[BlueSky: 655] Re:644 デビュー+ RE612,585 集団生物とことば


[From] Minato Nakazawa [Date] Sun, 29 Aug 1999 16:10:01 +0900

中澤@東京大学人類生態です。
こんにちは。

(件名:[BlueSky: 644] デビュー+ RE:612 Re:585 集団生物とことば に於て)
Fri, 27 Aug 1999 16:43:26 +0900頃,Yumiko Hayashiさん:
> 全く素人考えで、ここに出すのをはばかられるんですが、アマゾンのインディオ
> は、もともとここにいた人たちではなくて、どこかから来たんだろう、、と。
> では、それはいったいどこから、どうやって、どうして、、、?
すべての科学はそうした素朴な疑問が出発点になっていると
思います。科学者にもそういう疑問をもった人はやっぱりいて,
いろいろな仮説が提唱されています。仮説の根拠は,林さん[644]
が書かれた顔の形態,言語,識@さん[651]が書かれた遺伝的多型,
考古学的遺物といったものです。

10年くらい前に,「先史モンゴロイド」という巨大プロジェクト
があったのですが,その成果が「モンゴロイドの地球」という本
にまとめられています。第5巻「最初のアメリカ人」大貫良夫編
(税込み2678円,1995年,東京大学出版会)が,南北アメリカ大
陸へのヒトの移動についての説明としてはよくまとまっていて
読みやすいと思います。識@さんが書かれたように,無氷回廊を
通ってアジアから北米へ,さらに北米・南米のいいところを駆け
抜けるようにしてサンチャゴまで到達した,という説が主流です。

> もし、北米から更に南下を続けてたどり着き、その膨大な時間の中でそれぞれの通
> 過地点の環境に順応しつづけて、身体的特徴が変化していったという説明になるので
> しょうか。
ボリビア・アンデスに住むケチュアと呼ばれる人たちの,樽型胴
(barreled chest)という膨らんだ胸郭は,高地適応といわれて
います。厳密には,その環境で生き残りやすかった身体特徴が
残ったという言い方をします。

> それとも、コンチキ号がのように、太平洋を横断してやってきたのでしょう
> か???
1万年以上前の太平洋諸島民には,遠洋航海をする力はなかった
といわれています。3000年くらい前にポリネシア各地に拡散した
人たちなら,卓越した航海技術をもっていたといわれているので
南米まで行けたかもしれませんが,もしそういう人たちがいたと
しても,彼らは最初のアメリカ人ではありません(1万年以上
前の遺跡があるため)。でも,現在の南米インディオが1万年
以上前から生き残ってきたという証拠もないので,林さんの疑問
については,わからないとしかいえないと思います。

> なんだか、こういう下らない疑問はどうかと思いましたが、もしかすると文化人類
> 生態学のカバーする領域ではないかと、、、。もし、参考になる本などあったら、ご
> 紹介いただけると嬉しいです。
えーと,人類生態学と文化人類学は違います,念のため。
古モンゴロイド人骨の歯にスンダドントとシノドントの2つの
形態があることから,南北アメリカ大陸から出土した歯を
詳細に検討して,3回の移住の波があったとしている,
クリスティ・G・ターナーII「歯が語るアジア民族の移動」
(別冊日経サイエンス「現代人はどこからきたか」馬場悠男
編,1993年,2300円,日経サイエンス社)も面白いです。
#なお,この辺りの学問的な話なら,ほとんど流量のないjinsei-ml
#というのがありますので,そちらの方が向いているかも
#しれません。http://sv2.humeco.m.u-tokyo.ac.jp/jinsei.html
#をご覧ください,参考まで。

> また、過去ログの205(後藤さん)の、貧困についてなど、とても興味深く拝読し
> ました。
> ブラジルの絶対的貧困層、巨大な貧富の差、貧困とエコロジーについてもいろいろ
> と意見交換、議論したいと思います。
大きなテーマなので,ゆっくりで構いませんが,ご紹介くだされば幸いです。

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Minato Nakazawa, Ph.D. <minato@sv3.humeco.m.u-tokyo.ac.jp>
Department of Human Ecology, Univ. Tokyo


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