[BlueSky: 666] Re:634 昆虫標本のこと


[From] kohnok@m1.cosmos.ne.jp (KOHNO, Katsuyuki) [Date] Mon, 30 Aug 1999 17:35:16 +0900

喜多様,皆様

今まで,建設的な発言をしていませんでしたのでやや反省の念をこめながら発言します。

1)標本の意味
 『昆虫の標本』に対するこのMLでの発言には,その目的や意義に関して誤解してい
ると言わざるを得ないように感じる発言もあります(605, 614, 628, 639, 643)。個
々に関してコメントしたいのですが,時間その他の制約のため,残念ながら今の私に
は無理です。しかし,「採集した場所や日付けや採集者名などのデータが記されたラ
ベルが付けられていなければ,それは標本としての価値は無い」ことは断言しておき
ます。ただ針で刺しただけのものは標本とは呼べませんし,私は今までの議論の中で,
標本とは採集した場所や日付けや採集者名などのデータが記されたラベルが付けられ
たものであるとして発言しております。その点,誤解ありませんよう,お願いいたし
ます。
 標本についてさらに詳しくは,『昆虫採集学』(馬場金太郎・平嶋義宏 編,九州
大学出版会,1991年)という教科書的な書物に,昆虫採集や標本作成に関わることに
ついて総括的にまとめられていますので,このMLでの私の発言に対して反感を持たれ
た方や,疑問を持たれた方には,是非とも目を通していただきたいと思います。正し
く作成された標本は,少なくとも「目障りだから」という理由で叩き潰されゴミ箱に
捨てられたゴキブリよりは,価値が高く,役に立つものであることは理解していただ
けると思います。
 私は,やや意図的ではありますが,昆虫採集擁護の立場から発言しました(608, 62
5)。が,私の気持ちとしては日野さん(609)と近いところにありますので,ここに明
言しておきます。

2)針を刺すこと
 このMLには『昆虫の体に針を刺すこと』が問題であるというような発言(605, 614,
615, 620)もありましたので,それについてだけは簡単にコメントします。昆虫の体
に針を刺すのは,標本として利用するために取り扱い易く,簡便な方法であるからで
す。もっと,良い方法は無いかという発言(614)もありますが,私には針を刺す方法
が現時点では最善と思われますので,それ以上のアイデアは現時点ではありません。
『昆虫採集学』第7章に標本の作成保存にかかわる記述がありますので,それをご理
解いただいた上で,より良い提案をいただければ幸いです。

3)昆虫を殺すこと
 昆虫を殺すことに関しては,個々個人の宗教観,倫理観と関わる問題ですので,合
意を得ることは不可能だと考えます。私としては,標本(ただ針で刺しただけのもの
は標本とは呼ばないことに注意)として利用可能で価値ある形として残されるならば,
許される範囲だと考えています。

4)アマチュア研究者の価値と標本
 近年,都道府県単位で,昆虫の目録が作成されています。昆虫の目録は,その地域
に棲息する昆虫を記述したものとして,環境評価の面からも利用価値が高いものと考
えられます。この昆虫の目録は,その多くがアマチュア研究者がボランティアとして
参加し作成されたものです。目の前にいる虫の名前を知ることが困難であることは,
その作業を始めたらすぐに理解できると思います。目録作成に関わるその困難な作業
は,アマチュア研究者のボランティアによって完成されました。この作業には,標本
は欠かせません(その意味については『昆虫採集学』等の書物をご覧下さい)。標本
作りは始めは誰もが初心者です。その入り口を閉ざすこと(標本作りを否定すること)
は,環境評価のための技術者を失うという点で,危惧されるべきものだと思います。

5)環境評価と昆虫採集
 環境評価に昆虫が利用されるのは,(1)陸上なら至る所にいる,(2)種数が多
い,(3)捕獲が比較的容易である,などの理由が上げられると思います(もっとあ
ると思いますので,補足していただければ幸いです)。したがって,その気になれば
初心者でも作業ができます。しかしながら,欠点としては,『特定の分類群を除けば
名前を知ることすら困難』であることが上げられます。これは『(2)種数が多い』
ということの裏返しです。
 ここでも標本作成の必要が出てきます。現場では名前を知ることができなくても,
また,自分では名前を調べあげることができなくても,標本が作成してあれば,後か
ら専門家によって名前を調べてもらうこと(同定)が可能です。標本が無ければ話に
もなりません。

 まだ,書き足りないですが,とりあえずは,これまでにします。
 反論は歓迎しますが,「木を見て森を見ず」的な反論は歓迎しません。

河野勝行@石垣島


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