づいていくときも5頭
一緒に近づき、一部の個体が満腹して立ち去る時も三々五々ではなく5頭一緒で
した。
 1つずつ与えるので、大きくて強そうな個体が食べて、小さい個体はそれを見
ているというのが続きました。何頭かが満腹すると、満腹した個体だけでなく、
まだ餌にありついていない個体も一緒に一斉に立ち去りました。小さい弱い個体
は空腹のまま夜を過ごすのだそうです。

 これについて、飼育係は「人間でも動物でも強者がうまいものを手に入れ弱者
は我慢せざるを得ないのだ」というような解説していました。

 しかしそのような考えは、"Winner takes all" を是とする風潮に毒されたも
ので、ペンギンの採餌の解説としては適切ではないと思います。上記のような給
餌をすると、複数のペンギンが一匹の魚を争うというシチュエーションの繰り返
しになるため、相対的に強い個体ばかりが餌にありつくことになりました。
 しかし、野生のペンギンが採餌をする時には、餌の魚の方がペンギンよりもず
っとたくさんいるのではないでしょうか。そういう状況下ではペンギン個体間の
相互作用があまりない状態で、採餌量の個体差も小さくなり、強い個体ではなく、
魚採りが上手な個体がたくさんの餌にありつくことになると思います。もしかし
たら大きすぎると小回りがきかなくなって魚を捕まえるのは苦手になってしまう
かも知れません。
 
 「100年に一度の危機」をもたらした新古典主義的な思想ですが、意外なと
ころまで影響が及んでいると感じました。

 みなさんはどう思われますか?

--
大塚公雄
otsuka@kais.kyoto-u.ac.jp
kimio-otsuka@nifty.com
どちらに出していただいても読めます。
(@を半角にしてください)




▲前の記事へ ▼次の記事へ △記事索引へ △青空MLトップへ

(注)この記事が最新である場合,上記「次の記事へ」はデッドリンクです。